社員の資格取得を促進するために公的資格手当の支給を検討しています

 服部印刷では、以前より社員の能力向上を積極的に行っているが、資格取得を促進するために「公的資格手当」を支給してはどうかという意見が出ていた。そこで宮田部長は大熊社労士にその基準について相談することにした。


宮田部長宮田部長:
 大熊先生、最近当社の中で社員の資格取得を支援するために、公的資格の保有者に対して「公的資格手当」を支給してはどうかという意見が出ているのですが、このような取り組みは他の会社でも多く見られるものなのでしょうか?
大熊社労士:
 そうですね、役職手当や家族手当と比べれば採用率は落ちますが、そのような手当を支給している企業は少なくないですよ。
宮田部長:
 そうなんですね。
大熊社労士:
 そもそもですが、この話が出たのは社員の資格取得を促進することで、その能力向上を進めたいということですよね?
宮田部長:
 はい、そのとおりです。高い能力を持った社員が多く育つことで、会社のレベルが上がり、顧客の信頼を得ることができるというのが当社の社長の信念です。それを実現するために、公的資格を保有する社員に毎月手当を支給することで、社員の能力向上を支援して行こうという話になっています。
大熊社労士:
 なるほど。とすれば公的資格手当の支給にあまり限定しない方がいいかも知れませんね。
宮田部長:
 というと、どういうことですか?
大熊社労士:
 はい、公的資格手当というのは毎月の賃金の一部として支払われるものであるために、どうしても後々禍根を残しやすいのです。例えば資格をたくさん持っているものの営業成績が上がらないA主任と、資格は最低限しか保有していないものの営業成績はトップのB主任がいた場合、宮田部長はどちらを高く評価しますか?
宮田部長:
 うーん、最終的にはB主任の方を高く評価するでしょうね。
大熊社労士:
 ありがとうございます。たぶんそれが通常の感覚なのだと思います。もちろんA主任の資格取得に向けた努力も大事なことではありますが、会社は資格保有の事実に対して賃金を支給するのではなく、その資格を活用することによって、より良い仕事をしたことに対して賃金を支給するものですよね。となると、公的資格手当のように毎月の手当(賃金)として支払う方法は適切ではない場合が出てくるのです。
宮田部長:
 なるほど。とすればどのようにすればよいのでしょうか?
大熊社労士:
 はい、私がお勧めしているのは、その資格を保有し、官公庁などに選任の届出を行うことによって一定の責任が発生するような場合に限って公的資格手当を支給し、それ以外の場合については合格祝い金などの取得奨励策を設けるという方法です。
宮田部長:
 なるほど、もう少し具体的に教えてください。
大熊社労士大熊社労士:
 はい、例えば御社であれば1人以上の衛生管理者を選任して、労働基準監督署に報告しなければなりません。その場合、衛生管理者には社内の労働災害防止等のために一定の職務と責任が発生することになります。このように単純に資格を保有しているのではなく、一定の責任等が発生する場合に限り、毎月の手当を支払うということになります。言わば「資格責任手当」のような感覚ですね。ただこれだけですと、社員の資格取得を促し、能力向上を進めるという会社の方針が実現できませんので、同時に資格取得奨励策を講じることになります。具体的には御社としての取得奨励資格を職種別に設定し、その資格を取得した際には合格祝い金を支給するというのがもっともシンプルでしょう。
宮田部長:
 確かにそうですね。毎月の手当はチリも積もれば何とやらで、結構な金額になりますから、合格時の一時金でぱっと支払った方がインセンティブにもなるかも知れませんね。
大熊社労士:
 そうですね。その他、受験費用の補助や試験直前の特別休暇制度なども検討してあげると良いかも知れません。また重要な資格については昇格基準に加えるということも考えられます。
宮田部長:
 なるほど!それはいいですね。それでは早速案をまとめて、社長に相談してみます!

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。今回は資格取得奨励のための施策について取り上げました。こうした制度の設計いおいては、まず取得を推奨する資格を明確にした上で、手当の支給対象は実際に業務に活用する資格に限定することが重要です。また最近は本文中にあったように、資格の保有そのもの(インプット)に手当を支給するのではなく、それを生かして行った仕事(アウトプット)に対して、評価を行い、処遇するという考えが強くなってきています。よって実務上は人事評価制度を整備した上で、合格祝い金制度などの資格取得奨励策を上手に組み合わせて、社員の能力向上を促進することが望まれ
ます。

 なお、公的資格手当は医療業や建設業など、一部の業種においては依然根強いものがあります。こうした業界においては求人対策上も公的資格手当が重要になる場合がありますので、実際の制度改革においては同業他社の状況なども調査の上、進められると良いでしょう。

(大津章敬)

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