本社で36協定を届け出るだけではダメなのですか?
宮田部長は先日、同業者の会合で仲良しの総務部長さんから、労働基準監督署の調査が入り36協定の届出がないという指摘を受けたという話を耳にした。「当社は大丈夫だろうか?」と不安になり、大熊社労士に確認してみることにしました。
宮田部長:
当社では、毎年1月1日を起算日とした36協定を作成していますので、そろそろ準備に取りかかろうと考えています。その前に先日、知り合いの総務部長さんから、労働基準監督署の調査が入って36協定の届出がされていないと指摘を受けたという話を聞きました。本社では、毎年必ず届出を行っていたようですが、どこに問題があったのでしょうか。
大熊社労士:
たぶん調査の対象となった事業所で、36協定の届出がされていなかったのでしょう。そもそも労働基準法の適用単位は事業所ごととなっています。つまり、支店や工場がある企業は、本社、支店、工場といった単位で取り扱い、それごとに36協定を締結し、届け出る必要があります。
宮田部長:
なるほど、企業単位ではないということですね。当社の場合、本社と工場とが同じ場所にある場合は、問題ないと理解してよいでしょうか。
大熊社労士:
問題ありません。同じ場所にあるものは原則として一つの事業となります。もしも、工場と本社の場所が離れていれば、本社も工場も別個の事業場となります。
宮田部長:
今後、別のところに工場を作ったり、新たに営業所を設けたりすれば、工場や営業所単位で36協定を締結する必要があるということですね。
大熊社労士:
その通りです。工場や営業所単位で、その事業場の労働者の過半数を代表する者と36協定を締結することになります。ただし、場所的に独立していても、規模が小さい場合(例えば零細な店舗や出張所)で独自の労務管理が行われていない場合は、直近上位の中に含めて扱うことになります。一方、同じ場所にあっても、まったく労働の態様が異なり従事する労働者も労務管理も区別されているときは、異なる事業所として扱うことになります。
宮田部長:
事業所ひとつを判断するにもいろいろと考えなければなりませんね。
大熊社労士:
一つの事業場であるか否かについては、場所的同一性、作業組織としての継続性・関連性、作業の一体性の有無を総合的に判断して決めることになります。
宮田部長:
事業所の多い会社は大変ですね。しかしなぜ、本社だけで一括して36協定の締結をすることができないのでしょうか。
大熊社労士:
そもそも36協定は、本来労働させてはならないと禁止されている時間外および休日の労働について、労働者代表との協定によってその範囲内で労働することを許すというものです。時間外労働は、本来臨時的なものとして必要最小限にとどめるべきものと意識した上で、労使が締結することが望まれます。それだけに事業所ごとに、必要な時間外労働の時間数を考えるということが重要になってきますね。実際、地域の違い、本社と工場といった働き方の違い等によって、時間外労働の必要性は異なってきます。ですから、事業所ごとに36協定を締結することになっているのです。ただし、本社で締結して一括で届け出ることができる場合があります。それは、各事業場における労働組合の組織が過半数を超えているときで、本社で締結された協定の内容が、各事業場においても同じであるものについてです。この場合、本社が各事業場分を一括して監督署に届け出ることができます。
宮田部長:
毎年36協定を作成する際に、昨年のものを参考に作成していましたが、それでは意味がないことが分かりました。これを機に、36協定について基本を勉強したいと思いますので、じっくり教えてください。
大熊社労士:
分かりました!
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は36協定の締結単位について取り上げてみました。そもそも36協定を締結することで、どのような効力があるのでしょうか。この36協定は、個々の労働者に残業を義務づけるものではありません。36協定の締結は、残業をさせても会社は刑事罰を科されない(刑事免責)という意味があるだけに過ぎません。会社が社員に残業を命じるためには、2つの条件があります。まず、事業所ごとに36協定を結び、労働基準監督署へ届け出ることです。そして、就業規則や労働契約の中で、時間外労働を命じることがある旨を明示しておくことです。こうすることで社員は残業命令に従う義務を負い、それに従わない場合は就業規則に基づいて懲戒処分の対象とすることができます。
[関連条文]
労働基準法第36条(時間外及び休日の労働)
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、1日について2時間を超えてはならない。
[関連通達]
昭和22年9月13日発基17号
事業とは、工場、鉱山、事務所、店舗業の如く一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいうのであって、必ずしもいわゆる経営上一体をなす支店、工場を総合した全事業場を指称するものではない。
[参考判例]
日立製作所武蔵工場事件 最高裁一小 平成3年11月28日判決
労基法(中略)32条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる36協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする。
関連blog記事
2007年02月08日「時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/52082070.html
(福間みゆき)
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