社員が通勤途中の事故でケガをしてしまいました

 朝、宮田が仕事の準備をしていたところ、営業部の社員から通勤の途中で地下鉄の階段を踏み外し、足を骨折したという連絡が入った。その日はちょうど大熊社労士が訪問することになっていたため、宮田部長はその対応について相談することにした。



宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。今朝、社員が通勤の途中で地下鉄の階段を踏み外して、足を骨折してしまいました。
大熊社労士:
 そうですか、それは大変でしたね。
宮田部長宮田部長:
 はい。先ほど連絡が入ってきまして、1週間ほど入院が必要なようです。そこで急で申し訳ないのですが、労災の手続きについて教えてもらえませんか?
大熊社労士:
 分かりました。それでは事故の状況を確認させてください。その社員の方は、会社に出勤するために地下鉄に乗ろうとされていたのですか?
宮田部長:
 そうです。
大熊社労士大熊社労士:
 ということは通勤災害ですね。まずは基本を押さえておきましょう。通勤災害における通勤とは、就業に関し、住居と就業の場所との間の往復、就業の場所から他の就業の場所への移動、単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を、合理的な経路および方法により行うことを言います。業務の性質があるものは除かれますので、もしも社員の方が自宅から直接得意先に行かれる際にこのような事故があった場合は、通勤災害とは認められず業務災害となります。
宮田部長:
 なるほど。同じ自宅から出る場合であっても、会社に出勤する場合と直接得意先に行く場合とで取扱いが異なるのですね。今朝のケガは、会社に出勤する途中ですので、通勤で間違いありません。
福島照美福島さん:
 大熊先生、実はこの社員から先ほど電話がありまして、今日は会社に届け出ていたルートと異なるルートで来ていたようなのです。このような場合でも、通勤災害として認められるのでしょうか?宮田部長には言い難かったらしく、私の携帯に電話があったのですが。
宮田部長:
 けしからん奴だな。
福島さん:
 理由を聞いたところ、最寄駅を使うよりも、少し歩いて別の駅を使った方が、地下鉄が混んでいないので、届出とは異なるルートで出勤していたと言っていました。
宮田部長:
 なるほど。確かに彼の場合であればこの駅を使うことも考えられるかも知れないな。
大熊社労士:
 会社に届け出たルートで来ていなかったという問題はありますが、このルートを使うと遠回りになるといったこともなく、通常であれば考えられるルートであれば、通勤災害の範囲に含まれるとして問題ないでしょう。必ずしも1つの通勤経路や通勤方法に限られるものではなく、一般的に考えて他の人が使うような合理的なルートであれば通勤災害の対象となります。
福島さん:
 そうですか。それであれば一安心です。
大熊社労士:
 具体的な手続きですが、今回入院された病院が労災指定の病院か否かによって申請様式が異なりますので、次に連絡を取る際に確認してもらう必要があります。
福島さん:
 労災指定の病院かそうでないかによって、何が違うのでしょうか?
大熊社労士:
 はい、労災指定の病院の場合、現物給付といって診察や薬剤にかかる費用を負担する必要はありません。しかし指定のない病院の場合は、一旦費用を支払って後でその費用を返してもらうということになります。もしも労災指定でない病院であれば、労災でかかることを病院の方に告げておいてもらった方が良いですね。
宮田部長:
 わかりました。私の方で確認しておきます。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は通勤災害について取り上げてみましたが、以下では通勤災害と解雇制限の関係についてお話しましょう。業務災害と通勤災害とでは労災給付の内容はほぼ同じとなっていますが、労働基準法の解雇制限については取扱いが異なりますので、この点に注意が必要です。まず、労働基準法第19条において、以下の2つにあてはまる期間については、解雇できないとされています。
①労働者が業務上負傷しまたは疾病にかかり療養のために休業する期間とその後30日間
②産前産後の女性がいわゆる産休によって休業する期間とその後30日間


 ①にあるように、解雇制限の対象となるのは「業務上」の災害の場合であり、「通勤」災害のために療養し休業する期間については、解雇制限の対象にはなりません。そのため、解雇制限に該当するか否かを検討する際には、もともとの災害の発生が「業務上」によるものなのか「通勤」によるものなのか慎重にかつ正確に判断することが求められます。



関連blog記事
2009年2月28日「[ワンポイント講座]出向先で役員となった従業員の労災保険・雇用保険の取扱い」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51510404.html
2009年2月21日「[ワンポイント講座]小規模事業所の法人代表者が業務上で怪我をした場合の給付の特例」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51506938.html
2008年11月21日「11月に変更された労災保険から支給される通院費の範囲」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51454291.html
2008年3月24日「通勤災害の保険給付における「日常生活上必要な行為」の範囲拡大」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51283411.html
2007年11月26日「複数就業者の事業場間移動中の通勤災害」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51175059.html


参考リンク
厚生労働省「労災保険給付の概要」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040325-12.html


(福間みゆき)


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