歩合給を支給した場合の時間外手当の計算方法を教えて下さい

 服部印刷では9月から給与制度を見直し、営業職に歩合給を支給することを検討している。そこで宮田部長は時間外割増手当の計算において、歩合給をどのように取扱う必要があるのか大熊社労士に相談することにした。



宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。今日は早速ですが、相談したいことがあります。
大熊社労士:
 こんにちは。ご質問とは何でしょうか?
宮田部長宮田部長:
 はい、実は当社ではいま給与制度の見直しを考えておりまして、営業職については歩合給を支給することを検討しています。これまでは営業成績などを賞与へ反映させていたのですが、月例給与の中でも少し反映させていこうと考えているのです。
大熊社労士:
 なるほど、賞与でまとめてではなく、少しでも早いタイミングで処遇に反映させることで社員の頑張りを引き出したいということですね?
宮田部長:
 はい、その通りです。現在、どのような計算方法で歩合給を支給しようかといろいろと試算しているところですが、ここで一つ問題がありまして。歩合給は時間外割増賃金の計算においてはどのように取り扱えばよいのでしょうか?固定給ではないので割増賃金の算出には加える必要はありませんか?
大熊社労士:
 いいえ。ここは間違えやすいところなのですが、歩合給も少し特殊な計算で割増賃金の対象に入れる必要があります。
宮田部長:
 そうなんですか!歩合給は営業成績に基づいて変動して支給するものですから、割増賃金とは関係ないと考えていました。念のため、確認しておいて良かった~。完全に勘違いしていました。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。現実的には歩合給を時間外割増の基礎額に算入していない企業は非常に多いと思います。それではここで割増賃金の対象となる賃金について確認しておきましょう。労働基準法では割増賃金の対象としなくても良いものを限定列挙しており、それら以外は割増賃金の対象に含めなければならないとされています。割増賃金の対象としなくても良いとされているものは、次の7つです。
(1)家族手当
(2)通勤手当
(3)別居手当
(4)子女教育手当
(5)住宅手当
(6)臨時に支払われた賃金
(7)1箇月を超える期間ごとに支払われた賃金(例:賞与等)
 ただし、(5)の住宅手当については、扶養者がいる場合は2万円、単身者の場合は1万円のように一律で支給される場合は割増賃金の対象となる賃金からは除くことができません。割増賃金の基礎額から除外するためには、住宅費用の負担に応じて支給されるものでなければなりません。そのため、例えば、費用に応じて定率で支給する方法や費用を段階的に区分して費用が増えるにしたがって支給額を多くする方法にする必要があります。
宮田部長:
 なるほど。当社では住宅手当はありませんが、要件に当てはまっていなければ割増賃金の対象になるということは注意が必要ですね。
大熊社労士:
 そうですね。それでは本題の歩合給の取り扱いについて解説しましょう。歩合給も割増賃金を計算する際に対象とする必要がありますが、その計算においては特殊な計算方法を行います。通常の時間外割増賃金を計算する際には、対象賃金を「所定労働時間」で割った上で割増率をかけるのですが、歩合給の場合はその賃金算定期間の「総労働時間」で割って、割増率をかけるのです。歩合給は1ヶ月間丸々働いた結果に出てきたものであることから、所定労働時間ではなくその月の総労働時間で割ることになります。例えば、1ヶ月当たりの所定労働時間が160時間であったとしても、対象となる月の総労働時間が200時間であれば、歩合給部分の割増賃金については200時間で割り、それに割増率と時間外労働時間をかけて支給するという取扱いをします。
宮田部長:
 そうなんですね。確認しておいてよかったです。ありがとうございました。それでは今日のお話も踏まえて、当社の歩合給の仕組みについて考えてみたいと思います。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は割増賃金の計算方法について取り上げてみましたが、併せて時間外労働時間の端数処理について確認しておきましょう。まず時間外労働時間の時間数については、原則1分単位で集計する必要があり、15分や30分単位で処理することはできません。ただし、1ヶ月全体で時間外労働時間数を集計した際に端数が生じた場合については、給与計算の簡便化という観点から30分未満の場合にこれを切り捨て、それ以上の場合には1時間に切り上げても問題ないとされています。あくまで端数処理ができるのは1ヶ月集計した後であることを押さえておきましょう。


 次に割増賃金の計算において1時間当たりの賃金や1時間当たりの割増賃金の額に円未満の端数が生じた場合に、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上の端数は1円に切り上げることは労働基準法違反として取り扱わないとされています(昭和63年3月14日 基発第150号、婦発第47号)。そして、最終的に1時間当たりの割増賃金の額に1ヶ月全体の時間外労働時間数をかけて計算した割増賃金の合計額についても50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上の端数は1円に切り上げることは、常に労働者に不利になるものではなく、事務を簡便にする目的であることから労働基準法に違反するものではないとされています。


 このように割増賃金の端数処理については上記の内容に当てはまっている必要がありますので、割増賃金の計算方法や端数処理の仕方に問題ないのか、念のため確認しておきましょう。



関連blog記事
2009年4月29日「[ワンポイント講座]半日年休を取得し、午後から勤務した場合の時間外労働の取扱い」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51543552.html
2009年1月28日「[ワンポイント講座]特殊な業務に従事する労働者の時間外手当支給に関する特例」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51492715.html
2009年1月7日「[ワンポイント講座]兼業している従業員の労働時間管理・割増賃金支払の考え方」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51481288.html
2007年6月22日「高校生アルバイトの時間外労働の原則的取扱いとその例外」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51002296.html


参考リンク
山口労働局「割増賃金」
http://www.yamaguchi.plb.go.jp/relate/roudou/jyouken/jyouken04.html


(福間みゆき)


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