退職金は請求後7日以内に支給しなければならないのですか?

 服部印刷では、先月末に退職した者から、すぐに退職金を支払って欲しいという申し出が宮田部長のもとに寄せられていた。就業規則をみると「退職後2ヶ月以内に支払う」と規定されていたことから、宮田はその対応について大熊社労士に相談することとした。



宮田部長:
 大熊先生、先月末に退職した者から、すぐに退職金を支払って欲しいという連絡がありまして、どうしようか困っているんですよ。
大熊社労士:
 退職金ですか。
宮田部長宮田部長:
 はい。本人が言うには、労働基準法第23条に定めがあり、請求があった場合は7日以内に支払うことになっているので、7日以内に退職金を支払って欲しいと言ってきたのです。
大熊社労士:
 そうでしたか。それでは労働基準法第23条の内容を確認しましょう。労働基準法第23条は「金品の返還」について定めをしており、「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない」としています。
宮田部長:
 ということはやはり7日以内に支払わなければならないのでしょうか?
大熊社労士:
 いいえ、必ずしもそうではありません。そもそもこの規定が設けられた背景には、賃金や積立金など従業員の権利に属する金品を迅速に本人に返還しなければ従業員の足止め策に使われたり、本人が生活に窮すること等があるため、それを防ぐためにできるだけ早く清算するようにという考えがあります。
宮田部長:
 確かに、退職後は会社との連絡が取りにくくなることがありますね。
大熊社労士:
 そうですね。そもそも退職金がこの労働基準法第23条の賃金に該当するのかという点が論点となりますが、就業規則で支給条件が明確になっているものは労働基準法第11条の賃金に該当し、労働基準法第23条の賃金の適用を受けることになります。
宮田部長:
 退職金も賃金の一つということですね。
大熊社労士大熊社労士:
 しかし、そもそも退職金制度は、その制度の創設自体を会社が決めることができるとされています。そのため、退職後請求があり7日を経過してしまっても、あらかじめ特定した期日が到来するまで退職金は支払わなくても差し支えないと考えられています(昭和26年12月27日基収5483号、昭和63年3月14日基発150号・基発47号)。
宮田部長:
 つまり、就業規則に定めてある期間までに支払えば、会社としては問題ないということですか?
大熊社労士:
 そのとおりです。また、退職金は高額になるケースがあることから、会社としてもその資金を用意することに時間がかかったり、外部積立をしているような場合、手続に時間がかかることがありますので、請求から7日以内に支払うということは実務上、難しいですね。その間は、退職者に待ってもらう必要が出てきます。
宮田部長:
 当社も外部積立をしておりますので、実際に1ヵ月は時間がかかります。会社としては退職金規程にあるように、退職後2カ月以内に必ず払うように手続していますので、いつ頃の支払いになるのかを伝えてみます。
大熊社労士:
 それが良い対応ですね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は退職金の支払い時期について取り上げてみましたが、退職前に請求があった場合、これに応じる必要があるのかついて補則しておきましょう。退職金については従業員の退職がその支給事由になりますので、退職前においてはその請求権はありません。また今回取り上げた労働基準法第23条第1項は、従業員が退職した場合についてその支払い時期を定めたものであることから、退職前に請求してきたとしても応じる必要はないということになります。なお、就業規則に退職金の支払い期日の定めがない場合は、支払いの慣行があればそれに基づき、慣行がなければ労働基準法第23条に従って請求があれば7日以内に支払う必要が出てきます。そのため、会社の規程がどのようになっているのか一度チェックしてみることが望まれます。


[関連法規]
労働基準法 第23条(金品の返還)
 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
2 前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。



関連blog記事
2007年6月26日「退職金規程[別テーブル方式]」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54548198.html
2007年6月25日退職金規程[中退共利用確定拠出型(職位別掛金設定)]
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54548005.html
2007年6月22日「退職金規程[中退共利用確定拠出型(グレード別掛金設定)]」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54547610.html
2007年6月21日「退職金規程[中退共利用確定拠出型(報酬連動掛金設定)]」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54547398.html
2007年6月20日「退職金規程[中退共利用確定拠出型(定額掛金設定)]」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54545770.html
2007年6月19日「退職金規程[ポイント制(資格ポイントのみ)]」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54519081.html
2007年6月18日「退職金規程[ポイント制(勤続ポイント+資格ポイント)]」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54519005.html
2007年6月15日「退職金規程[定額制] 」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54507369.html
2007年6月14日「退職金規程[最終給与比例方式] 」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54507179.html
2007年1月7日「退職金計算書」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51341520.html


(福間みゆき)


当社ホームページ「労務ドットコム」および「労務ドットコムの名南経営による人事労務管理最新情報」「Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog」にもアクセスをお待ちしています。