複数事業所で勤務する従業員の雇用保険料や失業手当の取扱い
前回(2010年8月2日のブログ記事「複数事業所で勤務する従業員の雇用保険はどこで加入しますか?」参照)は、他の事業所に勤務する従業員の雇用保険の加入について取り上げたが、今週はそれを受け、その場合の雇用保険料の取扱いやその他の注意点について解説する。
福島さん:
大熊先生、先日はありがとうございました。
大熊社労士:
あぁ、雇用保険の件ですね。どうでしたか?御社ではなく、もう一方の事業所さんでの加入ということで問題なさそうですか?
福島さん:
はい、確認したところ、やはり飲食店の方が多い労働時間も長く、給料も多いそうです。といっても、当社でもきちんと働きますよとおっしゃっていました。
宮田部長:
勤労意欲の高い方だったからね。おそらくきっちり業務を行ってくれるでしょう。
大熊社労士:
それはよかったですね。
福島さん:
ちなみに先生、愚問なのかもしれませんが、給料計算で彼女の雇用保険料は控除しなくてもいいのですよね?
大熊社労士:
愚問なんかじゃありませんよ、それ、気になりますよね。おっしゃるとおり、控除しないというのが正しい処理ですよ。
福島さん:
よかった~。当たり前だからこそ疑問に感じてしまいました。
大熊社労士:
そうかもしれませんね。あくまでも1つの事業所のみでの加入になりますから、雇用保険料も加入している事業所の給料のみから徴収されますし、離職票も当然加入している事業所の給料のみで作成されることとなりますよ。
福島さん:
ということは失業した際の基本手当の額も低額になりがちですね。
大熊社労士:
はい、おっしゃるとおりです。これは制度上、やむをえないことだと言えるでしょうね。
福島さん:
先生、仮に今後、あちらを退職されて当社のみで勤務することとなった場合にはどのようにすればよいのですか?
大熊社労士:
はい、御社で1週20時間以上働くという前提でお話を進めますね。まずは基本手当ですが、御社で働いているために受給できないと考えるべきです。
福島さん:
「失業」と認定されないということですね。
大熊社労士:
はい、そうです。そして、御社で雇用保険に加入することとなります。
福島さん:
そうか、当社で加入しなくてもよいのは、あちらで加入しているからであって、あちらで加入しなくなったら当社のみで働いている人と同じ取扱ですものね。
大熊社労士:
そうなんです。これまでは手続きをするときは大抵が入社時か労働条件を見直したときでしたが、このケースは異なるので厄介ですね。
宮田部長:
これは手続きを漏らしそうですね。雇用保険に加入している他の事業所を退職した際に、本人から申し出を受ける仕組みを作らないといけなさそうですね。
大熊社労士:
おっしゃるとおりです。知らないうちに退職していたということも十分考えられますからね。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。複数の事業所で勤務し、いずれの事業所でも雇用保険の被保険者としての加入要件を満たす場合には、1つの事業所でのみ加入することとなります。この際には当然ながら、加入している事業所で支払われる賃金のみで保険料の計算や基本手当の日額の計算を行うこととなります。加入している事業所で退職をした場合、その事業所で被保険者資格を喪失することとなりますが、他事業所で加入要件を満たしている場合には、新たにその事業所で被保険者資格を取得することとなります。すべての状況を確認し続けるのはなかなか難しいため、労働保険の年度更新の時期などに、一定額以上の賃金を受けているにもかかわらず、雇用保険に加入していない人を抽出し、確認をするなどの仕組みを設け、取得漏れを起こさないようにする必要があるでしょう。
関連blog記事
2010年8月2日「複数事業所で勤務する従業員の雇用保険はどこで加入しますか?」
https://roumu.com/archives/65390753.html
(宮武貴美)
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