遅刻をした日の残業時間に割増賃金の支払いは必要ですか?

 給与計算を担当している福島さん。先月は積雪による交通機関の乱れで多くの社員が遅刻をしたことで、その取扱いについて悩んでいた。


福島さん:
 大熊先生、こんにちは。今日は少し困っていることがあるので、どうしたらよいか教えて頂けませんか?
大熊社労士:
 こんにちは、もちろんいいですよ。どのような内容ですか?
福島照美福島さん:
 はい、先月は雪で交通機関が混乱した日が何日かあり、遅刻をした社員が多く発生しました。その遅刻の時間については遅延証明書を持参すれば、給与控除しないことにしているのですが、その日に残業した場合の取り扱いをどうすればよいか迷っています。
大熊社労士:
 なるほど。
福島さん:
 当社の始業時刻は9時、正午から1時間の休憩時間を挟み、18時が終業なのですが、例えば1時間の遅刻をしたとします。その日は遅刻をした分、終業時刻である18時までに業務を終えることができず1時間の残業をして、19時に仕事を終えた場合、この18時から19時までの1時間について、割増賃金の支払いは必要なのでしょうか?
宮田部長宮田部長:
 通常は18時以降は残業として割増賃金を支給している訳だけれども、いまの例だと実際の労働時間は8時間であって、実質的には所定労働時間を働いたに過ぎないということだね。なるほど、給与計算というのはいろいろ面倒なものだね。大熊先生、この場合の取り扱いはどうすれば良いのでしょうか?
大熊社労士:
 はい、結論としては割増賃金の支払いは必要ありません。労働時間については実労働時間主義が取られており、実際の労働時間が法定労働時間である8時間を超えなければ原則として割増賃金を支払う必要はないのです。この点に関し、具体的な通達が出されています。パソコンの中に入っていると思うので、ちょっと待ってくださいね。えーっと….、あったあった。これです。
法第32条または第40条に定める労働時間は実労働時間をいうものであり、時間外労働について法第36条第1項に基づく協定及び法第37条に基づく割増賃金の支払を要するのは、右の実労働時間を超えて労働させる場合に限るものである。従って、例えば労働者が遅刻をした場合、その時間だけ通常の終業時刻を繰下げて労働させる場合には、1日の実労働時間を通算して法第32条又は第40条の労働時間を超えないときは、法第36条第1項に基づく協定及び法第37条に基づく割増賃金支払の必要はない。(昭29.12.1基収第6143号)
福島さん:

 今回の例にぴったりの通達があるんですね。これで安心しました。先ほどの例であれば、19時までは通常の賃金を支払って、19時以降、更に残業した場合には割増賃金を支給するようにします。
大熊社労士:
 そうですね、それでOKです。労働時間の集計が煩雑だと思いますが頑張ってください。
福島さん:
 ありがとうございます。
大熊社労士大熊社労士:
 ちなみに、ここで注意する必要がある場合があるので補足しておきたいと思います。それは就業規則で「所定の終業時刻を超える残業に対し割増賃金を支給する」といった旨の規定をしている場合です。この場合には、先ほどの例のとおり、所定の終業時刻が18時である会社において19時まで勤務を行えば、実労働時間が8時間を超えていなくとも所定の終業時刻以後の残業について割増賃金の支払いが必要となります。
宮田部長:
 その場合、18時から19時の1時間についても割増賃金を支払う必要があるということですね。
大熊社労士:
 その通りです。御社ではそのような規定になっていませんので問題ありませんが、就業規則の割増賃金支払いについての規定がどのようになっているかによって割増賃金の支払いの必要性の有無が異なりますので、注意しなければなりません。
宮田部長:
 分かりました。そういう話をお聞きすると、改めて就業規則の重要性を感じますね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]

大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は遅刻をした従業員が残業した際の割増賃金について取り上げました。この時季は風邪の流行や交通機関の遅延により遅刻をする社員が増加しがちですので、このような事例も多いのではないかと思います。実労働時間主義については、三菱重工業長崎造船所事件(最一小判平12年3月9日)も押さえておきましょう。
「労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を言い、それに該当するか否かは客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。そして、労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされた時は、当該行為は特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。」

(大津章敬)

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