労働契約法というのはどのような法律ですか?

 例年のごとく年度末の超繁忙期を無事乗り越え、安堵している服部社長であった。その社長より、新しくできた3月1日施行の(新法)労働契約法について質問があり、宮田部長とともに勉強していくことになった。



服部社長服部社長:
 労働契約法という法律ができたそうですね。県の労働局が行う説明会へ参加したかったのですが、仕事の都合でどうしても行くことができなかったのです。この法律はどのようなものですか?
大熊社労士:
 はい、ご説明しましょう。労働契約法は3月1日より施行された新しい法律で、名称のとおり労働契約についての基本的なルールをまとめたものです。
服部社長:
 以前、厚生労働省の分科会で労働者側、使用者側、それに行政の考え方が対立して、もめているという新聞記事を見たことはありますが、その法律ですね。
大熊社労士:
 この法律は、おっしゃるように厚生労働省の分科会での審議の紆余曲折を経て、国会に提出されましたが、分科会の最終報告と比較すると大幅に修正されたものとなり、全部で19条しかない非常に小さな法律です。しかし、今後法改正を重ねて、徐々に条文が充実していくことはは間違いないでしょう。
服部社長:
 私自身勉強不足なので申し訳ありませんが、そもそもこの法律ができたのはなぜなのですか?
大熊社労士大熊社労士:
 はい、ご存知のとおり最近は、就業の形態が多様化し、労働者の労働条件が個別に決定されるようになったために個別の労働紛争が増えてきています。この紛争の解決には、裁判のほか、都道府県の労働局における個別紛争解決制度や簡易迅速な労働審判制度が作られるなどしています。しかし、紛争を解決するための労働契約に関する民事的なルールをまとめた法律がなかったため、基本的なルールとして制定されたのがこの労働契約法なのです。この法律によって労働者および使用者の労働関係が安定し、良好なものとなるように期待されています。
宮田部長:
 新しい法律ということは、現在の労働契約や労働条件を見直したり、変更しなければならないのでしょうか?
大熊社労士:
 いえ、労働契約法はこれまで最高裁判所が示してきた判例をまとめたもの、言い直したもので、新たな法理論が作られたわけではありません。判例は弁護士やわれわれ社会保険労務士にとっては当然のこととして、それを踏まえた上で労使間の対応方法やアドバイスをしていますが、一般の労働者や使用者にとってはよく分からないというのが実際のところだと思います。これを分かりやすい形で明らかにしたということです。したがって、現在の労働契約や労働条件を根底から覆すようなものではありません。
宮田部長宮田部長:
 少し安心しました。しかし、労働契約法が施行されたということは、それなりに企業としては注意しなければいけないことがあるのでしょうね?
大熊社労士:
 はい、解釈の指針としての効力がありますので、今後はこの法律を意識する必要があるでしょう。そのことについて条文を基に解説してまいります。



第1条(目的) 
  この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。




 この目的条項は、それ自体に特別な意味合いはなく、労働契約における指針を示していると考えてください。
服部社長:
 「合意の原則」という表現が使われていますが、重要な意味をもっているのでしょうか?
大熊社労士:
 よくお気づきになりました。この労働契約法の特徴は、労働関係の分野における民法、すなわち民法の特別法として位置づけられています。その象徴的な部分として、「労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定める」とあるように、労使の「合意」が示されています。
宮田部長:
 私は「労働者の保護を図りつつ」という表現が気になりました。やはりこの法律も労働者保護を念頭においているのでしょうね。
大熊社労士:
 労使が対等の立場での合意に基づいた労働契約を基本としてはいますが、実態としては経済力やさまざまな力関係の差から使用者側が上位にあるため、他の労働関係法と同様、労働者の保護を図るという考え方が指針に据えられています。したがって、労使が合意したとしても労働者の保護に欠けるような労働契約は問題となるでしょう。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回から「労働契約法」についてシリーズで取り上げてみます。労働基準法は労働関係の強行法規的な意味を持っているため、違反すると労働基準監督署により行政罰を課せられることになりますが、この労働契約法は民法の特別法であるため、この法律をもって直接的に罰則が課せられることはありません。ただし、労働契約法に示されているルールを破って民事紛争に発展した場合、契約違反として損害賠償の請求を言い渡される可能性はありますので、無視することはできません。また、民事裁判のほか、労働審判、調停そして労働局の紛争調整制度においての判断をするときの基準にもなるでしょう。したがって、労働契約法の施行によって、今後は労働関係において「契約」ということを強く意識して対応しなければなりません。そして、労働契約法に示されている基本ルールを労使双方が理解し、遵守して安心し納得して就労できる環境を作ることが求められます。次回も引き続き労働契約法について解説してまいります。



関連blog記事
2008年3月12日「最近の労働法令改正から見る労務管理のトレンド」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51275190.html
2008年2月19日「厚労省よりダウンロードできる労働契約法のポイント資料」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51258163.html


参考リンク
厚生労働省「労働契約法がスタート!~平成20年3月1日施行~」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/index.html


(鷹取敏昭)


当社ホームページ「労務ドットコム」および「労務ドットコムの名南経営による人事労務管理最新情報」「Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog」にもアクセスをお待ちしています。