退職金は企業にとって中長期的なリスクであると認識する必要があります
服部社長は先日、所属している経営者団体の会合で退職金に関する話題を耳にした。そこで今日は大熊にその話をしてみることにした。
服部社長:
大熊さん、こんにちは。先日、所属している経営者団体の会合で退職金問題で困っている経営者の話を聞きましたよ。
大熊社労士:
そうでしたか。どのような話だったのですか?
服部社長:
その会社は当社よりも規模が少し大きい従業員100名くらいのメーカーなのですが、ここ数年で定年退職者が連続していて、その退職金支給が大変だというのですよ。その会社はリーマンショック後の業績がもう一つの状況にあったのですが、そこに今回の震災じゃないですか。受注量がかなり落ち込んで大変になっているところに、毎年3人くらいの定年退職者が重なるので、文字通り資金繰りが逼迫しているようです。
大熊社労士:
なるほど。そういう会社は多いと思います。退職金制度はそもそも会社から従業員に対する恩恵的な給付なのですが、退職金規程を整備し、その支給基準を明確に定めた場合には賃金同様、支払義務が生じることとなります。よって資金がないから支給しないという訳にはいかないのです。よってそのメーカーのように苦しいところは多いと思いますよ。
服部社長:
本当にそうですね。当社では2005年に大熊さんに制度の見直しをしてもらったので安心ですよね?
※詳細は日本法令より出版されている「中小企業の退職金・適年制度改革実践マニュアル」をお読みください。
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大熊社労士:
そうですね。御社ではその際、毎月の中退共掛金を退職金規程において保証する確定拠出型の退職金制度を採用しました。よって毎月の中退共への掛金支払はありますが、従業員の退職時に資金不足になるということは基本的にありません。その意味では中長期的には安心感が高いですね。
服部社長:
そうですか。改めて確認できて、安心しました。さて、今回の会社の話に戻りますが、当面は退職金支払の資金を如何に調達していくかが大きな課題となると思うのですが、このような状態にならないようにするためにはどのようなことを行えば良かったのでしょうか?
大熊社労士:
はい、なんといっても現状把握でしょう。多くの企業において退職金制度は30年前とか40年前といった、かなり以前に制度化され、その後はほとんどメンテナンスがされずに現在に至っているという例が少なくありません。
服部社長:
そうですね。当社でも先代社長である私の父が40年ほど前に退職金規程を整備したのですが、私が社長になってからもほとんど気にしていませんでしたからね。
大熊社労士:
それが多くの企業の実態だと思います。特に中小企業の場合は中途入社、中途退職が多いために、勤続40年といった満額の定年退職金を支払った経験が少ないというのも退職金制度に対する危機感が低い原因ではないかと考えています。
宮田部長:
確かにそうですね。当社でも3年前に定年退職された鈴木部長が初の定年退職者でしたからね。それまではせいぜい300万程度の退職金しか支給したことはなかったと思います。大熊先生、それで現状分析というのはどのようなことを行えばよいのでしょうか?
大熊社労士:
はい、実際の退職金規程に基づき、通常は以下の3点について計算を行います。
基準日現在の退職金要支給額
基準日現在の退職金積立不足額
全従業員が定年まで勤続した場合の定年退職金要支給額
服部社長:
基準日というのは、現時点のという理解でよろしいでしょうか?
大熊社労士:
そのとおりです。要はいま在職している従業員が退職した場合にいくらの退職金が必要になるかということです。もし今日、この分析を行うのであれば3月31日あたりを基準日にするのが良いと思います。そしてについては今後の支払予想ということになります。具体的には「平成○年に○人の定年退職者が発生し、いくらの定年退職金が必要になるのか」ということを予想します。わが国でもっとも多い基本給連動型の退職金制度の場合であれば、今後の昇給の予想額を設定した上で各従業員の定年到達時の基本給を計算し、それにその時点の勤続年数に基づく退職金支給月数を乗じればよいのです。まったく難しいことはありません。
服部社長:
確かにそうですね。でも多くの企業はこれを行っていないばかりに、気付かぬ内に大きな退職金の債務を抱えてしまっているということなのですね。
大熊社労士:
まったくそのとおりです。
服部社長:
私も経営者仲間で今回同様の問題が起きないように、次回の会合で現状分析の必要性を話してみたいと思います。退職金が原因となって経営がおかしくなるというのでは本末転倒ですからね。
大熊社労士:
是非お願いします。少しでも早い段階で退職金制度の現状を把握し、資金準備や制度改定などの対策を取って頂きたいと思います。ちなみに私が運営しているブログでこの現状分析を簡単に行うことができるEXCELのシミュレーションソフトを無料で配布していますので、よろしければそれも一緒にご案内ください。以下がURLになります。
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51476841.html
服部社長:
分かりました。ありがとうございます。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は退職金制度の現状分析の必要性について取り上げました。私も以前からセミナーにおいて「人事評価制度が多少間違っていても会社は潰れないが、退職金制度は会社を潰すことがある」とお話しています。昨年のJALの経営再建問題においても退職金(企業年金)の引き下げが大きな争点となったように、退職金は経営における中長期的なリスクであるという認識を持つことが重要です。現時点でどの程度の既得権(過去の勤続期間にかかる現時点での退職金要支給額)があるのか。そして現在の制度をこのまま継続した場合には将来、どの程度の退職金が発生するのか。更にはその資金準備をどのように行うのか。こうした点について、確実にチェックを行い、安定的な事業運営を行うベースを構築していただきたいと考えています。
また文中で労務ドットコムにおいて配布している退職金診断・設計シミュレーションソフトについて取り上げましたが、こちらは無料で使用することができますので、是非ご利用ください。
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51476841.html
関連blog記事
2009年1月5日「退職金診断・設計シミュレーションソフトv1.07 無料ダウンロード開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51476841.html
参考リンク
大津章敬著「日本一わかりやすい退職金・適年制度改革実践マニュアル」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4539720732/roumucom-22
大津章敬著「中小企業の退職金・適年制度改革実践マニュアル」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4539719599/roumucom-22
(大津章敬)
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