受注量激減で人員削減を検討しなければならなくなりました
ここ数ヶ月、雇用危機に関するニュースが連日報道され、会社と社員が共にハッピーな環境を創りたいと考え、この仕事を志した大熊は心を痛めていた。そんな中、服部社長よりその友人である鳥谷工業(自動車部品製造業 社員数30名)の鳥谷社長の相談に乗ってあげて欲しいという依頼を受け、急遽訪問することになった。
大熊社労士:
はじめまして。服部印刷の服部社長より紹介をいただきました大熊と申します。
鳥谷社長:
はじめまして。鳥谷工業の鳥谷と申します。今日は、急にお呼び立てしまして申し訳ございません。
大熊社労士:
どういたしまして。服部社長より雇用の件でご相談があると伺っておりますが、状況を詳しくお聞かせ願えませんか。
鳥谷社長:
はい、当社は自動車部品を製造しているのですが、この度の金融危機や経済情勢の悪化によって、自動車メーカーからの注文が激減しております。現時点では昨年比30%減といったところですが、来年の目処も立たず、来年の1~3月期は昨年比50%減くらいを覚悟しなければならないような状況なのです。
大熊社労士:
そうでしたか。私の他のクライアントでもそうした話を多く耳にしています。本当にここ2~3ヶ月の間に状況が一転していますね。
鳥谷社長:
本当にそうなんです。このように生産量が激減してしまうことから、人員を削減を検討しなければならない状況に追い込まれています。ニュースや新聞を見ると、雇用危機といっていろいろな問題が起きているようなので、当社としてはできるだけ法的な問題がないように進めたいと思っています。今後、どのようなことに注意すべきでしょうか。
大熊社労士:
わかりました。会社業績が悪化した場合でも従業員の解雇は最終手段になるということをまずは押さえておいて頂きたいと思います。その前提でお話を進めていきますが、会社が経営不振となり、どうしても従業員に辞めてもらわざるを得ないときに行われる解雇が、整理解雇と言われるものです。
鳥谷社長:
整理解雇ですか。
大熊社労士:
はい。この整理解雇を行う際には、整理解雇の4要件と言われる次の4つの要件を満たしておくことが求められます。
人員削減の必要性
解雇の回避努力
解雇対象者の公正な選定
解雇理由の説明
鳥谷社長:
こういう要件が定められているのですね。それではこの要件についてもう少し詳しく教えていただけませんか?
大熊社労士:
分かりました。まず人員削減の必要性とは、人員削減しなければ倒産する状況やかなりの経営危機である場合のことを指しています。具体的には収支決算におけるの赤字の有無やその程度、受注・業務量の減少度合いなどが判断基準になりますね。次に解雇の回避努力については、経費の削減や役員報酬の削減、残業規制、一時帰休、賞与のカット、あるいは希望退職を募ることなどの対策を行うことです。解雇を回避するための相当な経営努力を行い、それでも整理解雇を行わざるを得ないというところまで判断される必要があります。
鳥谷社長:
経費削減はこれまでにかなり行っていますし、今年の冬季賞与も例年よりは削減していますが、受注量の急減もここ最近のことですから役員報酬にはまだ手を付けていません。希望退職も当然行っていませんので、まずはこうしたことも検討することが必要なのでしょうか。
大熊社労士:
そうですね。お話していることのすべてを行わなければならないということではありませんが、できることを可能な限り検討することは必要です。そして解雇対象者の公正な選定ですが、対象者については勤続年数や実績などの貢献、雇用形態、再就職や家計への影響などを考えて対象者を選ぶことが求められています。
鳥谷社長:
最近のニュースで派遣切りということが問題になっていますが、これはこの解雇対象者の公正な選定に関係があるのですか。
大熊社労士:
はい、一般的には正社員よりも派遣労働者や有期雇用者の方が企業との密着度が低いために、解雇対象者に選定においては先に考えられることになります。もっともだからといって簡単に解雇をしてよい訳ではなく、他の人員削減の必要性や解雇回避努力などの要件について十分な検証が求められます。そして最後の解雇理由の説明ですが、これは解雇の納得を得るために十分な説明を行うことを指しています。
鳥谷社長:
なるほど。なかなか難しいものですね。ちなみにこの4要件はすべてを満たしておく必要があるのでしょうか?
大熊社労士:
以前はそのように考えられていましたが、最近の判例においては、すべての要件を充足していなくても、解雇が権利の濫用として無効であるとはいうことはできないという柔軟な解釈もみられるようになっています。しかし、この4要件は判例で確立されていますので、整理解雇を行う上では押さえておく必要があります。
鳥谷社長:
わかりました。まずは、の解雇の回避努力のところでできることがありますので、ここから手をつけてみます。
大熊社労士:
そうですね。整理解雇は最終的な手段ですので、会社としてはあらゆる努力を尽くす必要があります。なるべく雇用を維持していく形で、対策が打たれることを願っています。具体的には一時帰休を検討することはできませんか?
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。雇用危機が大きな社会問題に発展しています。多くの企業では受注量が激減し、まったく先が見えないという話を頻繁に耳にしており、実務レベルでも整理解雇の話が徐々に出始めています。整理解雇には今回述べたような要件が定められていますが、解雇はあくまでも最終手段であることに間違いはありません。まずは役員報酬や賞与の減額、残業規制、採用削減、一時帰休など、解雇回避の努力を尽くすことが求められます。
[関連判例]
あさひ保育園事件 最高裁一小 昭和58年10月27日判決
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、Yにおいて、園児の減少に対応し保母2名を人員整理することを決定すると同時に、Xほか1名の保母を指名解雇して右人員整理を実施することを決定し、事前に、Xを含むYの職員に対し、人員整理がやむをえない事情などを説明して協力を求める努力を一切せず、かつ、希望退職者募集の措置を採ることもなく、解雇日の6日前になって突如通告した本件解雇は、労使間の信義則に反し、解雇権の濫用として無効である、とした原審の判断は、是認することができないものではなく、原判決に所論の違法はない。
関連blog記事
2008年12月19日「人員削減をする際に忘れてはならないハローワークへの届出」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51470384.html
2008年12月15日「今後、激増が予想される企業の一時休業・一時帰休」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51467042.html
2008年12月12日「解雇・雇止め・内定取消などの新パンフ ダウンロード開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51466539.html
2008年12月5日「12月より中小企業緊急雇用安定助成金が創設されています」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51462084.html
2008年12月3日「[ワンポイント講座]業績悪化を理由とする新卒の内定取消を行う際の留意点」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51461700.html
2008年11月6日「景気後退に伴い進められる企業の賃金調整・雇用調整」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51444058.html
参考リンク
茨城労働局「整理解雇には4つの要件が必要」
http://www.ibarakiroudoukyoku.go.jp/soumu/qa/taisyoku/taisyoku04.html
東京労働局「中小企業緊急雇用安定助成金」
http://www.roudoukyoku.go.jp/topics/2008/20081204-jyoseikin/pdf/01-chyusyou.pdf
(福間みゆき)
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