年次有給休暇の出勤率はどのように計算すればよいのですか

 服部印刷では、福島さんが年次有給休暇の付与を計算していたところ、育児休業を取得した者や通勤災害に遭い欠勤していた者について、その出勤率をどのように計算したらよいのか、分からなくなり困っていた。そこで今日はこの計算方法について、大熊社労士に相談することにした。


福島さん:
 大熊先生、こんにちは。そろそろ梅雨が明け、夏本番ですね。
大熊社労士:
 そうですね。関東甲信越では先日梅雨が明けたそうですが、それ以外の地区はもう少しかかるようですね。
福島照美福島さん:
 今日は年次有給休暇の付与にあたって、その出勤率の計算方法を教えて頂きたいと思っています。いくつかお聞きしたいことがあるのですが、まずは育児休業取得者の出勤率の計算です。これはどのように計算すればよいのでしょうか?
大熊社労士:
 なるほど、そこは実務で迷いやすいポイントですね。それでは原則論から順番にお話して行きましょう。まず労働基準法は、6カ月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、年次有給休暇を与えなければならないと定めています。この「労働日」とは労働契約において従業員が労務の提供を行わなければならないとされている日のことを指しています。最近は生産調整等のために一時帰休(休業)を行っているケースがありますが、この休業させている日はこの労働日には含まれません。
福島さん:
 つまり分母となる労働日の日数にはカウントしないということですね。
大熊社労士大熊社労士:
 その通りです。あまり例はないと思いますが、1年間休業をしていて労働日がなかったという場合については、通達(昭和27年12月2日 基収第5873号)が出されており、「労働日が零となる場合は、前年に労働日のあることを前提とする法第39条の解釈上8割以上出勤するという法定要件を満たさないから、年次有給休暇の請求権は発生しない」とされています。次に出勤についてですが、これは労働契約に基づいて出勤しなければならない日のうち、実際に出勤した日のことを指しています。
宮田部長:
 休日出勤した場合は、どのように考えるのですか?
大熊社労士:
 そもそも休日は会社が労務の提供をしなくて良いとしている日ですので、休日出勤したとしても年次有給休暇の出勤率を計算する際には、対象とはしません。
宮田部長宮田部長:
 そうでしたか。これまで細かく確認していなかったので、これから注意します。
大熊社労士:
 そうですね。それでは今日の本題に入りますが、労働基準法第39条第7項において、次のような休業の日については、出勤したものとみなすことになっています。
業務上負傷しまたは疾病にかかり、療養のために休業した期間
育児・介護休業法の定めにより、育児・介護休業をした期間
産前産後の女性が、法の定めにより休業した期間
 つまり、育児休業を取得した方についは、その取得期間については出勤日に含めて計算する必要があります。なお、これは補足ですが年休を取得した日についても出勤とみなします。
福島さん:
 なるほど。育児休業日については分母・分子ともに、カウントして計算するということですね。わかりました。もう一つお聞きしたかったのが通勤災害の取り扱いなのですが、通勤災害に遭い、足を骨折して2週間欠勤した者がいます。その者ついてはの業務上負傷に該当すると考えてよいでしょうか?
大熊社労士:
 いいえ、通勤災害については、の業務上負傷・疾病には含まれませんので、出勤とみなす必要はありません。しかし、会社に通勤する際に災害にあったことを考えると、その取扱いについては一定の配慮をすることが多いように思います。
福島さん:
 ということは通勤災害の場合の原則は欠勤扱いということですね。確かにそれでは少し可哀相な感じがしますので、この件については社長に相談して取り扱いを決めておきます。今日はありがとうございました。

 

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は年次有給休暇の出勤率の計算方法について取り上げてみましたが、以下では休職期間の取扱いについて補足しておきましょう。これについては、関連する通達(昭和31年2月13日 基収489号)が出されており、「休職発令された者が年次有給休暇を請求したときは、労働義務がない日について年次有給休暇を請求する余地がないことから、これらの休職者は年次有給休暇請求権の行使ができない」とされています。そのため、休職期間については会社が労働義務を免除している期間となることから、分母・分子ともに除外して計算することになります。そのため実務上において、いつから休職に入ったのかをはっきりさせてお
くことが重要になりますので、休職させる際には書面を出しておくことが望まれます。


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(福間みゆき)

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