兼務役員の労災保険・雇用保険はどのように取り扱うのですか?

 服部印刷では、営業部長を兼務役員とすることを検討していた。そこで、兼務役員とした場合にどのような点に注意が必要なのか、大熊社労士に相談することとなった。



宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。そろそろ梅雨に入る時期ですね。
大熊社労士:
 そうですね。例年よりも少し遅くれているようですが、しばらくジメジメした日が続きますね。
宮田部長宮田部長:
 さて、当社では営業部長を役員に登用しようかと検討しています。まずは兼務役員を想定しているのですが、兼務役員となったときに労災保険や雇用保険の取扱いがどのように変わるのかを教えてください。
大熊社労士:
 わかりました。兼務役員は、従来と同様の業務に携わり、従業員としての身分を持つことから、労働基準法をはじめとして、労働者災害補償保険法や雇用保険法についても適用を受けることになります。まず労災保険の取扱いですが、兼務役員となっても、労働者として身分がある場合は、労災保険の適用を引き続き受けることになります。関連する通達(昭和34年1月26日 基発第48号)として、以下のものが出されています。
1)法人の取締役、理事、無限責任社員等の地位にある者であっても、法令、定款等の規定に基づいて業務執行権を有すると認められる者以外の者で、事実上、業務執行権を有する取締役、理事、代表社員等の指揮、監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を受けている者は、原則として労働者として扱うこと。
2)法令または定款の規定によっては業務執行権を有しないと認められる取締役であっても、取締役会規則との他内部規定によって業務執行権を有する者がある場合には、保険加入者からの申請により、調査を行い事実を確認したうえでこれを除外すること。この場合の申請は文書を提出させるものとすること。
3)監査役および理事は、法令上使用者を兼ねることを得ないものとされているが、事実上一般の労働者と同様に賃金を得て労働に従事している場合には、労働者として扱うこと
宮田部長:
 なるほど。労災が適用になるのであれば安心です。
大熊社労士:
 ただし、役員としての職務中に労災の事故にあったような場合は、保険の給付は受けられないので注意が必要です。
福島照美福島さん:
 この場合、労働保険料はどのようになるのですか?ちょうど今月、労働保険料の申告書を提出することになっているのですが…。
大熊社労士:
 話題がグットタイミングでしたね。これについても先ほどの通達の続きに以下のように示されています。
4)徴収法第11条2項の賃金総額には、取締役、理事、無限責任社員、監査役、監事等に支払われる給与のうち、法人の機関としての職務に対する報酬を除き、一般の労働者と同一の条件の下に支払われる賃金のみを加えること。
 つまり、労働保険料を計算する際は、役員報酬を除いた部分を対象とすることになります。
福島さん:
 計算する際に、間違えそうなポイントですね。注意しないと。
大熊社労士:
 そうですね。続いて、雇用保険の取り扱いについてです。これについては、行政手引20358において以下のように示されています。
「株式会社の取締役は、原則として、被保険者としない。取締役であって同時に会社の部長、支店長、工場長等従業員としての身分を有する者は、報酬支払等の面からみて労働者性的性格の強い者であって、雇用関係があると認められるものに限り被保険者となる。なお、この場合において、これらの者が失業した場合における失業給付の算定基礎となる賃金には、取締役としての地位に基づいて受ける役員報酬が含まれないことは当然であるので、これらの者について離職証明書が提出されたときには、この点に留意する。」
宮田部長:
 営業部長には、引き続き営業部隊の長として活躍してもらいたいと考えています。報酬についてはまだ具体的に決まっていませんが、従来の給与にいくらかの役員報酬を上乗せすることを検討しています。
大熊社労士大熊社労士:
 分かりました。業務の実態と報酬の面からも労働者性が強くありますので、雇用保険もそのまま加入してもらって問題ないでしょう。ただし、労災保険と同じように、雇用保険の対象となるのは、あくまで給与の部分ですので注意をお願いします。併せて、ハローワークに「兼務役員雇用実態証明書」(※各ハローワークによって名称が異なります)を提出しておいてください。これは、実際に雇用保険の被保険者となれるかどうかを確認する手続きとなり、添付書類としては出勤簿や賃金台帳、登記簿謄本、役員となることを決定したときの議事録などが必要となります。
宮田部長:
 わかりました。実際に兼務役員にすることになったら、福島さんに手続きの対応をしてもらいます。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今今回は兼務役員の労災保険、雇用保険の取扱いについて取り上げてみましたが、以下では年次有給休暇の付与についてお話しましょう。兼務役員の中でも一定の要件を満たし労働者性の強い者については、労働基準法の適用を受けることになります。これについては関連する通達(昭和23年3月17日)が出されており、その中で「法人の重役で業務執行権または代表権を持たない者が、工場長、部長の職にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて法第9条に規定する労働者である」とされています。
 そのため、労働者性の強い兼務役員については、労働基準法の適用を受けることから年次有給休暇を付与する必要があるということになります。また付与基準については、労働者として雇用した日が起点となり、今までの取扱いを継続して日数を付与していくことになります。



関連blog記事
2009年6月6日「[H21年度更新]法人の役員の取扱い(第4回)」
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2009年6月1日「[H21年度更新]出向労働者の労働保険の取扱い(第3回)」
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2009年5月30日「[H21年度更新]免除対象高年齢労働者の年度更新での取り扱い(第2回)」
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2009年5月23日「[H21年度更新]労働保険の対象となる賃金の範囲(第1回)」
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2009年2月28日「[ワンポイント講座]出向先で役員となった従業員の労災保険・雇用保険の取扱い」
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009年2月21日「[ワンポイント講座]小規模事業所の法人代表者が業務上で怪我をした場合の給付の特例」
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参考リンク
東京労働局「雇用保険被保険者の範囲」
http://www.roudoukyoku.go.jp/til20th/hoken/08.html
徳島労働局「被保険者になる労働者を雇用したとき」
http://www.tokushima.plb.go.jp/jigyou/koyou/koyou08.html


(福間みゆき)


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