会社の送別会で女性労働者にお酌をしてもらうことはセクハラになるのですか?

 3月は別れの季節。送別会でお酌をしてくれた女性社員に冗談混じりながら「セクハラですよ」といわれた宮田部長は、セクハラについて大熊に確認してみた。



宮田部長:
 先日、退職者の送別会で女性の契約社員にビールをついでもらったところ、「これもセクハラになるんですよ」といわれてしまいました。宴会でお酌をしてもらうこともセクハラになるのですか?
大熊社労士:
 えっ!宮田部長!セクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」)で訴えられたんですか?!
宮田部長:
 いやいや、そんなわけないじゃないですか(笑)。お酒も入っていたので冗談で言われただけですよ。
大熊社労士:
 本当ですか?契約社員だと立場上なかなか部長に対して「いやだ」とはいえないものですよ(笑)。
宮田部長:
 う~ん。そうかなあ。そういわれてみれば…。
福島照美福島さん:
 大丈夫ですよ、大熊先生。彼女は宮田部長にはいつもよくしてもらっているから、宮田部長の好きなビールを切らさないようにしてたって言っていましたよ(笑)。
大熊社労士:
 そうですか、それであれば安心です。でも気をつけてくださいね。セクハラというのは、「職場」で「労働者」に対する「性的な言動」が就業環境を害したりするもののことをいいますから、宴会の場でもセクハラと訴えられることはありますからね。
宮田部長:
 なるほど、でもちょっと待ってください。送別会のお店は職場ではないですよね。就業時間後に行っていますし、お酒も入っていますから。
大熊社労士:
 基本的にはそうですね。ただ状況によっては送別会が職場とされることもありえます。お酒が入っていても、就業時間後であっても、事務所の外であっても、職務の延長で行われるものであれば、そこは職場とされます。このセクハラの問題における職場というのは、我々が通常イメージする「職場」という言葉のイメージよりも広い範囲、例えば出張先や移動中の車内、接待の席などもセクハラの判断における職場とされますのでご注意ください。
宮田部長:
 接待や出張は確かに職務の延長ですが、送別会は少し性質が違うと思うのですが…。
大熊社労士:
 そうですね。たしかに送別会が職場かどうかは非常に判断が難しいところです。従業員同士のまったくプライベートな飲み会や旅行は職場ではないでしょうし、接待や研修旅行は職場とされることが多いでしょうね。送別会や忘年会については、職務との関連性、参加者、参加が強制か任意かといった要素を総合的に判断して、職場かどうかを判断するとされています。しかし、会社のセクハラ対策という観点からは、送別会なども職場という意識でいてもらった方が安心ですよ。
宮田部長宮田部長:
 確かに送別会や歓迎会は新人が出欠を確認して職場全員で行うのが伝統になっていますから、そういう意味では職場といわれること可能性もあるかも知れません。でも、そこが職場かどうかということよりも、どのような場面においてもセクハラにならないように注意することが重要ですね。
大熊社労士:
 そのとおりです。例え職場ではない飲み会の場でセクハラが行われたとしても、その行為者と被害者の関係の悪化や業務への影響など、その影響は甚大ですからね。最悪の場合は双方の退職によって2人の従業員を一度に失ってしまうというケースもありえますので。
宮田部長:
 なるほど、その後の影響は大きいですね。ところで、彼女は契約社員なのですが、労働者とは誰を指すのですか?
大熊社労士:
 はい。ここでいう労働者には、正社員は当然のことながら、契約社員やパートタイマー、アルバイト、嘱託社員など事業主が雇用するすべての労働者が含まれます。派遣労働者を受け入れている場合は、派遣先企業と派遣労働者との間に雇用契約はありませんが、派遣労働者もここでいう労働者に含まれることには注意が必要です。
宮田部長:
 そうなのですか。それでは今回のように女性社員にお酌をしてもらうことはセクハラになるのですか?
大熊社労士大熊社労士:
 一般的な女性(もしくは一般的な男性)が性的な不快感を抱くような発言や行動がセクハラに該当するといった認識をもっていただくとよいと思います。例えば、そのような飲み会の席で女性労働者に上司の隣に座ることやお酌を要求するようなことは、女性労働者を同じ職場の同僚としてではなく、女性として見ていることになりますよね。そういった行動はセクハラに該当すると理解しておいてください。
宮田部長:
 なるほど、そういうことですか。あ、いっておきますけど、私は彼女にお酌を要求したわけじゃありませんよ。本当に冗談で言われただけですからね。
大熊社労士:
 そうですか、であれば大丈夫ですね(笑)。しかしセクハラに関してはやはり定期的に研修や注意喚起を行う必要がありますね。ときどきセクハラに関する相談が寄せられますが、やはり男女雇用機会均等法改正のときに一度研修を行っただけでその後なにも行っていない企業では、問題が深刻化する例が多いように思います。しっかり従業員のみなさんに研修を行っておくことがセクハラ予防のためには大切ですよ。
宮田部長:
 そうですね。当社でも継続的に研修を行いたいですね。そのときは先生お願いしますね。
大熊社労士:
 わかりました。お任せください。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。企業には相談窓口を設置することが義務付けられていますが、この相談窓口をセクハラ防止のために有効に活用したいところです。職場におけるセクシュアルハラスメントはその性質上、なかなか実態を把握しにくいものです。都道府県労働局雇用均等室に寄せられるセクハラに関する相談は毎年10,000件以上とされています。しかし、相談されているものだけでこの件数ですので、相談していない、実際のセクハラ件数は更に多いことが想像できます。


 セクハラ防止のためにはこの相談窓口を、広くセクハラに関する情報を収集する窓口と位置づけることが有効です。窓口が相談しにくかったり、そもそも窓口の存在を従業員が知らないことも考えられますので、まずは従業員に相談窓口に相談してもらえるように社内掲示や定期的な社内報などでの紹介で窓口の存在を従業員にしってもらうことが重要です。また、実際に起こったセクハラの相談だけでなく、噂の段階やこれはセクハラに該当するのかといった質問も窓口に相談してもよいなど、広く相談に応じていることを周知することも効果的でしょう。


[関連法規]
男女雇用機会均等法11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2  厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。


[関連告示]
事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)
2 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容
(1) 職場におけるセクシュアルハラスメントには、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(以下「対価型セクシュアルハラスメント」という。)と、当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの(以下「環境型セクシュアルハラスメント」という。)がある。
(2) 「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれる。例えば、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等であっても、当該労働者が業務を遂行する場所であればこれに該当する。
(3) 「労働者」とは、いわゆる正規労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規労働者を含む事業主が雇用する労働者のすべてをいう。また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者についても、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号)第47条の2の規定により、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、法第11条第1項の規定が適用されることから、労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣労働者についてもその雇用する労働者と同様に、3以下の措置を講ずることが必要である。
(4) 「性的な言動」とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指し、この「性的な内容の発言」には、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等が、「性的な行動」には、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等が、それぞれ含まれる。



関連blog記事
2011年2月9日「茨城労働局からダウンロードできるセクハラの相談・苦情への対応フローの例」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51822239.html
2011年1月27日「すぐに利用できる社内周知用のセクハラ防止対策掲示ちらし」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51818959.html
2011年1月14日「悩んでいませんか?職場でのセクシュアルハラスメント」
http://blog.livedoor.jp/leafletbank/archives/50975740.html
2011年1月7日「事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策は事業主の義務です!!(平成22年11月版)」
http://blog.livedoor.jp/leafletbank/archives/50972438.html


参考リンク
厚生労働省「現行の男女雇用機会均等法に係るQ&A」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/q-a.html


(中島敏雄)


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