36協定締結後に採用した従業員にも時間外労働をさせることはできますか?

 服部印刷では、1月1日を始期として期間1年間の36協定を締結しているが、協定締結後に新入社員を採用することになった。この採用によって36協定の適用をうける労働者数が変更になるが、その対応について宮田部長は気になっていた。



宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。今度新人を採用するのですが、少し気になっていることがあるんです。
大熊社労士:
 そうですか、どういったことを心配されているのですか?
宮田部長宮田部長:
 当社では毎年1月1日に36協定を締結しているのですが、新入社員を採用した場合には、労働者数が増えてしまいます。こうした場合には36協定を再度締結したり届出たりする必要があるのでしょうか?
大熊社労士:
 なるほど、それでは今日は36協定の届出後に協定内容に変更があった場合の対応についてお話しましょう。
宮田部長:
 よろしくお願いします。
大熊社労士:
 ところで新入社員の方は、既存の社員の方達と仕事の内容は同じですか?
宮田部長:
 はい、工場のほうに入ってもらうので、しばらくは先輩社員のもとで機械の操作などを行ってもらう予定になっています。
大熊社労士:
 なるほど分かりました。それであれば労使協定の再締結や再届出はなくてもよいでしょう。
宮田部長:
 そうですか、よかったです。
大熊社労士:
 念のため36協定ではどのような内容について、労使協定を締結するのかを確認しておきましょう。36協定で締結すべき事項は以下の6項目とされています。
時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由
業務の種類
労働者の数
1日に延長することができる時間
1日を超え3ヶ月以内の期間に延長することができる時間
1年間に延長することができる時間
労働させることができる休日
宮田部長:
 そうですね。当社で届出をしている協定書もそのような内容が記載されています。
大熊社労士:
 これらの内容については変動があった場合には、原則として新たに労使協定を結びなおす必要がありますが、労働者の数については他の内容とは少し性格が違うと考えることができます。多くの企業において36協定の有効期間を1年と定めていますが、通常1年の間には入退社が発生するでしょう。
宮田部長:
 そうですね。当社でも年間にそれぞれ5名程度は入退社が発生します。
大熊社労士大熊社労士:
 そのように労働者数が変動した際、36協定の再締結や再届出が必要かについて直接規定されたものはありませんが、労使協定の有効性についての通達の中で、「過半数代表者については、労働者の過半数は、協定成立時の効力要件であるからその後過半数を満たさなくなってもその効力に影響を及ぼさない」とした通達があります。また協定の当事者、つまり会社側と労働者代表にとっても、労働者の数が労使協定の有効期間中に変動することは想定内のことでしょう。以上のことから考えると、労働者数の変動については労使協定の再締結や再届出は不要と解することができます。
宮田部長:
 なるほど、労使協定の際に、労働者数の増減については、再締結を要しないことを会社と労働者代表の間で合意しておくのがよさそうですね。
大熊社労士:
 そうですね。そうしておくとより安心ですね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。36協定の有効期間を決める際に参考となる通達と告示を2つ紹介しておきましょう。まずひとつは、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」第2条において「一定期間は1日を超え3箇月以内の期間及び1年間としなければならない」とされているもの。そしてもうひとつが、「時間外労働協定の有効期間は1年以上で問題はないか?」と言う質問に対して「時間外労働協定について定期的に見直しを行う必要があると考えられることから、有効期間は1年間とすることが望ましい。」(平成11年3月31日 基発169号)という通達があります。以上の告示と通達によって、36協定の有効期間については、「必ず1年間については協定する必要があること」と「有効期間は1年間とすることが望ましい」とされていることは36協定の有効期間を決める際に参考にしたいものです。


[関連法規]
労働基準法施行規則 第16条
 使用者は法第三十六条第一項の協定をする場合には、時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者の数並びに一日及び一日を超える一定の期間についての延長することができる時間又は労働させることができる休日について、協定しなければならない。


[関連告示]
労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準 平成10年12月28日 労働省告示154号 最終改正平成21年5月29日厚生労働省告示316号) 第2条(一定期間の区分)
労使当事者は、時間外労働協定において1日を超える一定の期間(以下「一定期間」という。)についての延長することができる時間(以下「一定期間についての延長時間」という)を定めるに当たっては、当該一定期間は1日を超え3箇月以内の期間及び1年間としなければならない。


[関連通達]
平成11年3月31日 基発169号
問 時間外労働協定の有効期間は、一年以上であれば限度はないか。
答 時間外労働協定について定期的に見直しを行う必要があると考えられることから、有効期間は一年間とすることが望ましい。


(中島敏雄)


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