社員への貸付金を退職金から控除することはできますか?
服部印刷では5月末で製造部の社員が1名退職することとなった。
宮田部長:
大熊先生、こんにちは。ゴールデンウィークはゆっくりされましたか?
大熊社労士:
はい、ありがとうございます。お陰様で今年は比較的ゆっくり休むことができました。まあ、どこかに出掛けた訳でもなく、近場でゆっくりさせてもらいました。
宮田部長:
それはなによりです。さて、今日は一つ教えて頂きたいことがあるのですが、実は製造部の社員が1名、5月末に退職することとなしました。
大熊社労士:
そうでしたか、それは残念ですね。
宮田部長:
はい、まあご両親の介護のこともあり、実家のある鹿児島に戻るということですから仕方ないですね。品質管理の中心メンバーの一人だったので残念ではありますが。
大熊社労士:
そうですね。それでご相談というのはその方に関してですか?
宮田部長:
その通りです。実は彼には30万円ほど会社からの貸付があるのですが、それを退職金から控除してしまっても問題はないものでしょうか?
大熊社労士:
なるほど。まずはこの問題の基本からお話しすると、原則として以下の3つの要件を満たすことで、退職金からの控除を行うことができるとされています。
貸付を行う際の契約の中で退職時には貸付金を一括して返還することが定められていること
退職時には退職金と相殺して返済することが約定されていること
賃金控除に関する協定が締結され、その中に退職金において貸付金を控除する旨が定められていること
宮田部長:
そうなんですね。手元に貸付金にかかる契約書の控えがあるので確認してみます。えーっと、とについては明記されているようです。でも、賃金控除に関する協定には退職金に関する事項は定められていないですね。これだと控除は難しいですか?
大熊社労士:
原則はそうなりますね。ちなみにご本人は貸付金を退職金と相殺することについて同意されていますか?
宮田部長:
えぇ、本人の方がその方が楽だから退職金と相殺して欲しいと言ってきているくらいです。
大熊社労士:
そうですか。それであれば問題ないですね。控除してもらっても大丈夫ですよ。
宮田部長:
いいんですか?賃金控除協定には明記されていませんが。
大熊社労士:
この点については有名な判例があって「使用者が労働者の同意を得て退職金に対してする相殺は、右同意が同人の自由な意思に基づくものと認めるに足る合理的な理由が客観的に存在するときは、労働基準法24条1項に違反しない」としています(日新製鋼事件 最判平成2年11月26日)。今回はご本人からの申し出があるような状況ですからまったく問題ないと思います。
宮田部長:
そうですか、それは安心しました。それでは控除する方向で進めます。
大熊社労士:
それがよいでしょうね。ちなみに今後も同様のことがあるかも知れませんから、賃金控除協定に退職金からの貸付金の控除を追加しておきましょうか。私の方で用意しておきますね。
宮田部長:
ありがとうございます。よろしくお願いします。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は貸付金の退職金からの控除の可否について取り上げました。退職時に無用なトラブルを起こさないためにも契約書の内容や労使協定について確認しておくと良いでしょう。
関連blog記事
2006年12月18日「賃金控除に関する協定」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51085606.html
(大津章敬)
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