横領をしていた従業員を懲戒解雇する場合でも解雇予告は必要なのですか?

 宮田部長の友人が経営している会社で、横領事件が発生。そこの社長から相談を受けた宮田部長は、大熊社労士に横領した社員の解雇について質問してみることとした。



宮田部長宮田部長:
 大熊先生、聞いて下さい。私の友人が小さな会社を経営しているのですが、そこの経理部長が数年にわたって総額1,000万円もの会社のお金を横領していたことが発覚したそうです。即刻懲戒解雇したいということなのですが、可能でしょうか?
大熊社労士:
 それは大変でしたね。即刻懲戒解雇したいということですね。細かな状況が分かりませんが、その横領が事実であり、就業規則の懲戒解雇の基準に当てはまるのであれば可能でしょうね。ただ、原則としてはその場合でも解雇予告手当の支払いが必要となるので注意してくださいね。
宮田部長:
 えっ?そうなんですか。1,000万円も会社の金を横領して、懲戒解雇になるんですよ。そんな社員に解雇予告手当の支払いが必要になるのですか?
大熊社労士:
 ここは世間の常識と法律にズレがあるところだと思うのですが、そうなのです。例え懲戒解雇であったとしても、解雇である以上、30日前以上に解雇予告を行うか、解雇予告手当を支払うことが必要とされてます。但し、これには例外があり、あらかじめ所轄労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けることができた場合に限り、使用者は解雇予告や解雇予告手当の支払いを要しないとされています。
宮田部長:
 そんな仕組みがあるのですね。どういった場合に労働基準監督署長の認定をうけることができるのでしょうか?
大熊社労士:
 はい。労働基準法においては、解雇予告の除外認定をうけることができるのは、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」と「労働者の責に帰すべき事由」による解雇の2つとされていますが、今回の横領など「労働者の責に帰すべき事由」については、それが重大または悪質なものであるときは認定されるとしています。
宮田部長:
 労働者の責めに帰すべき事由で、それが重大または悪質なものであるときですか…。なんだか漠然としていて分かりにくいですね。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。そこで具体的には通達においていくつかの例が挙げられています。今回に関しては「事業場内における盗取・横領・傷害など刑法犯に該当する行為のあった場合」という事例が明記されています。今回は金額も1,000万円という高額なケースでもありますので、解雇予告の除外が認められる可能性は高いと思いますよ。
宮田部長:
 なるほど、よく分かりました。それで具体的な申請はどのように行えばいいのですか?
大熊社労士:
 所轄労働基準監督署長に対して、解雇予告除外認定申請書(様式3号)を提出することとされています。実際にはその他にもいろいろな書類が必要となりますが、そこは監督署で相談されるとよいと思います。ちなみに標準的には約2週間ほど認定の審査がかかるとされているので早めに申請をするといいですね。
宮田部長:
 なるほど、早速友人に知らせておきます。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。今回は解雇予告除外認定について取り上げましたが、この解雇予告除外認定の審査期間については、一般的には約2週間かかるといわれていますが、準備する書類によって審査がスムーズに進むかが変わってきます。スムーズな認定のためには、事前に所轄労働基準監督署に確認し、申請時に書類(顛末書、就業規則、懲罰委員会議事録、その他証拠書類)をしっかり揃えることも重要なポイントでしょう。なお、この認定にあたっては、申請書面だけの審査によることなく、労使その他の関係者について、実地に調査のうえ慎重に決定すべきこととされていますので、本人からのヒアリングを含め、監督署が様々な実態の確認を行った上で判断することとなります。


[関連法規]
労働基準法第19条(解雇制限)
 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。
2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。


労働基準法 第20条(解雇の予告)
 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。労働基準法 第20条


[関連通達]
昭和23年11月11日 基発1637号、昭和31年3月1日 基発111号
「労働者の責めに帰すべき事由」とは、労働者の故意、過失又はこれと同視すべき事由であるが、判定に当たっては、労働者の地位、職責、継続勤務年限、勤務状況等を考慮の上、総合的に判断すべきであり、「労働者の責めに帰すべき事由」が法第二十条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものであり、従って又使用者をしてかかる労働者に三十日前に解雇の予告をなさしめることが当該事由と比較して均衡を失するようなものに限って認定すべきものである。
「労働者の責めに帰すべき事由」として認定すべき事例を挙げれば、
(イ)原則としてきわめて軽微なものを除き、事業場内における盗取・横領・傷害など刑法犯に該当する行為のあった場合、また、一般的にみてきわめて軽微な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的または断続的に盗取・横領・傷害など刑法犯またはこれに類する行為を行った場合、あるいは事業場外で行われた盗取・横領・傷害など刑法犯に該当する行為であっても、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの、取引関係に悪影響を与えるものまたは労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
(ロ)賭博・風紀紊乱などにより職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合、また、これらの行為が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの、取引関係に悪影響を与えるものまたは労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
(ハ)雇入れのさいに採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合、および雇入れのさい使用者の行う調査にたいし不採用の原因となるような経歴を詐称した場合
(ニ)他の事業へ転職した場合
(ホ)原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
(へ)出勤不良または出勤常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合
の如くであるが、認定にあたっては、必ずしも上記の個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断すること


[関連判例]
フジ興産事件 平成15年10月10日 最高裁(2小) 
 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要する。



関連blog記事
2006年12月9日「解雇予告除外認定申請書」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/50949734.html


(中島敏雄)


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