労働基準監督署の立入調査とは何ですか?
経理出身のため人事労務は苦手な宮田部長だったが、最近は人事労務に関しても非常に意識が高くなり、いろいろなところにアンテナを張り巡らし自ら勉強しようとしている。今回は、業界団体の集まりで小耳に挟んだ労働基準監督署の立入調査について大熊社労士に質問を投げ掛けた。
宮田部長:
先日、業界団体の会合があって参加してきたのですが、ある会社からの報告で労働基準監督署の立入調査があって、いろいろ指摘をされ対応に苦労したという話がありました。大熊先生、労働基準監督署の立入調査とは、どのようなことが行われるのでしょか?
大熊社労士:
そんな話が出たんですね。確かに最近は監督署の調査が増えているような印象を受けています。さて、労働基準監督署の立入調査ですが、臨検監督ともいわれ、その目的は労働基準法や労働安全衛生法などの労働に関する法律にその事業所が違反していないかどうかを調査・確認して、もし法律に違反している事項があった場合には是正をさせ、適法な状態にするというものです。
宮田部長:
わが社は、法律に違反するようなことはしていないつもりですが、それでも立入調査は実施されるのですか?
大熊社労士:
はい、労働基準監督署からすれば、法律に違反しているかどうかは、実際に調べてみなければ分かりません。例え、以前に適法な状態であっても、法律も変わってきていますので知らないうちに違法な状態になっていることもあります。適法・違法の状態にかかわらず、立入検査は実施されますので、ご理解ください。なお、立入調査には、一定の計画に基づいて実施される「定期監督」、重篤な労働災害や火災・爆発事故等があった際、その直後に原因究明等のために行われる「災害調査・災害時監督」、労働者からの依頼に基づいて行われる「申告監督」、法違反を指摘された事業場の中から是正されているか確認のために再調査が行われる「再監督」があります。
服部社長:
なるほど、一言で調査といってもいろいろなものがあるのですね。立入調査が行われるときは、どのような連絡があるのですか?
大熊社労士:
はい、帳簿や書類などが改ざんされたり、事実を隠されたりする可能性があるため、立入検査は原則として事前に連絡しない、いわゆる抜き打ちで行われます。
宮田部長:
抜き打ちですか、いきなり来られるとびっくりしますね。でも、社長が不在のときはそれを拒否しても構わないのですか?
大熊社労士:
立入検査を拒んだり、妨害したりするとそれ自体が法違反となります。最近は、時間外労働の調査をする場合、社員が時間外労働を行っている夜間に現場を訪れて、事実確認をすることも行われています。社長が不在のときは、宮田部長が代わりに対応していただくようにしてください。お二人とも不在のときは、その代理の方ということになりますが、できる範囲できちんと対応することが必要です。指示された書類などが提出できないときは、その理由を述べて調査に来た労働基準監督官に相談するとよいでしょう。
服部社長:
宮田部長、もし私や宮田部長が不在のときに立入調査があった場合は、携帯電話で連絡するように総務部の社員には伝えておいてくれたまえ。できるだけ調査に協力できるよう電話で指示するように心掛けておくよ。
宮田部長
わかりました。私の携帯電話番号とともに伝えておきます。
大熊社労士:
抜き打ち調査のほか、事前に予告して調査が行われる場合もあります。例えば、その事業所の責任者が不在だと調査の目的を果たせないときや、専門の担当者からの聴き取りを必要とするときなどです。このようなときは、労働基準監督官から、調査する日時、用意しておく帳簿や書類、質疑応答や説明のできる社員の同席依頼などが、事前に文書などで通知されますので、その内容に応じて準備してください。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は、労働基準監督署の立入調査(臨検監督)を取り上げてみました。労働基準監督署が立入調査などを行うときは、労働基準法等の労働関係法令が根拠となりますが、厚生労働省は各種の情勢などから特に重点的に調査・監督すべき項目を示す「地方労働行政運営方針」を毎年度出しています。それによると、平成20年度の労働基準行政の重点施策は、労働条件の確保・改善等、多様な働き方が可能となる労働環境の整備、第11次の労働災害防止計画に基づく安全衛生対策の推進、労災補償対策の推進となっています。税務調査に比べると、労働基準監督署が立入調査は、あまり知られていません。立入調査は決して怖いものではありませんが、誤った対応をすると厳しい注意や摘発などに発展する可能性もありますので、適切に対応する必要があります。もし、対応の仕方がわからない場合は、社会保険労務士に相談されるとよいでしょう。
[関連法規]
労働基準法 第101条(労働基準監督官の権限)
労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
2 前項の場合において、労働基準監督官は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
労働基準法 第104条の2(報告等)
行政官庁は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
2 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる
関連blog記事
2007年10月7日「平成18年度のサービス残業是正支払額は1,679社で227億円」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51113831.html
2005年6月20日「是正勧告とはなにか?」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/25495617.html
参考リンク
厚生労働省「平成20年度地方労働行政運営方針の策定について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/03/h0331-12.html
厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果~平成18年度は約227億円」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/10/h1005-1.html
東京労働局「監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成18年度)」
http://www.roudoukyoku.go.jp/news/2007/20071005-kantokushidou/20071005-kantokushidou.html
厚生労働省「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/10/h1005-1b.html
厚生労働省「賃金不払残業総合対策要綱」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/10/h1005-1a.html
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/10/dl/h1005-1a.pdf
(鷹取敏昭)
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