残業が8時間に達した際、代休を与えて相殺することはできますか?

 服部印刷ではより働きやすい環境を作るため、労働時間短縮のプロジェクトを進めている。その中であるアイデアが出たため、宮田部長はその取扱いに問題がないか、大熊に確認することとした。


宮田部長:
 大熊先生、おはようございます。
大熊社労士:
 おはようございます。このあたりでは桜もすっかり散ってしまいましたが、御社の繁忙期もそろそろ終盤戦ですね。
宮田部長宮田部長:
 そうですね。年度末はかなり業務が集中して残業も多くなりましたが、ここに来て、かなり落ち着いてきました。そんなこともあって、先日から労働時間短縮のプロジェクトをスタートさせました。
大熊社労士:
 そうなんですか、それはいいことですね。今後はやはり業務生産性の向上を通じた労働時間短縮が魅力ある企業の条件になってくるでしょうし、また社員のみなさんに時間的余裕ができることは次へのステップに進む際の大きなポイントになるのではないかと思います。
宮田部長:
 そうですね。さて、前回の打ち合わせでもいくつかのアイデアが出たのですが、その中で代休をうまく活用できないだろうかという提案がありました。
大熊社労士:
 なるほど、それも仕事にメリハリをつけ、全体としての時間短縮を進める良いアイデアだと思います。
宮田部長:
 ありがとうございます。そこで一つ確認をしたいのですが、例えば土曜日に1日休日出勤をした際、例えば翌週の平日に代休を取得させるというのはまったく問題がないと思うのですが、残業時間が累積し、当社の所定労働時間である8時間になった場合に1日の代休を与えることは可能なのでしょうか?
大熊社労士:
 なるほど。例えば1日1時間の残業が8日続き、8時間になったところで1日の代休を与えるということですね。
宮田部長:
 その通りです。
大熊社労士大熊社労士:
 はい、まったく問題ありませんよ。ただし、その場合、8時間の時間外労働を完全に相殺することはできず、割増賃金だけは支給する必要があります。具体的にお話しすると、例えば分かりやすいところで時給1,000円の者が8時間の残業をした場合、1,000円×1.25×8時間=10,000円の割増賃金が必要となります。一方で、8時間の代休を与えた場合には1,000円×8時間=8,000円の賃金が控除されますので、結果としてはこの差額である2,000円の2割5分の割増賃金部分の支払が必要となるのです。
宮田部長:
 なるほど。1,000円×0.25×8時間=2,000円ということで、割増分だけは支払う必要があるということですね。
大熊社労士:
 そのとおりです。
宮田部長:
 割増賃金の支払いは必要ではありますが、実労働時間の短縮には有効と考えてもよいですか?
大熊社労士:
 はい、それは間違いありません。忙しいときにはやはり残業が必要なこともあります。しかし、一方で余裕があるときには代休を取って、実労働時間を短縮していくことはメリハリのある勤務を実現する上でも重要ではないでしょうか。
宮田部長:
 ありがとうございます。それではこの代休制度はさっそく実現に向けて、詳細の検討を進めたいと思います。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]

大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です今回は代休制度の運用について取り上げてみました。代休とは事前に振替手続きを行わずに休日労働等を行わせた場合に、事後にその代償として与える休日のことを言います。事前に休日を振替えていない以上、時間外割増賃金の支払いが必要になる訳ですが、この代休は今回取り上げたように終日の休日労働だけではなく、時間外労働の累積に対しても付与することができます。振替でない以上、割増賃金の削減にはなりませんが、本体部分の賃金は相殺されるため、支払人件費自体は抑制することができます。またそれ以前に絶対的な労働時間数を減少させることができますので、過重労働対策には有効な手段であります。今後、長時間労働や割増賃金の問題はますます深刻化し、より生産性の高い職務遂行が求められます。そのためには様々な労働時間制度を駆使し、形式面の時間短縮を進めると共に、実際の労働時間を減少させる仕組みを構築していかなければなりません。

(大津章敬)

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