従業員に所持品検査をすることはできるのでしょうか?

 服部印刷では最近、社内の備品を持出す従業員がいるという噂が出ていることから、宮田部長は従業員に対して所持品検査を実施すべきかどうか悩んでいた。



宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。実は最近、残念なことに最近会社の備品を持ち出す従業員がいるようなんです。その従業員に対して所持品検査をすることは可能でしょうか?
大熊社労士:
 所持品検査ですか。所持品検査をすることは可能ですが、その従業員のみに対して行うことは問題がありそうですね。所持品検査を行うにあたっては4点ほど注意点がありますので、順番に見ていくこととしましょう。まず、企業は従業員に対して当然に所持品検査を行えるわけではありませんので、就業規則に所持品検査を実施する根拠が必要です。就業規則にそういった規定はありますか?
宮田部長宮田部長:
 ええっと、所持品検査、所持品検査。あ、ありました。「従業員は事業場に日常携帯品以外の私品を持ち込んではならない」「従業員が前項以外の私品を持ち込み、ないし使用人の物品を事業場外に持ち出すおそれがある場合、使用者は従業員に対し所持品の点検を求めることができる。従業員はこの点検を拒むことができない」とあります。
大熊社労士:
 そうですか。それでは就業規則に根拠があるという点では問題はないですね。2点目の注意点は所持品検査を実施する場合でも、それは従業員に対して画一的に実施される必要があるということです。
宮田部長:
 はあ、持出しをした者はなんとなく目星はついているのですが、すべての従業員に対して実施しなければならないということでしょうか?
大熊社労士:
 そのとおりです。ある裁判例によりますと、従業員の中に、年に1,2回しか所持品検査を受けない者もいれば、日に2度も検査を受ける者がいるというようなケースに対しては、会社には検査者に対するする配慮が足りなかったとして、その所持品検査を違法と判断したケースがあります。所持品検査は一律的・画一的に実施すべきでしょうね。
宮田部長:
 なるほど、確かに確証がないのに、憶測だけでその従業員だけを検査するのは、問題がありそうですね。そのほかの注意点はどういったところでしょうか?
大熊社労士:
 あとは、その検査方法についても配慮する必要があるでしょうね。
宮田部長:
 検査方法ですか?どのような検査方法が問題になるのでしょうか?例えばカバンの中身を空けて覗き込むことは問題になるのでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 う~ん。できれば検査者がカバンを空けるのではなく、従業員自身にカバンの中身を空けてもらったほうがいいでしょうね。私がある大手メーカーで働いていたときに時々退社時にカバンの中身をチェックされたことがありますが、守衛の前に自らカバンをおいて自らカバンをあけました。守衛はカバンには手をふれずに中身を確認するだけでしたね。
宮田部長:
 ズボンやポケットの中を触って確認するようなことは、やはりまずいでしょうかね?
大熊社労士:
 それは避けていただいた方がよいですね。検査者が直接手で触って、チェックすると言った行為は、被検査者に屈辱感や侮辱感を与えますので、適切な検査方法とはいえないでしょうね。
宮田部長:
 確かに触られるのは、疑われているようで気分のよいものではありませんね。あとは、どういったところに気をつけなければならないのですか?
大熊社労士:
 4点目は、検査を行う合理的な理由があることです。たとえば、ある会社では、社内のいたるところに銅地金類が保管されていて、外部への持出しが可能な状態であった場合に、持出しを防ぐために所持品検査を行うことには合理性があるとされました。先ほどお話しました以前私が勤務していたメーカーにおいては、企業の機密漏洩を防ぐためといった合理的な理由がありました。
宮田部長:
 当社のように、備品持出し防止のために、所持品検査を行うことは合理的な理由とされるのでしょうか?
大熊社労士:
 合理性という点では、問題があるかもしれませんね。所持品検査が適法とされた例を見てみますと、高額品の持出しや新商品の開発などの機密漏洩の防止のための所持品検査が適法と判断されていますが、備品の持出しを防ぐというのでは、少し弱いような気がします。
宮田部長:
 なるほど。確かに所持品検査となると少しことが大きくなってしまいそうですね。まずは、備品の管理ノートをしっかり記入させるなど別の方法から考えてみます。
大熊社労士:
 そうですね、まずはそれがよいと思いますよ。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。今回は所持品検査についてとりあげました。所持品検査については、最高裁判例(西日本鉄道事件 最高裁二小 昭和43年8月2日判決)を理解しておく必要があります。この判決においては、所持品検査は労働基準法所定の手続きを経て作成・変更された条項に基づいて行われたことのみをもって当然に適法とされるものではないとされており、以下の4点を満たす所持品検査である場合には、適法となり、従業員は検査を受任すべき義務があるとしています。
就業規則などに実施の根拠を示すこと
検査を行う合理的理由があること
検査の方法、程度が妥当であること
制度として画一的に実施されること


[関連判例]
西日本鉄道事件 昭和43年8月2日 最高裁(2小) 
使用者がその企業の従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止のために行う所持品検査は、「その性質上常に人権侵害のおそれをともなうものであるから、たとえ、それが企業の経営・維持にとって必要かつ効果的な措置であり、他の同種の企業において多く行われるところであるとろしても、また、それが労働基準法所定の手続きを経て作成・変更された就業規則の条項に基づいて行われ、これについて従業員組合または当該職場従業員の過半数の同意があるとしても、そのことの故をもって、当然に適法視されうるものではない。問題は、その検査の方法なし程度であって、所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。そして、このようなものとしての所持品検査が、就業規則その他、明示の根拠に基づいておこなわれるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無でないとしても、従業員は、個別的な場合に、その方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、検査を受任すべき義務があり、かく解しても所謂憲法の条項に反するものでない。」


(中島敏雄)


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