勤務時間外にアルバイトしている社員の対応はどうすれば良いでしょうか?

 年明け早々から、うつの症状のある社員への対応で苦慮していたが、やっと休職の運びとなり、服部社長も一安心。ところが、また社内で困ったことが発生したと宮田部長より大熊社労士に電話が入り、急遽訪問することになった。



宮田部長:
 年始から続けて問題が発生し、大熊先生には何度も当社まで足を運んでいただきまして、本当に申し訳ありません。
大熊社労士:
 いえいえ、いいですよ。お気になさらないでください。こうした問題解決をし、また再発防止などの措置を提案するのが私の仕事ですから。で、今回はどのような問題でしょうか?
宮田部長宮田部長:
 はい、実は勤務時間外でアルバイトしている社員がいるとの報告を受けたのです。その対応をどうすればよいか、ご相談したくて連絡させていただきました。
大熊社労士:
 勤務時間外でのアルバイト、いわゆる副業ですね
服部社長:
 個人的な事情はいろいろあるのでしょうが、わが社の就業規則には二重就職禁止の規定がありますので、他で働くことはやめてもらいたいのです。
大熊社労士:
 そうですね、勤務時間以外は社員の自由な時間であるといっても、ほとんどの会社では二重就業を禁止しています。その理由としては、他の職業に就くことで本来の仕事に支障を来たすことを防ぎたい。例えば、残業を命じたとしても、他の仕事があることを理由に拒否することは会社にとっては認められませんね。また、勤務時間以外は次の勤務に対して心身を回復する時間であることも意味していますが、他の仕事に就くことでそれができず疲労が蓄積してしまい通常期待する仕事ができなくなってしまうようなことも回避したいものです。さらに、企業の情報機密の漏洩防止や、企業秩序が乱れることを防ぐという意味もあるでしょう。
服部社長:
 当社では副業を認めてはいませんので、懲戒処分の対象となると思いますがいかがでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。二重就職を禁止するためには、就業規則に「営利を目的とする業務に従事しようとするときは事前に会社の許可を得ること」といった規定され、懲戒事由と懲戒手段が明示されていなければなりません。就業規則を確認しましょうか。えーっと….、ありますね。「会社の承認を得ないで在籍のまま他に就職してはならない」という規定が服務規律の中にありました。御社ではこの規定がありますので、まずは副業している社員にこの内容を見せて説明し、違反していることを伝えてください。それで収まれば今回は、注意する程度としておくのが良いでしょう。
宮田部長:
 アルバイトをしている理由も聞いた方がよいのでしょうか?
大熊社労士:
 そうですね。基本的には二重就職は禁止した方が良いとは思いますが、どうしてもしなければならないと申し出られるのであれば、その理由やアルバイト先の仕事内容、勤務時間を含めた就労条件を聞き、会社として認められるかどうかの判断をしなければならないでしょう。
服部社長服部社長:
 いまのところないと思うが、最悪の場合、わが社を退職してその他社へ転職することもあるかもしれないね、あまり望ましいことではないが、個人的な事情でどうしてもそうせざるを得ないのであればある程度仕方ないか。
大熊社労士:
 そうですね。二重就職している社員に対して、安全面や健康面で他の者以上に配慮が必要となります。またもし過重労働で倒れでもしたら、どちらの会社の責任なのかという点で、もめる原因にもなりますから、あまり薦められるものではありません。ただ、最近の裁判例をみると二重就職を禁止すること自体は有効ですが、懲戒解雇が有効と認められるためには会社の秩序を著しく乱し、労務の提供に格別の支障を来す程度のものであることを要す、とされています。
宮田部長:
 なるほど、そうですか。また、最近は実際に他の会社で労働していなくても、インターネットのアフィリエイトなどで小遣い稼ぎをすることも簡単にできるようになってきましたね。
大熊社労士:
 これも度を過ぎるとやはり本来の業務に支障を来たすため、勤務時間以外の時間はどのような意味があり、会社としてはどのように利用してもらいたいのかをしっかりと伝えておく必要があると思います。
服部社長:
 わかりました。アルバイトをしている本人とじっくり話をしてみたいと思います。今日はありがとうございました。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は、勤務時間以外に他の会社でアルバイトをしている社員への対応について取り上げてみました。二重就職、いわゆる副業について、わが国では原則禁止が圧倒的に多いですが、最近では容認の動きもみられ、「週末起業」という言葉を見聞きすることも多くなっています。また地方では農業を兼業しているということも多いでしょう。例え、副業や兼業を認めるとしても、同業の他社で働いたり、本業の専門知識や営業ノウハウを流用することは背信行為になります。また、顧客等の機密情報の漏洩などはもってのほかです。遅刻や欠勤が発生するようなこともあってはなりません。これら遵守すべき事項を十分周知した上で、「届出制」または「許可制」としてキチンと組織管理をしておくことが必要でしょう。


 なお、パートタイマーの場合はどうかといえば、パートタイマーは基本的に短時間労働のため勤務時間以外の時間は正社員より相当多く、他の会社で働いたとしても本来の業務に支障を来たさないと考えられますので、正社員に比べパートタイマーに二重就職を禁止することは難しいでしょう。ただし、本来期待している業務が遂行できないなど支障を来たす、情報が漏洩する、他のパートタイマーを積極的に他の仕事に勧誘するなど職場の規律を乱すようなことが起きれば、パートタイマーであったとしても懲戒処分の対象となりまので、パートタイマーに対してもしっかりと周知しておくべきでしょう。



関連blog記事
2008年1月14日「2月14日セミナー「増加する問題社員への対応と法的知識」受付開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51222651.html
2007年11月26日「複数就業者の事業場間移動中の通勤災害」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51175059.html


参考リンク
独立行政法人労働政策研究・研修機構「雇用者の副業に関する調査研究」
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2005/041.html
厚生労働省「労災保険の通勤災害保護制度が拡大されます」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken01/pdf/06.pdf
厚生労働省「労働基準局 労働者1人平均年間総実労働時間の推移(暦年、確報)」
http://www.mhlw.go.jp/general/work/roudou.html
労働調査会「18年度の年間総労働時間は1810時間に~厚生労働省まとめ~」
http://www.chosakai.co.jp/news/n07-05-25-2.html


(鷹取敏昭)


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