派遣と請負とは何が違うのですか?

 定期訪問で服部印刷を訪れた大熊社労士。服部社長や宮田部長以外にも現場の方と顔を合わせ挨拶する回数が増えてきた。今回は予定時刻よりも少し前に到着したので、現場を見学させてもらってから面談に入った。



大熊社労士:
 先ほど現場の方を少し見学させて頂きましたが、相変わらずお忙しそうですね。
服部社長服部社長:
 ありがとうございます。お蔭さまで、業績は順調に伸びています。しかし、いまは良いのですが、これから更に注文が増えたときに人手が足りなくなるのではないかと心配なのです。新規の採用募集をかけても最近は思うように人が集まらないので、派遣を活用することも考えているのですが、どうでしょうか?
大熊社労士:
 そうですね。最近は多くの企業で派遣社員を活用しており、統計を見ても、現在、労働者の3分の1は派遣労働者やパートタイマーなどの非正規雇用の労働者といわれていますので、労働者派遣を活用するのもひとつの手でしょうね。
服部社長:
 そこで、派遣について予め基本的なことは理解しておきたいと思っているので、教えて欲しいのです。まず、同じような形態として派遣と請負があるようなのですが、どう違うのでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 はい、労働者派遣とは、労働者派遣法の第2条第1号で「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない」と規定されています。わかりにくいので図示します。
労働者派遣
 これに対して請負とは、民法第632条で、請負は、当事者の一方がある仕事の完成を約束し、相手方がその仕事の結果に対してその当事者に報酬を与えることを約束することによって効力を生ずる契約と規定されています。これもわかりにくいので図示します。
請負
宮田部長:
 あきらかに違うのは、派遣先や注文主と労働者との間に指揮命令関係があるかないかですね。ここがポイントとなりそうですが違いますか?
大熊社労士:
 そのとおりです。例えば、御社で他社の社員を受け入れて仕事をさせるとしましょう。労働者派遣の場合、御社は派遣されてきた労働者に、自社の社員と同様に指揮命令ができます。一方、請負の場合は、請負業者の労働者に対して御社から直接は指揮命令をすることはできません。
服部社長:
 そうなると請負の形態は非常に活用しにくいですね。
大熊社労士:
 そうだと思います。請負は簡単にいえば、ある仕事の完成物を納品する(させる)という契約ですから、その過程に御社は口を挟めないということになります。よって請負を活用するとなると、例えば配送の仕事についてはその業務のユニット全体をすべて請負に任せるというような使い方でないと難しいことになります。
宮田部長宮田部長:
 なるほど。わが社で想定しているのは、2人~3人の労働者を受け入れ、業務の状況に応じていろいろな作業をしてもらうという感じですから、請負の形態は無理ですね。でも、知り合いの会社などではよく請負で労働者を入れているという話を聞きますが、どうてでしょうか?
大熊社労士:
 労働者派遣を行う事業主には労働者派遣法によって許可や届出が必要ですが、請負の場合はこのような許可や届出が要りません。そこで、請負契約として安易に労働者を注文主のために働かせていることがあります。
服部社長:
 偽装請負といわれているのは、そのことでしょうか?
大熊社労士:
 えぇ、偽装請負というのは、契約上は請負としておきながら、実際には注文主が労働者に指揮命令をしている場合ですね。先ほど見たように、本来ならその両者の間には指揮命令の関係はありませんので、それがあるということは労働者派遣に該当することになります。労働者派遣事業の許可や届出をしていない業者がそのようなことを行っていると、労働者派遣法違反となります。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回から労働者派遣について取り上げてみます。労働者派遣と請負は同じように考えている会社がありますが、基本的にはまったく別のものです。特に、受け入れている労働者への指揮命令の有無がその大きな違いとなります。請負の場合は、労働者は請負業者からのみ業務遂行の方法や指示を受けるだけで、注文主から指示を受けることはできません。その他にも、労働時間管理や秩序維持などの労務管理面、また経営面などにおいても、注文主からは独立した状態でなければなりません。これらを偽ったり、また形式的に請負契約を結んでいても、実態のないものは違法ですので注意が必要です。次回も引き続き、労働者派遣を取り上げます。


[関連法規]
 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律 第1条(目的)
この法律は、職業安定法と相まつて労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに、派遣労働者の就業に関する条件の整備等を図り、もつて派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする。


労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律 第2条(用語の意義)
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一  労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
二  派遣労働者 事業主が雇用する労働者であつて、労働者派遣の対象となるものをいう。
三  労働者派遣事業 労働者派遣を業として行うことをいう。
(以下、略)


民法 第632条(請負)
 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。



関連blog記事
2008年3月22日「派遣先事業主・派遣元事業主に課せられた労働法の適用(労働基準法編)」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51285988.html
2008年3月17日「産業医選任義務の従業員数50名に派遣労働者は含めるのか」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51279846.html
2008年3月15日「派遣先責任者選任義務の範囲」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51278351.html
2007年10月20日「8年間で企業における派遣労働者の割合が倍増!」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51128275.html


参考リンク
厚生労働省「労働者派遣事業・職業紹介事業等」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/haken-shoukai.html
東京労働局「労働者派遣事業関係」
http://www.roudoukyoku.go.jp/seido/haken/conttop.html
Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog「労働者派遣関連書式」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/cat_50241670.html


(鷹取敏昭)


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