今年の夏季賞与の動向はどのような感じでしょうか?
5月も最終週となり、そろそろ夏季賞与の試算を開始する時期になった。比較的業績が堅調だった服部印刷も新年度に入ってからは受注の先行きに不透明感が出てきており、今年の夏季賞与についてどのように考えるべきか、服部も考えがまとまらないようであった。
服部社長:
大熊さん、そろそろ今年の夏季賞与の検討に入ろうと思うので、今日はアドバイスを頂きたいのです。
大熊社労士:
そうですね。もう来週には6月に入りますものね。今年の折り返しもまもなくとは時間が経つのは早いものです。それで今期の業績は如何ですか?
服部社長:
はい、年明けくらいまでは比較的業績も堅調だったのですが、新年度に入ってからは少し受注に陰りが見られるようになっています。もっとも世間では売上が半減なんていう企業も多いと聞きますので、それと比較すればまだマシだとは思いますが、厳しいことは厳しいですね。4月以降の売上は前年比93%くらいになる見込みです。
大熊社労士:
そうですか。御社はこの地域の同業他社が持っていない特殊技術がありますし、また取引先数が多く、特定の企業への依存度が低いので、こういう時期にも強いですね。もっとも前年比7%減という事実はしっかりと受け止める必要はあると思いますけれども。
服部社長:
ありがとうございます。確かに先代社長が残してくれた営業構造に救われている部分は大きいですね。それで本題の夏季賞与ですが、世間の動向はどうなっていますか?
大熊社労士:
はい、世間では人員削減を含む雇用調整を行っているような企業も多いですから、そういった企業では賞与どころではないという話もよく耳にします。確かに整理解雇をする一方で例年同水準の賞与を支給するというようなことは考えられませんので、特に中小企業においては今年はかなりバラツキが出るでしょうね。まったく支給なしという企業もあれば、基本給の1か月分程度は死守しようという企業もあるでしょう。ただ一方では数は多くありませんが、このような環境でも過去最高益をたたき出しているような企業もありますから、相場はあってないようなものと言わざるを得ません。
宮田部長:
先日、新聞で賞与の統計が出ていて、前年比15%くらいのマイナスというような記事を見たように記憶しているのですが、統計ではそんな感じなのでしょうか?
大熊社労士:
はい、これまでいくつかの統計が出されていますが、平均すると前年比15%程度マイナスという状況ですね。今日は先週、日本経団連から発表された「2009年夏季賞与・一時金 大手企業業種別妥結状況」の第1回集計(画像はクリックして拡大)をお持ちしました。これによれば総平均では19.39%のマイナスと大幅な落ち込みとなっています。業種別に見ると自動車が△29.55%、非鉄・金属が△20.44%、電機が△20.33%と日本の主力産業が軒並み20%を超えるマイナスとなっており、今回の不況の深刻さを感じさせますね。
宮田部長:
そうですか。当社でもメーカーのマニュアルを制作している部門の売上が急減していますが、やはり大変なんですね。
服部社長:
この統計は日本経団連のものですから、それこそわが国を代表するような一流企業が対象ですよね。大企業がこんな状態では中小企業ではかなり厳しい状況になりそうですね。そんな中で当社は昨年度の業績はお陰様で過去最高となりました。しかし、新年度からは先行きの見通しが立たないような状態になっています。このような状態で夏季賞与はどのように考えたらよいでしょうか。
大熊社労士:
確かに難しい状況ですね。賞与の基本的な性格は成果配分ですから、業績にあわせて支給水準を見直すことが原則になります。前期の業績は好調でいらっしゃいましたから、今回の夏季賞与は通常よりも高い水準とするというのが一つの考えですが、世間の経済環境が極端に悪化した中、4月以降の受注に陰りが見られ、また今後の先行きも不透明となると前期の業績で単純に支給水準を引き上げるのはリスクがあります。よって今回の夏季賞与は昨年と同水準程度に設定し、今後の業績を確認しながら、問題がなければ冬季賞与で上乗せを行うという考え方を取るのが良いのではないでしょうか。
服部社長:
そうですね。私も同意見です。ただ社員は昨年の業績を知っているので、今年の夏は期待しているかも知れません。それだけに十分な説明が必要となりそうですね。
大熊社労士:
まったくそのとおりですね。前期の会社業績と共に現在の御社を取り囲む経営環境、そして今後の受注見込みなどを社員のみなさんにお話いただくことが重要ですね。こういう厳しい時代はトップの考えを積極的に社員に語りかけ、同一の価値観と危機感を共有することが欠かせません、その意味からは今回の夏季賞与がよい機会になるのではないでしょうか。
服部社長:
分かりました。宮田部長、賞与の支給日は7月10日だったね。となると直前の全体朝礼は7月1日か。その日に私から30分ほど社員に話をする場を設けようと思うので、調整をお願いします。
宮田部長:
はい、それでは資料の取りまとめと社員への通知を行っておきます。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は今年の夏季賞与の動向と考え方について取り上げてみました。各種の統計を見ると今年の夏季賞与は非常に厳しい結果になることが確実という状況になっています。賞与の基本的な性格は成果配分であり、また業績の調整弁ですから、このような経済環境では例年よりも支給額が減少する企業が増加することは仕方ありません。しかし、賞与は社員の生活を支えるものである以上、そのような場合には十分な説明を行うことが求められます。自社の業績、経営環境、今後の見通し、そしてその中で会社はどのような方針で進んでいくのか。こうしたことをトップなり、上長から社員一人ひとりに語りかけ、次へ進む力を引き出したいものです。
関連blog記事
2009年5月2日「2009年夏季賞与は対前年同期比で14.4%と過去最大のマイナス幅」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51543456.html
2009年4月25日「連合調査の夏季一時金の平均回答額は前期実績より59,681円マイナスの654,332円」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51540850.html
2009年4月23日「日本経団連の2009年中小企業賃上げ調査 第1回集計結果は3,694円(1.40%)と前年比大幅減」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51540184.html
2009年4月8日「中小企業の2009年賃上げ 連合二次集計では4,136円(1.62%)」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51533173.html
2009年3月8日「平成20年冬季賞与の平均妥結額は831,813円(前年比△0.63%)」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51512566.html
2009年1月2日「都内中小賞与の年間賞与平均は989,334円(3.29月)」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51476559.html
2008年12月21日「連合調査の冬季賞与最終集計は昨年同水準の704,607円」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51471183.html
2008年12月18日「日本経団連の2008年冬季賞与平均最終集計は889,064円(△0.36%)」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51469940.html
参考リンク
日本経団連「2009年夏季賞与・一時金 大手企業業種別妥結状況[第1回集計]」
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/046.pdf
(大津章敬)
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