半日年休の取得回数に制限を設けることはできますか?

 宮田部長は最近、一部の社員の年次有給休暇(以下、「年休」という)の取得に関して頭を悩ましていた。


宮田部長:
 大熊先生、おはようございます。
大熊社労士:
 おはようございます。おやっ?宮田部長、なんだか今日は表情が冴えないですね。なにかありましたか?
宮田部長宮田部長:
 そうなんですよ。当社では年休の取得に際し、半日単位での取得を認めています。午前休の場合は始業時刻の午前8時30分から正午までの3時間30分、午後休の場合は休憩明けの午後1時から終業時刻の午後5時30分までの4時間半となるのですが、一部の若手社員が「午後休を取った方が得だ」と言って、午後休ばかりを申請してくるのですよ。
大熊社労士:
 あらら、そんなことが起きてしまったのですか。
宮田部長:
 そうなんです。当社の仕事はチームで動くことが多いので本来は半日単位の年休を認めるのは業務の効率から言ってあまり望ましいものではありません。しかし、免許の更新や通院などのために半日単位で取得したいという要望が強かったものですから、恩恵的に認めたというものなのです。それをこんな風に申請されてしまうと仕事の段取りの点で困ってしまいますし、更には社内の雰囲気も悪くなってしまいます。
大熊社労士:
 そうですね。年間20日の年休を持った社員だと、理屈上では40回も半日年休を取得できることになりますからね。
宮田部長:
 そうなんです。もう一層のこと半日年休制度を廃止してしまおうかとも思ったりもするのですが、当初の目的通りに利用している社員も多いので、それもどうかと思いまして…。せめて半日年休の取得回数に制限を設けられれば良いのですが…。
大熊社労士:
 なるほど、それでは半日年休の取得回数に制限を設けるようなルールを設けましょうか。
宮田部長:
 えっ?できるんですか?年休は従業員が申請したら、その日に与えなければならないのではないのですか?
大熊社労士大熊社労士:
 はい、確かに年休については、最高裁の判例でそのように解されています。しかし、今回は半日年休という特殊な事例です。そもそも年休は原則として1労働日、つまり暦日を単位とするもので従来は半日年休は認められていなかったのですが、昭和63年3月14日 基発150号という通達で「法第39条に規定する年次有給休暇は、1労働日を単位とするものであるから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない」という取り扱いが示されました。つまり原則は暦日単位での取得であるが、会社が認めた場合には例外的には半日で取得させてもよいということですね。このように会社の承認が前提で導入される制度ですから、半日年休を認める際に、例えば5日を上限にといった制限を設けることは可能なのです。そもそも暦日での年休の取得を制限するようなものではありませんからね。
宮田部長:
 そうでしたか!それはよいことを教えて頂きました。具体的にはどのように対応すればよいでしょうか。
大熊社労士:
 そうですね。やはりこれはルールとして明確に就業規則に記載しておくと良いですね。就業規則の年休の条文にその取扱いを追加しておきましょう。また今回、問題となっている社員から不満が出る可能性がありますので、ここはきちんと説明を行って、趣旨を理解させておいた方がよさそうですね。
宮田部長:
 分かりました。それでは早速、社長に報告し、その方向で対応したいと思います。


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[大熊社労士のワンポイントアドバイス]

大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は年次有給休暇の半日単位での取得について取り上げました。この制度は社員にとって非常に使い勝手が良いものであり、多くの会社で採用されていますが、稀に今回のような問題が発生することがあります。年休については基本的に社員が希望する日時に付与しなければならないという前提があるため、その取得に制限を設けることは難しいと考えがちですが、この半日単位については原則は認める必要がないものであることから、一定の上限日数を設定し、その範囲で認めるという対応が可能です。現在では、改正労働基準法により時間単位での取得も認められていますので、それぞれのメリット・デメリットを検証し、自社にとって最適な制度設計を行うことが求められます。

[関連通達]
昭和63年3月14日 基発150号
 法第39条に規定する年次有給休暇は、1労働日を単位とするものであるから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない。

(大津章敬)

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