精神障害等の労災認定はどのように行われるのですか?

 最近、大熊社労士のもとには関与先からうつ病による休職の相談が度々寄せられるようになっていた。服部印刷では以前から過重労働対策に力を入れていることから、本日は精神障害等の労災認定というテーマで宮田部長にも話をすることにした。



宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。10月に入り衣替えの時期ですね。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。まだまだ暑い日もあるのにクールビズが終わってしまうのはきついですよ。それにしても御社ではこれから年度末にかけて繁忙期に入っていきますから、過重労働にならないように注意したいですね。最近は仕事による心理的負荷が原因で精神障害となり、労災申請されるケースが増えていることから、精神障害等による労災認定についてお話しておきたいと思います。
宮田部長:
 少し前に新聞で読んだのですが、精神障害にかかる労災の支給決定が増加しているそうですね。
大熊社労士:
 はい、そのとおりです。精神障害の請求件数は平成19年度から900件を超えており、そのうち労災の支給決定件数は269件(平成20年度)と前年度を上回っています。この労災認定は労働基準監督署が行いますが、労災請求事案の業務上・外を判断するために「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(平成11年9月14日 基発第544号)という指針を出しています。この指針は策定されてから10年が経っており、労働環境の急激な変化等によって、業務の集中や職場でのひどいいじめによる心理的負荷などが生じることから、今年の4月に見直しが行われました。
宮田部長:
 最近は業績の悪化による人員削減の結果、残った社員に業務が集中していることがあったり、営業ノルマが達成できなかった場合に上司が人格を否定するような発言をしてしまい、こういったことが心理的に大きな負荷になっていることがあるようですね。
大熊社労士:
 そうですね。最近はそうした問題が多くの企業で急増しています。それではまずは精神障害に関する労災認定の方法について解説しましょう。精神障害は次の(1)から(3)が複雑に関係しあって発病するとされています。
(1)事故や災害の体験、仕事の失敗、過重な責任の発生等の業務におる心理的負荷
(2)自分の出来事等の業務以外の心理的負荷
(3)精神障害の既往歴等の個体側要因
 そのため労災か否かを判断する際は、これらの事項について具体的に検討し、発病した精神障害との関連性について総合的に判断することになります。
宮田部長:
 どのような場合に、労災として認められるのでしょうか?
大熊社労士:
 判断要件として次の1.から3.の要件をすべて満たす精神障害の場合、業務上の疾病として取り扱うことになっています。
1.対象疾病に該当する精神障害を発病していること。
2.対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること。
3.業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと。
宮田部長:
 具体的な出来事を挙げて心理的負荷があったかどうかを調べることになるのでしょうか?
大熊社労士:
 そうですね。ては、この評価方法としては、「職場における心理的負荷評価表」というものを用いて、業務による心理的負荷の強度を評価することになっています。(関連ブログ記事:2009年4月7日「パワハラの追加など、改正が行われた精神障害等に係る労災認定の判断指針」)
宮田部長:
 仕事の失敗、過重な責任の発生、役割・地位等の変化、対人トラブルなど細かく分類されているのですね。
大熊社労士:
 はい。今回の判断指針の改正によりこの心理的負荷評価表が変更され、「具体的出来事」に次の12項目が新たに追加されました。
(1)違法行為を強要された
(2)自分の関係する仕事で多額の損失を出した
(3)顧客や取引先から無理な注文を受けた
(4)達成困難なノルマが課された
(5)研修、会議等の参加を強要された
(6)大きな説明会や公式の場での発表を強いられた
(7)上司が不在になることにより、その代行を任された
(8)早期退職制度の対象となった
(9)複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった
(10)同一事業場内での所属部署が統廃合された
(11)担当でない業務として非正規社員のマネージメント、教育を行った
(12)ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた
 この中でも、(12)ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けたという項目が追加されたことに、注意が必要です。
宮田部長:
 それはなぜでしょうか。
大熊社労士:
 改正前の評価表では、上司からの嫌がらせ、いじめ等については「上司とのトラブルがあった」という項目で評価をしていましたが、その嫌がらせやいじめの内容や程度が指導の範囲を逸脱し、人格や人間性を否定するような言動が認められる場合には、今回追加された項目で評価することになりました。また実際に評価表を見ていただきたいのですが、心理的負荷の強度が一番強い「Ⅲ」になっていることも注目すべきですね。
宮田部長宮田部長:
 つまり、ひどい嫌がらせやいじめ等については、心理的負荷が強いものとして評価されることになったということですね。会社としては、現場の管理職に対して部下を指導する際、指導の範囲を超えて人格や人間性を否定するような言動をしないように注意を促しておく必要がありますね。
大熊社労士:
 管理職が集まる機会を利用して、「仕事の失敗を執拗に追及していないか」や「必要以上に怒鳴っていないか」など、普段の言動を振り返ってもらい、気をつけてもらうように注意喚起しておかくことが求められますね。
宮田部長:
 今週、会議がありますのでその時に話をしてみます。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は精神障害等の労災認定について取り上げてみましたが、ここで判断指針の改正に伴い、心理的負荷評価表の「具体的出来事」が12項目追加されただけでなく、修正も行われましたので、これについて補足しておきましょう。修正された箇所は、以下の下線部分です。
(1)重度の病気やケガをした
(2)会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした
(3)顧客や取引先からのクレームを受けた
(4)仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった
(5)勤務・拘束時間が長時間化する出来事が生じた
(6)非正規社員であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた
(7)部下とのトラブルがあった(※強度をⅠからⅡへ変更)


 今回の改正に伴い、特に注意すべき点としては「パワハラ」と「過重労働」があり、会社として具体的なアクションをとっていくことが求められています。



関連blog記事
2009年9月3日「精神障害等の労災認定について-平成21年4月に一部改正されました」
http://blog.livedoor.jp/leafletbank/archives/50527968.html
2009年6月13日「高水準で推移する過重労働に基づく過労死・精神障害の労災認定件数」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51569629.html
2009年4月7日「パワハラの追加など、改正が行われた精神障害等に係る労災認定の判断指針」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51532274.html
2009年3月6日「厚生労働省から公開されたセクシュアルハラスメントアンケート」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51512374.html
2008年12月16日「管理職研修に最適!ネットで見られるメンタルヘルス啓発ビデオ」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51468353.html
2008年10月26日「様々な企業でのメンタルヘルス対策の事例集がダウンロードできます」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51435846.html
2008年10月25日「メンタルヘルス不全防止に向けた「セルフケア」のポイントをまとめた小冊子」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51435831.html
2008年10月23日「企業のメンタルヘルス対策は「労働者からの相談対応の体制整備」から」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51433399.html
2008年9月5日「職場で急増する職務内容や負荷、環境に関する悩み」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51402104.html
2008年9月3日「スタートした「メンタルヘルス不調者等の労働者に対する相談機関による相談促進事業」」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51402085.html
2008年9月2日「長時間労働者への医師による面接指導の記録保存」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51401811.html
2008年8月30日「メンタル・ヘルス研究所から発表された2008年版「産業人メンタルヘルス白書」」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51399413.html
2008年8月18日「メンタルヘルスケアに活用できる「職場環境改善のためのヒント集」ダウンロード開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51393225.html
2008年8月11日「メンタルヘルス対策が重点課題とされている第11次労働災害防止計画」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51389275.html
2008年8月9日「依然として増加傾向にある企業における「心の病」」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51387837.html
2008年6月16日「前年度比1.9倍と急増するセクシュアルハラスメント等に関する相談」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51352378.html
2008年5月29日「過重労働に基づく過労死・精神障害の労災認定件数が過去最高を記録」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51338576.html


参考リンク
厚生労働省「平成20年度における脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況について」
http://www-bm.mhlw.go.jp/houdou/2009/06/h0608-1.html
厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策・心身両面にわたる健康づくり(THP)」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html
厚生労働省「「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」の一部改正について~職場における心理的負荷評価表に新たな出来事の追加等の見直しを行う~」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/04/h0406-2.html


(福間みゆき)


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