在宅勤務者の労働者性はどのように判断するのですか?

 服部印刷では現在、育児休業を取得している社員がおり、その社員から復帰に当って在宅勤務を認めてもらえないかという申し出があった。そこで宮田部長は、在宅勤務について大熊社労士に相談することにした。



宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。この週末はとても寒かったですね。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。日本海側を中心に大雪になったようですね。これからの時期は雪で公共交通機関に乱れが出やすいので、それで遅刻をした社員についてどのように扱えばよいかという質問が増えそうです。
宮田部長:
 なるほど、労務の相談もシーズンによって変わるのですね。夏は熱中症対策のような相談も多いでしょうしね。さて、今日は育児休業終了者から在宅勤務の相談があったものですから、在宅勤務制度の取扱いについて教えてもらいたいと思っています。
大熊社労士:
 わかりました。最近はインターネットの普及で、職種によっては在宅でもかなりの仕事ができるようになっていますので、育児や介護などの事情があり、社員が退職することなく仕事を続けることができる手段として、在宅勤務制度を導入する企業が少しずつ増えていますね。今回は社員の方が在宅勤務者になるというお話ですが、SOHOのように個人の方が企業から業務を請負い、在宅で勤務するような場合もあります。
宮田部長宮田部長:
 なるほど。一言で在宅勤務といっても、労働者として在宅勤務するケースと業務を請負い在宅で仕事をするようなケースの2つに分かれるのですね。
大熊社労士:
 そのとおりです。同じ在宅勤務者であっても、労働基準法に定める「労働者」に該当するか否かが分かれるため、会社の方で「労働者」に該当しない在宅勤務を導入する場合は、労働者性の要素がないようにしておく必要があります。
宮田部長:
 具体的にはどのように考えれば良いのでしょうか?
大熊社労士:
 はい、これは通常の労働者と同じ基準によって判断します。基本として、その者が労働者であるか否かをを判断する要素は(1)使用従属性と(2)労働者性の2点があり、この(1)使用従属性に関する判断基準は(1)-1「指揮監督下の労働」に関する判断基準と、(1)-2報酬の労務対償性の有無から検討します。具体的にみていくと、(1)-1「指揮監督下の労働」に関する判断基準とは以下の4つの要素から構成されます。
(イ)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
(ロ)業務遂行上の指揮監督の有無
(ハ)拘束性の有無
(ニ)代替性の有無(※指揮監督関係の判断を補強する要素)
 次に、(1)-2報酬の労務対償性の有無とは、報酬が時間給や月給等、時間を単位として計算されている場合は、「使用従属性」が強いのではないかと考えられ、補強する重要な要素となります。
宮田部長:
 指揮命令権の有無や仕事の依頼があったときの諾否の自由があるか否かという点がポイントになるのですね。
大熊社労士:
 そのとおりです。次に「労働者性」については、(2)-1事業者性の有無や(2)-2専属性の程度などから判断することになります。(2)-1事業者性の有無は、機械・器具の負担関係と報酬の額からみていくことになり、自宅に設置する機械、器具が会社より無償貸与されている場合には、「事業者性」を薄める要素として考えることになります。報酬の額については、その額が、同じ会社で同様の業務に従事する社員と比べて著しく高額な場合には「労働者性」を薄める要素として考えることになります。
宮田部長:
 請負の場合は、機械・器具の負担をさせておいた方が良いのですね。
大熊社労士:
 そうですね。(2)-2専属性の程度とは、例えば他社の業務に従事することが制約されているような場合は専属性の程度が高く、「労働者性」を補強する要素のひとつとして考えることになります。また、報酬に固定給部分が設けられているような場合は、生活保障的要素が強いとされる場合があり、「労働者性」を補強する要素のひとつになるようです。その他、報酬について給与所得としての源泉徴収を行っているか否か、労働保険の対象としているか否か、採用、委託等の際の選考過程が社員の場合と同じような取扱いになっているか否か等は、「労働者性」の有無が明確とならない場合に判断基準のひとつとして考えることになりますので、注意が必要です。
宮田部長:
 業務委託にするような場合は、社員との扱いと明確な違いを設けて取扱う注意がありますね。次回は、在宅勤務の導入する際のポイントを教えてください。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は在宅勤務者の労働者性について取り上げてみましたが、ここで業務委託による在宅勤務を行う場合の業務委託契約書について補足しておきましょう。この契約書には、主に以下の項目について定めることになります。
(1)委託業務の内容
(2)契約期間・納期
(3)支払金額(委託料)
(4)支払方法(一括、分割、現金、手形など)
(5)機密保持(別途、機密保持契約書を締結する場合あり)
(6)解除要件


 会社としては、契約時に業務委託の内容を明確にしておき、後でトラブルにならないように契約書を締結しておくことが求められます。



関連blog記事
2008年11月12日「[ワンポイント講座]在宅勤務者の労働時間はどのように取り扱うのか」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51447800.html


(福間みゆき)


当社ホームページ「労務ドットコム」および「労務ドットコムの名南経営による人事労務管理最新情報」「Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog」にもアクセスをお待ちしています。