欠勤を自動的に年次有給休暇に振り替えても大丈夫でしょうか?

 最近は総務の実務のほとんどを仕切って進めている福島さん。今回は勤怠管理において手間が掛かっている社員欠勤時の取り扱いについて、大熊に質問することとした。


福島さん:
 大熊先生、おはようございます!
大熊社労士:
 おはようございます。今日も元気ですね。
 福島さん:
 ありがとうございます。この週末は友達と近場の温泉に行き、ゆっくり休んだので体調も万全で超元気です!今日は早速教えて頂きたいことがあるのですが…。
大熊社労士:
 はい、どんな内容でしょうか?
福島照美福島さん:
 実は社員が欠勤をした際の取り扱いなのですが、当社では急病などで社員が急遽欠勤することになった場合、原則として年次有給休暇(以下、「年休」という)を事後で取得できるようにしています。手続きとしては翌日以降に出勤した際、上長を経由して年休の申請を出してもらっているのですが、これが結構煩雑なので、欠勤した際に年休が残っていれば、自動的にそれを充当できないかと考えているのです。この取り扱いに問題はありませんか?
大熊社労士:
 なるほど、確かにほとんどの社員は充当で問題ないはずでしょうから、そうしたいという総務の考えはよく理解できます。しかし、その取り扱いは労働基準法的には問題がありますね。
 福島さん:
 そうなんですか?いや、実はもしかしたらそうかなと思って質問させてもらったのです。
大熊社労士:
 さすが労働基準法の勉強をしている成果が出ていますね。福島さんはなぜその取り扱いに問題があるかも知れないと思ったのですか?
 福島さん:
 はい、年休は労働基準法 第39条第5項において「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」とされていますよね。今回の取り扱いは従業員の請求なしに自動的に年休を取得させるという点で問題があるのかなと思ったのです。
大熊社労士:
 素晴らしい!そのとおりです。年休は従業員が指定した時季に付与するものである以上、その指定がないままに自動的に欠勤日に年休を充当させるのは問題なのです。さすが勉強の成果が出ていますね。
 福島さん:
 ありがとうございます。
大熊社労士大熊社労士:
 また労働基準法上の問題だけではなく、規律保持という点でもその取り扱いはやめておいた方が良いように思います。欠勤しても年休が自動的に充当されるとすると、中には出勤についてルーズになるものが出たり、また曖昧な理由で何日も欠勤するような者が出た場合に指導することが難しくなることも考えられます。
 福島さん:
 確かにそうですね。
大熊社労士:
 よって実務的にはやはり急病などによる欠勤の際には、出勤後、遅滞なく欠勤届を提出させ、特に問題がなければ本人に年休の申請をするかどうかの意思確認をするというのが良いでしょう。ちなみにそもそもの話ですが、当日の急な欠勤について、年休を与えなければならないということはありません。これは年休が残っている従業員に対する恩恵的な取り扱いですので、出勤状況に問題がある従業員などについては一定の基準を設けて、そうした取り扱いを行わないことがあるというルールも整備しておくことが望まれます。
 福島さん:
 ありがとうございました。よく分かりました!

>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]

大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は年次有給休暇の取り扱いに関する実務問題を取り上げました。年次有給休暇の取得はあくまでも事前申請が大原則ですので、まずはその取得に関するルールを明確にしておきましょう。また前回の労働基準法改正で時間単位の年休取得が制度化されました。この時間単位取得を認めている事業所においては、遅刻の際にその事後申請を認めるかどうかは大きな課題となっています。下手にそれを認めると、遅刻に対する抵抗感が低くなり、一部の社員において遅刻が増加する恐れがありますので、年次有給休暇の権利の問題と従業員の規律の保持という問題をバランスよく検討し、自社の風土にあったルール作りを行うことをお勧めします。

(大津章敬)

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