職場における腰痛について会社はどのような対策をすべきでしょうか?
服部印刷では、印刷業であることから大量の紙やインク溶剤を使い、また納品物についても重量物を運ぶ機会がある。そのため、社員から腰が痛くなったといった訴える者が毎年のように出ている。そこで宮田部長は対策を打とうと考え、大熊社労士に相談することにした。
宮田部長:
大熊先生、こんにちは。当社では、どうしても重量物を運ぶ必要があるため、社員から腰が痛くなったと言ってくる者がおり、対応に困っています。
大熊社労士:
そうですか、職場における腰痛は、年間6,000件近くも発生し、業務上疾病全体に占める割合も約6割を占めているようですよ。
福島さん:
業務上の疾病の6割とは多いですね。
大熊社労士:
私も資料をみて、驚いたところです。
福島さん:
でも腰痛は、その人の年齢や体格などが関係してきますし、持病で腰痛を抱えている人もいますよね?
大熊社労士:
そうですね。もちろん腰痛は、年齢や持病といった要因も関係していますので、必ずしも仕事によるとは限りません。しかし、様々な要因が重なり合って引き起こされるものですので、会社としても何も対策を打たないということは問題ですね。この腰痛に関しては、今年の2月に、厚生労働省基準局長から都道府県の労働基準部宛に「職場における腰痛発生状況の分析について」という通達が出されています。
宮田部長:
それは、どのようなものですか?
大熊社労士:
はい、厚生労働省の内での通達になりますが、依然として職場の腰痛発生状況が高いことから、都道府県の労働局から企業の方へ、腰痛予防の対策を打つように指導してくださいという内容になっています。
宮田部長:
つまり、会社は社員が腰痛に困っている姿を放置せず、また社員が腰痛にならないように対策をしておく必要があるということですね。当社では、今まで特別な対策を行ってこなかったのですが、具体的にどのようなことをすればよいのでしょうか。
大熊社労士:
この点に関しては、平成6年9月に「職場における腰痛予防対策指針」というものが出さています。指針では、項目を4つに分けて、具体的な対策を挙げています。以下、この内容をご紹介しましょう。
■作業管理
(1)自動化、省力化
・作業の一部や全部の自動化、機械化を行い、負担を軽減する。また、自動化などが難しい場合には、適正な補助具を導入する。
(2)作業姿勢、動作
・中腰、ひねり、前屈、後屈ねん転等の不自然な姿勢をなるべく取らないようにする。
・同一姿勢を長時間取らないようにする。
・姿勢を整え、急激な動作をなるべく取らない。
・勁部又は腰部の不意なひねりを可能な限り避け、動作時には、視線も動作に合わせて移動させる。
(3)作業標準
腰痛予防のため、作業標準には次のようなことを定める。
・作業時間、作業量、作業方法などを示す。
・他の作業を組み合わせるなどにより、反復作業などができるだけ連続しないようにする。
(4)休憩
・横になってくつろげるような十分な広さを有する休憩設備を設ける。
・休憩室の室内温度を筋緊張が緩和できるよう調節する。
(5)その他
・腹帯等適切な補装具の使用も考慮する。
・作業時の靴は、足に適合したものを使用させる。
■作業環境管理
(1)温度
・屋内作業場では、作業場内の温度を適切に保つ。
・寒い所での作業では、防寒衣を着用させたり、暖が取れるように暖房設備を設ける。
(2)照明
・作業場所、通路、階段、機械類等の形状が明瞭にわかるように適切な照度を保つ。
(3)作業床面
・すべりや転倒などを防止するため、床面はできるだけ凹凸がなく、段差がないようにする。
・床は滑りにくく、弾力性があり、衝撃やへこみにも強いものにする。
(4)作業空間
・動作に支障がないよう十分な広さを有する作業空間を確保する。
(5)設備の配置等
・作業を行う設備、作業台等については、労働者に合わせて適切な作業位置、作業姿勢、高さ、幅などが確保できるようにする。
■健康管理
(1)健康診断
・重量物取扱い作業、介護作業等腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者に対しては、配置前およびその後6月以内ごとに1回、定期に、健康診断を実施する。
・腰痛の健康診断の結果、労働者の健康を保持するために必要と認めるときは、作業方法などの改善、作業時間の短縮など必要な措置を行う。
(2)作業前体操、腰痛予防体操
■労働衛生教育等
(1)労働衛生教育
・重量物取扱い作業、介護作業等に常時従事する労働者については、配置する際および必要に応じ腰痛の予防のための労働衛生教育を実施する。
(2)その他
・腰痛を予防するためには、職場内における対策だけでなく、労働者の日常生活における健康の保持増進が欠かせないため、産業医等により、バランスのとれた食事、睡眠に対する配慮等の指導を行う。
宮田部長:
細かな内容になっていますね。これをもとに作業内容や方法、あるいは工場自体の環境をチェックしてみます。また、社員への労働衛生教育を十分に行ってきませんでしたので、まずは管理職を集めて研修を行ってみます。
大熊社労士:
それは良い案ですね。現場管理職の対応がポイントとなりますので、是非研修を行ってください。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。腰痛予防対策については、すべての業種において求められることですが、特に社会福祉施設においては腰痛の発生状況が高いことから対策が重要になっています。平成6年9月に出された「職場における腰痛予防対策の推進について」の中でも、適切な介護設備や機器等の導入を図ることが定められており、現場においても導入が行われていますが十分とは言えません。そのため、独立行政法人労働安全衛生総合研究所で発行している「介護者のための腰痛予防マニュアル~安全な移乗のために~」(平成19年2月初版)を活用するなどして、労働者の負担を一層軽減する作業方法を積極的に取り入れることが求められています。
参考リンク
基安労発第0206001号 平成20年2月6日「職場における腰痛発生状況の分析について」
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/200225-c00.pdf
安全衛生情報センター「職場における腰痛予防対策の推進について」
http://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-35/hor1-35-10-1-0.htm
独立行政法人労働安全衛生総合研究所「「介護者のための腰痛予防マニュアル~安全な移乗のために~」(平成19年2月初版)
http://www.jniosh.go.jp/results/2007/0621/index.html
厚生労働省「腰痛の防止のために」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/040325-5.html
兵庫労働局「兵庫腰痛予防自主管理指針について」
http://www.hyougo-roudoukyoku.go.jp/seido/anzen_eisei/eisei_seido/yotsuyobousisin.htm
(福間みゆき)
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