社員からの台風災害の被災による給料前借りの相談にはどのように対応すればよいですか
台風シーズンが近付いている。台風による住宅浸水などの被害はいつ、どこにおいても起きかねないことであり、宮田部長は台風災害により被災した社員から給料の前借りの相談があった場合の対応について、大熊社労士に相談することにした。
宮田部長:
大熊先生、こんにちは。先日も台風による大雨災害が起きましたが、自然災害は怖いものですね。
大熊社労士:
そうですね。集中豪雨によって、自宅が浸水するなどの大きな被害が出たようですね。
宮田部長:
今日はそんな災害が発生した際の対応について相談させてください。大雨や地震などの災害に遭い、自宅が浸水したり倒壊してしまい、自宅を修理するために社員から給料を前借りしたいといった相談があった場合には、会社としてはどのように対応すれば良いのでしょうか?
大熊社労士:
なるほど、そういうことですか。労働基準法第25条を見ると非常時払という条文が定められており、「使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他命令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合において、支払い期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない」とされています。つまり、台風などの災害にあった場合で急にお金が必要になり、社員から請求があった場合、会社は給与の前借りを認めなければならないとされています。
宮田部長:
災害などの特別な事情が生じた場合は、請求があれば賃金の支払い前であっても会社は賃金を支払う必要があるということですね。
大熊社労士:
はい、そのとおりです。社員が非常時払いを請求することができるケースとしては、労働基準法施行規則第9条に定めがあり、次のような場合とされています。
労働者の収入によって生計を維持するものの出産、疾病、災害
労働者またはその収入によって生計を維持する者の結婚、死亡
労働者またはその収入によって生計を維持する者が、やむを得ない事由により1週間以上にわたって帰郷する場合
なお、「労働者の収入によって生計を維持する者」については、労働者が扶養の義務を負っている親族に限らず、労働者の収入で生計を営む者であれば同居人であっても問題ないとされていますが、親族であっても独立の生計を営む者については対象とならないことに注意が必要です。
宮田部長:
出産や疾病、災害等の不時の出費を必要とする事情が該当するのですね。それでは「既往の労働に対する賃金」とはどの範囲の賃金を指しているのでしょうか?
大熊社労士:
はい。「既往」とは原則として請求日までの賃金を指しますが、労働基準法第25条の趣旨を考えると、社員から特に請求があれば、実際に支払いを行う日までの賃金(これは請求から支払いの時まで労働しているという前提があることから)を支払うべきという見解もあるようです。
福島さん:
なるほど。それでは現実的な話として、罹災による損害が大きく、多額の費用を必要とするとして、例えば給料の3ヶ月分を前借したいといってきた場合、どうすればよいのでしょうか?
大熊社労士:
3ヶ月分となるとまだ労務提供を受けていない期間に対する賃金についても請求していることになりますので、会社としては、その労務提供を受けていない部分の賃金を支払う義務はありません。どうしてもという話になれば、現実には貸付を行うということが多いのではないでしょうか。
福島さん:
なるほど、貸付で対応ということですか。
大熊社労士:
そんなに頻繁に発生する事例ではないと思いますが、貸付を行う事由と限度額、その他の取り扱いについては総務部内で目安を作成しておいても良いかも知れませんね。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は非常時払について取り上げてみましたが、この労働基準法第25条については罰則(労働基準法第120条第1号)が設けられており、これに違反した使用者は、30万円以下の罰金が処されることになっています。また、会社が非常時払いに応じなかったり、請求から相当な時間が過ぎた後に支払が行われた場合に、労働者から損害が生じたとして賠償請求が行われれば、会社は損害賠償責任を負う(民法第709条)ことにもなりかなねませんので、注意が必要です。
参考リンク
兵庫労働局「賃金」
http://www.hyougo-roudoukyoku.go.jp/seido/roudou_jyouken/roudou_joken01/chingin.htm
(福間みゆき)
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