長時間パソコンを使って仕事をしている場合、なにか対策が必要ですか?
服部印刷では年度末に向けて繁忙期に突入しつつある。一部の社員は毎日長時間、データや文章の入力をしなければならず、そのため、毎年、目の疲れなどの不調を訴える社員が出てきている。そこで宮田部長は、いまのうちに対策を打とうと考え、大熊社労士に相談することにした。
宮田部長:
大熊先生、こんにちは。当社では、長時間パソコンを使ってデータや文章を入力する仕事があるため、年度末の繁忙期に近づくと社員から目が疲れる、肩が凝るといった訴えが途切れません。
大熊社労士:
そうですか。最近はどこの職場でもパソコンを使って仕事をすることが多くなっていますので、職業病のようになっていますね。特に印刷会社は、印刷物をコンピューターで作成、管理するのが当たり前になっていますから、なおさらパソコンを使う時間が長くなっているではないでしょうか。
宮田部長:
そうなんですよ。技術革新ですっかり仕事の進め方が変わってしまって、いまではコンピューターがないとなにもできないような状態です。それで具体的に会社がすべきことがあるのでしょうか?
大熊社労士:
ええ、厚生労働省より平成14年4月5日付で「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」という通達が出されているのをご存知ですか?
福島さん:
VDTですか?それって、何ですか?
大熊社労士:
はい、VDT作業とは、ディスプレイ、キーボード等により構成されるVDT (Visual Display Terminals)機器を使用して、データの入力や文章・画像等の作成、プログラミング等を行う作業のことをいいます。
福島さん:
そうなんですね。ということはパソコンを使っている人は、VDT作業を行っているということになりますね。
大熊社労士:
そのとおりです。VDT作業と一口で言っても、例えばデータの単純入力があったり、オペレーターが電話で対応しながら画面入力を行うものがあったりと様々な種類があります。そのため作業の内容を大きく6つの種類に分け、この種類と1日当りの作業時間によって以下のようにA~Cの3つに区分され、求められる対応が決められています。
福島さん:
えーっと当社では、1日6時間以上のデータや文章入力がありますので、区分Aに該当しそうですね。具体的にこのAに該当したときはどのようにすれば良いのでしょうか?
大熊社労士:
はい、具体的には一連続作業時間および作業休止時間の制限、そして健康診断の対応が求められています。まずは一連続作業時間および作業休止時間の制限ですが、今回のような単純入力型の作業の場合には、一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業までの間に10分~15分の作業休止時間を設け、かつ、一連続作業時間内において1回~2回程度の小休止を設けなければならないとされています。
宮田部長:
そんなルールがあるのですか?まったく知りませんでした。
大熊社労士:
次に健康診断ですが、作業区分A~Cごとに、配置前と定期的にVDT作業健康診断の内容が決まっていますが、区分Aの場合、配置前および定期VDT健康診断は次のようになっています。
【配置前VDT健康診断】
1.業務歴の調査
2.既往歴の調査
3.自覚症状の有無の調査(問診)
4.眼科学的検査(5m視力検査(矯正視力のみで可))
5.近見視力の検査(50㎝視力または30㎝視力)
6.屈折検査(5m視力検査および近視視力に異常がない場合は、省略可)
7.眼位検査
8.調節機能検査(5m視力検査および近視視力に異常がない場合は、省略可)
9.筋骨格系に関する検査(上肢の運動機能、圧痛点等の検査、問診で異常がない場合は、省略可)
10.その他医師が必要と認める検査
【定期のVDT健康診断】
1.業務歴の調査
2.既往歴の調査
3.自覚症状の有無の調査(問診)
4.眼科学的検査(5m視力検査(矯正視力のみで可))
5.近見視力の検査(50㎝視力または30㎝視力)
6.筋骨格系に関する検査(上肢の運動機能、圧痛点等の検査、問診で異常がない場合は、省略可)
7.その他医師が必要と認める検査
福島さん:
健康診断の項目が決められているのですね。当社ではこれまでまったくできていません。
大熊社労士:
そうですね。現実的に、このVDT健康診断が確実に実施されている企業は決して多くないというのが実情だと思います。しかし一層パソコンを使うことが増えてくると、パソコンによる健康障害が心配になりますので、今後はVDT健康診断を実施する企業も増えてくるでしょうね。
宮田部長:
そうですね。当社でもVDT健康診断を受診できるように社長に相談してみようか。
福島さん:
それはいい案ですね。是非進めましょう。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。いまやほとんどの職場ではパソコンを使って仕事が進められています。社員の健康管理が大きなテーマとなっている現状を考えると、今後はVDT作業における労働衛生対策について注目したいところです。ちなみに派遣社員のVDT健康診断においては、派遣元・派遣先どちらが実施すべきでしょうか。安全衛生法施行令第22条において「健康診断を行う有害業務」が定められていますが、この中にVDT作業は含まれていません。そのため、派遣契約を結ぶ際に、派遣元・派遣先のどちらが費用を負担して実施するのかを話し合っておくことが求められます。
[関連法令]
労働安全衛生法施行令 第22条(健康診断を行うべき有害な業務)
法第66条第2項前段の政令で定める有害な業務は、次のとおりとする。
1.第6条第1号に掲げる作業に係る業務及び第20条第9号に掲げる業務
2.別表第2に掲げる放射線業務
3.別表第3第1号若しくは第2号に掲げる特定化学物質(同号5及び31の2に掲げる物並びに同号37に掲げる物で同号5又は31の2に係るものを除く。)を製造し、若しくは取り扱う業務(同号8若しくは32に掲げる物又は同号37に掲げる物で同号8若しくは32に係るものを製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務を除く。)、石綿等を取り扱う業務又は第16条第1項各号に掲げる物を試験研究のため製造し、若しくは使用する業務
4.別表第4に掲げる鉛業務(遠隔操作によって行う隔離室におけるものを除く。)
5.別表第5に掲げる四アルキル鉛等業務(遠隔操作によって行う隔離室におけるものを除く。)
6.屋内作業場又はタンク、船倉若しくは杭の内部その他の厚生労働省令で定める場所において別表第6の2に掲げる有機溶剤を製造し、又は取り扱う業務で、厚生労働省令で定めるもの
2 法第66条第2項後段の政令で定める有害な業務は、次の物を製造し、又は取り扱う業務(第11号若しくは第22号に掲げる物又は第24号に掲げる物で第11号若しくは第22号に係るものを製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務及び第12号若しくは第17号に掲げる物又は第24号に掲げる物で第12号若しくは第17号に係るものを鉱石から製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務を除く。)とする。
(第1号~第24号まで省略)
3 法第66条第3項の政令で定める有害な業務は、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんその他歯又はその支持組織に有害な物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務とする。
参考リンク
厚生労働省「新しい「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」の策定について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/04/h0405-4.html
(福間みゆき)
当社ホームページ「労務ドットコム」および「労務ドットコムの名南経営による人事労務管理最新情報」、「Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog」にもアクセスをお待ちしています。