今後の60歳以降の雇用の方向性について教えてください
年金の支給開始年齢引き上げに伴う高年齢者雇用が新聞紙上を賑わしている。そこで宮田部長は今後の高年齢者雇用の方向性について大熊に質問してみることとした。
宮田部長:
大熊先生、こんにちは。最近、60歳以降の雇用に関する記事を新聞で見かけることが多くなりましたね。
大熊社労士:
確かにそうですね。これから春にかけては法改正シーズンですからね。今年は本当に様々な法改正が予定されていますが、そんな中でも高年齢者雇用についてはもっとも注目を集めるものの一つではないかと思います。
宮田部長:
なるほど、そういうことなんですね。それで今後なのですが、高年齢者雇用の方向性はどんな感じで検討されているのでしょうか?
大熊社労士:
はい、実は年明け早々の1月6日に労働政策審議会は厚生労働大臣に対し、「今後の高年齢者雇用対策について」という建議を行いました。今後はこの内容に基づいて法律案が作成され、国会で審議されることになっています。
宮田部長:
そうなんですね。それでその建議の内容というのはどのようなものなのでしょうか?
大熊社労士:
はい、最大のポイントは2013年度からの老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の引上げに伴い、60歳から65歳までの雇用をどうするかということだった訳ですが、今回の建議では65歳までの定年年齢の引き上げは行わず、現在認められている継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を廃止することが適当としたという点になります。
宮田部長:
継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準というのはどのようなものですか?
大熊社労士:
現在の法律でも原則としては希望者全員の継続雇用が求められているのですが、労使協定においてその対象者に関する基準を設けることができるとされています。よく見られるのは過去の人事評価の内容が悪いであるとか、懲戒処分を受けているような従業員については継続雇用の対象から外すというような基準ですね。今回はこの基準の制度が廃止になり、文字通り希望者全員を継続雇用しなければならないという内容が示されています。
宮田部長:
なるほど、それは企業にとってはなかなか負担が大きいものになりそうですね。
大熊社労士:
そうですね。それだけに60歳以降の従業員にどのような仕事を担当させるのか、そしてその労働条件をどうするのかなどをしっかり決めておく必要が強まるでしょうね。また同時に現役世代の人事管理もよりレベルアップが必要になるのではないかと思っています。
宮田部長:
といいますと?
大熊社労士:
はい、比較的大きな企業でその傾向が強く見られると思うのですが、問題行動等を起こす社員がいるような場合、トラブルを恐れるあまり、腫れ物に触るような対応をし、定年を待つというような企業が少なからず見られました。しかし今後は解雇事由に該当するような者を除き、65歳までの継続雇用が求められる訳です。となるとそうした者の雇用を定年でもって終了させることはできず、結果的に65歳まで雇用しなければならないということになります。
宮田部長:
確かにそうですね。
大熊社労士:
ということは現役時代から社員に問題行動が見られた場合には、適切な注意指導を行い、その問題行動を改めさせる必要があります。そうした指導を再三行っても一向に改善が見られない場合には結果的にそのプロセスが解雇を行う際の合理的な理由にもなってくるのです。
宮田部長:
なるほど、社員の解雇というのはできれば行いたくありませんが、これまで以上に社員の教育や注意指導が重要になるのは間違いなさそうですね。その他に法改正のポイントとなるような事項はありますか?
大熊社労士:
そうですね。今回のように継続雇用制度の基準を廃止するという状況ですと、就労を希望する高齢労働者が増加していくこととなります。となると同一の企業の中だけでの雇用の確保には限界があるため、(1)親会社、(2)子会社、(3)親会社の子会社(同一の親会社を持つ子会社間)、(4)関連会社など事業主としての責任を果たしていると言える範囲において、継続雇用における雇用確保先の対象拡大をして行こうという動きがあります。これは比較的大きな会社にとって影響があることだと思いますが、継続雇用のあり方に一定の影響を及ぼすことになるでしょうね。
宮田部長:
なるほど、よく分かりました。当社でも今後、60歳を迎える社員が一定数出てきますので、また制度設計や運用について相談に乗ってくださいね。
大熊社労士:
了解しました。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。本日は先日、労働政策審議会より示された「今後の高年齢者雇用対策について」という建議の内容について取り上げました。今回の建議は、以前からの報道の通り、基準制度の廃止による希望者全員の雇用確保を進めるという内容となっています。これにより60歳以降の職務や労働条件の整備が従来以上に重要になります。若年者雇用の問題にも影響が大きいため、企業の人事担当者としてはなかなか頭が痛い問題ではな
いかと思いますが、今後、国会での議論が進められますので、継続的に注目していきたいテーマではないかと思います。
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https://www.roumu.com/seminar/seminar20120313.html
参考リンク
厚生労働省「労働政策審議会建議-今後の高年齢者雇用対策について」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001zl0e.html
(大津章敬)
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