セクハラの対価型と環境型というのはどういうものですか?

 大熊からセクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」)についてレクチャーを受けた宮田部長は、続いて対価型セクハラと環境型セクハラの違いについて確認していた。



宮田部長宮田部長:
 いやぁ、先日のセクハラの定義では飲み会の場でも職場に当たる可能性があると教わり、びっくりしましたよ。セクハラについてはしっかり勉強しておく必要がありますね。今日はセクハラでよく聞く、対価型セクハラと環境型セクハラについて教えてください。
大熊社労士:
 了解しました。セクハラはその内容によって、対価型セクハラと環境型セクハラの2つに分類されます。まず対価型セクハラというのは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることをいいます。
宮田部長:
 上司が部下の女性に交際を申し込んだが断られたために配置転換をさせたといった例が対価型セクハラにあたると聞いたことがあります。
大熊社労士:
 そうですね。それが対価型セクハラの典型的な例ですね。いまの例とは逆に、例えば性的な関係を要求して、それを条件に上司が部下にプラスの査定をするようなことも対価型のセクハラにあたるでしょうね。
宮田部長:
 なるほど、それでは環境型セクハラというのはどのようなものなのでしょうか?
大熊社労士:
 はい。環境型セクハラというのは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、労働者が就業する上で大きな支障が生じることをいいます。具体的には、例えば社内で顔を合わせるたびに身体的なことについて発言することで労働者が苦痛に感じているような場合ですね。
宮田部長:
 そうですか。環境型セクハラはその判断が難しいですよね。対価型セクハラにおける労働者の不利益というのはイメージしやすいのですが、環境型セクハラは同じ発言でも言われた相手によってセクハラと感じたり感じなかったりしますよね。私が「なんだ彼氏もいないのか」と言ったら「セクハラですよ!」と言っていた女性社員が、イケメンの渡辺君が「彼氏いないの?」と聞いたら目を輝かせて「はい、そうなんです」となんて言ってましたよ…(苦笑)。
大熊社労士:
 あはは(笑)、まあそれは仕方ないでしょう。もっともセクハラ防止の観点からは、「労働者の意に反する性的な言動」や「就業環境が不快」の判断に当たっては、まずは労働者の主観を重視すべきですね。
宮田部長:
 まあそうですね。「意に反する」も「不快」も本人の主観次第ですからね。
大熊社労士大熊社労士:
 とはいってもある程度の客観性は必要ですから、被害者が女性であれば「平均的な女性労働者の感じ方」、被害者が男性であれば「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当とされています。
宮田部長:
 なるほど、しかしそれもまた難しいですよね。
大熊社労士:
 そうですね。その言動が対価型セクシュアルハラスメントに当たるのか、環境型セクシュアルハラスメントに当たるのかを教育することも大切です。しかしセクハラを防止すると言う観点からは、それ以上に大切なのは、どのような言動がセクシュアルハラスメントに該当する危険があるのかを職場のみなさんでディスカッションして共通理解を作っていくことですね。
宮田部長:
 そうですね。男性と女性で認識が違っているでしょうし、従業員それぞれがこの言動は平均的にはセクハラではないだろうと思っている基準が、実はとんでもなく平均から外れているということも考えられますからね。
大熊社労士:
 そのとおりですね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。ここではセクハラ事件が起きた場合の企業の責任についてもお伝えしておきましょう。セクハラ行為を行った従業員本人には、不法行為責任(民法709条)が追及されますが、そのセクハラ行為が、業務の執行について行われたものであれば、企業に使用者責任(民法715条)が追求されることがあります。この使用者責任については行為者本人がそもそも業務の執行についてセクハラ行為を行わなければ、企業がその責を負うことはありませんので、従業員に対する教育を徹底しておくことが重要です。


 また企業はこの使用者責任ではなく、職場環境配慮義務の不履行(民法415条)によって責任を追及されることがあります。これは労働契約に付随する職場環境配慮義務には、セクハラを防止するための対策を講じておくことも含まれるというもので、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」に基づいた以下の4点をを実施しておくことがポイントとなります。
(1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
(2)相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(3)職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
(4)(1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置」


[関連法規]
民法 第415条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。


民法 第709条(不法行為による損害賠償)
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


民法 第715条(使用者等の責任)
 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。


[関連告示]
事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号:抜粋)
2 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容
(1)職場におけるセクシュアルハラスメントには、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(以下「対価型セクシュアルハラスメント」という。)と、当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの(以下「環境型セクシュアルハラスメント」という。)がある。
(5)「対価型セクシュアルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることであって、その状況は多様であるが、典型的な例として、次のようなものがある。
 イ  事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、当該労働者を解雇すること。
 ロ  出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換をすること。
 ハ  営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、当該労働者を降格すること。
(6)「環境型セクシュアルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることであって、その状況は多様であるが、典型的な例として、次のようなものがある。
 イ  事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。
 ロ  同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。
 ハ  労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。


(中島敏雄)


当社ホームページ「労務ドットコム」および「労務ドットコムの名南経営による人事労務管理最新情報」「Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog」にもアクセスをお待ちしています。