始末書と顛末書の違いを教えてください

 服部印刷では、社内の備品を壊した従業員が始末書は提出しないと言い張っており、宮田部長は困って大熊に相談していた。



宮田部長宮田部長:
 大熊先生、先日わが社の従業員が社内の備品を不注意で壊したため、始末書を書かせるように指示したところ、「なぜ始末書を書かなければいけないのか」と始末書の提出を拒否されました。困ったものです…。
大熊社労士:
 なるほど、備品を壊したというのはどのような状況だったのですか?
宮田部長:
 はい、作業台に手を突いたところ、机の脚がグラグラしていたようで置いてあった花瓶を落として、壊してしまったのです。。
大熊社労士:
 なるほど、それで始末書の提出をさせようとしたところ、拒否されているということですね?
宮田部長:
 ええ、当社では昔から、しつけとして始末書の提出を求めています。出張の際の領収書をもらい忘れたり、遅刻をした場合など、何かあれば始末書を書かせるようにしています。以前はみな素直に始末書を書いたものですが、最近は始末書の提出を嫌がるものも増えてきています。
大熊社労士:
 なるほど、そういうことでしたか。実は業務上のミスなどを起こした場合に従業員から提出させるものとしては始末書が一般的ですが、顛末書というものもあります。この2つを上手に使い分けたいところです。
宮田部長:
 そうなんですか?始末書というのは、「こんな事実があった。だから申し訳ありません。今後は気を付けます」というものですよね?
大熊社労士:
 ええ、通常はそれを始末書と呼びますね。顛末書は始末書のうち、事実関係のみを記述したものです。これに対して始末書は、事実関係の記述と合わせて、本人の反省や謝罪も書かせるようなものです。御社の始末書はこの後者のタイプですね。なお、この2つのタイプには法律上の明確な定義があるわけではありませんので、会社によっては顛末書のことを始末書と呼んでいる会社もあるようです。
宮田部長:
 なるほど。当社の始末書はまずは事実関係の記述があって、その後に反省の弁を述べさせています。事実関係のみのいわゆる顛末書の形で提出された場合には、反省の弁を書くように書き直しをさせています。やはり本人に反省してもらわないといけませんから。
大熊社労士大熊社労士:
 なるほど、そういった反省の意味を含んだ始末書であれば、懲戒処分として提出させることは可能です。しかし、今回のように懲戒処分に該当しないものを、業務命令として提出させることは少し問題があります。
宮田部長:
 え、そうなんですか?
大熊社労士:
 ええ、憲法19条には、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」とあります。業務命令としてそういった反省や謝罪を含む始末書を求めることは、会社が従業員の反省を強制する、つまり思想や良心の自由を侵すことになると解されているからです。ですから反省の意味を含んだ始末書は業務命令で提出させることはできない。と解されているのです。
宮田部長:
 なるほど。それでは事実確認をするための顛末書であれば業務命令として提出させることもできるのですか?
大熊社労士:
 それは問題ありませんね。使用者には、企業内の秩序を維持する権限があります。今後の再発防止や秩序維持のなどのために、個人の意思とは関係のない、事実のみを記載した顛末書であれば、業務命令として提出させることが可能です。
宮田部長:
 なるほど、でもやはり反省してもらいたいんですよね。
大熊社労士:
 そうですか。御社ではなぜ始末書を提出させるのですか?
宮田部長:
 それはもちろん、従業員に起こした問題を事実として受け止めてもらい、その事実をもとに注意や指導を行い、反省してもらうためですよ。
大熊社労士:
 そうですよね。まず最初にあるのは、本人が事実を認めることですよね。それに対して会社が注意をする、その結果従業員が反省する。そうであれば、まずは顛末書を提出させることを重視すればよいのではないでしょうか?
宮田部長:
 なるほど、確かにまずは顛末書を書かせてから、会社がその事実をもとに注意・指導を行い、その結果従業員が反省してくれればよいですね。最初から反省まで求めて本人が事実を認める書類まで出さないようでは、なんともなりませんね。なるほど、これからはまずは顛末書だけでも出させることにしますよ。
大熊社労士:
 ええ、顛末書であれば、業務命令で提出させることができますし、もし顛末書さえも提出しない場合は業務命令違反としての懲戒も可能ですからね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。服部印刷のように懲戒処分の一つとしてではなく、業務命令によって始末書を提出させる企業も少なくありません。しかし、昨今では、そういった始末書の提出の業務命令に従わない従業員も多くなっています。このような場合には、反省や謝罪の意味を含む始末書には拘らず、顛末書の提出を命ずるとよいでしょう。心情的には反省の姿勢を見たいところですが、そこがネックとなってもっとも重要な事実の認定という部分の証拠書類まで取れなくては意味がありません。また、始末書の提出を嫌がる原因の一つは、反省の部分の最後に「このようなことを再び起こした場合はどのような処分を受けても異議を申し立てません」と記述させるところにあるようです。労働契約法第15条によれば、このような記述があったとしても、結局事実とその懲戒処分の程度について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当の処分でなければ、無効となるため、あまり意味がないこともご承知おきください。


[関連法規]
日本国憲法 第19条
 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。


労働契約法 第15条
 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。


(中島敏雄)


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