賞与の社会保険料はどのように計算すればよいですか?
算定基礎届に目途がついた服部印刷。今日はそろそろ賞与計算の話をしておかないといけないなと思い、大熊は車から降り、宮田部長が待つ会議室に向かった。
宮田部長:
大熊先生、そういえば算定基礎の用紙と前後して、この賞与支払届とやらが届きました。年度更新に算定基礎と続いていたので、お聞きしていませんでしたが、今月支払う予定の夏季賞与と何か関係あるのですか?
大熊社労士:
社会保険の二大イベントを乗り越えただけに、勘が鋭くなったように思いますね(笑)。はい、その名のとおり、賞与を支払った際に年金事務所に提出する用紙ですよ。
宮田部長:
やっぱり!それで、今日はこの説明をしていただけるんですよね(笑)。
大熊社労士:
あはは、そうですね。福島さんがお休みをされてから初めて支給する賞与ですよね?賞与計算にも不安を抱いているのではないかと思っていましたから、算定基礎の目途がついたら説明しようとタイミングを見計らっていました。
宮田部長:
ばっちりのタイミングです!というのもちょうど昨日、全社員への支給額が決定したところだったんです。支給日は例年と同時期の7月25日になりました。今年はパートさんも含めて、全従業員に支給することになりましたよ。
コンコンっとドアをノックする音が。そこには服部社長が立っていた。
服部社長:
お久し振りです、大熊さん。福島さんのお休みでいろいろとご迷惑をかけています。宮田部長の奮闘ぶりを見て、福島さんが細かなところまで本当にしっかりやってくれていたんだと実感しましたよ。今年の上半期の業績も堅調なので、賞与原資は昨年より増やして福島さんも含む従業員全員に支払うことにしました。
大熊社労士:
そうでしたか。とにかく機能ストップせずに、業務が進んでいるのも宮田部長が真剣に取り組んでいるからだと思っています。いまだから言えるのですが、最初は私もどうなることかと不安になりましたよ。
宮田部長:
そうだったんですか、大熊先生!?あんなに「大丈夫ですよ」っておっしゃっていたじゃないですか…。まぁ、でも結果的によかったということなので、良しとしましょう。
大熊社労士:
さて、賞与計算に話を戻しましょうか。賞与は税金計算の面でも、社会保険料計算の面でも、その方法が給与計算とは異なる部分があります。今回は、賞与の社会保険料の計算方法とその届出について的を絞ってお話したいと思います。
宮田部長:
了解です!それでは、誰か従業員をピックアップした方がいいですよね?この従業員にしましょう。412,200円を支払う従業員です。
大熊社労士:
了解しました。給与計算における社会保険料は前回まで行ってきた算定等で決定した標準報酬月額に基づき従業員の給与より控除するわけですが、賞与計算では賞与の支給額に社会保険料率を乗じることになります。
宮田部長:
へぇ~。じゃぁ、この社員は412,200円にえっと、健康保険料率の…49.85/1,000(※)をかけて…。
※平成24年7月9日現在の協会けんぽ愛知支部の料率です。
大熊社労士:
おっと、ちょっと待ってくださいね。その前に賞与の総支給額から1,000円未満を切り捨てる必要があります。この方の場合は412,000円に対し賞与の社会保険料がかかることになります。ちなみにこの額を「標準賞与額」いいます。
宮田部長:
そうなんですね。それでは改めて、412,000円×49.85/1,000=20,538.2円…。あれれ、端数が出てきてしまいましたね。
大熊社労士:
計算はそれでOKです。端数は通常、被保険者負担分の端数が50銭以下の場合は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げて1円とすることになっています。ですので、今回の場合は切り捨てて20,538円になりますね。同じように厚生年金保険料についても計算してくださいね。
宮田部長:
はい、うむうむ…大熊先生、この人、45歳なんですけど、介護保険料も控除しますよね?
大熊社労士:
お、これまた鋭い質問ですね。はい、7月分から介護保険料の対象となる人は7月に支払う介護保険料も控除対象になります。忘れずに計算してくださいね。
宮田部長:
できました!ん、雇用保険料も計算しなくちゃな…。雇用保険料は当社は5/1,000だったから412,000円×5/1,000=2,060円だな…。
大熊社労士:
想像通りの展開ありがとうございます…、て、私も人が悪いですね。実は雇用保険料は総支給額に雇用保険料率を乗じることになっています。給与計算でもその方法でしたよね。
宮田部長:
あ、そうでしたね。しまったしまった。じゃぁ、412,200円×5/1,000=2,061円ですね。そっか、こりゃ間違いやすいなぁ。
大熊社労士:
はい、ありがとうございます。その通りです。ちなみに、該当する人は多くはないと思ったので後回しにしたのですが、健康保険(介護保険含む)と厚生年金保険には、上限額が定められています。先ほどお話した標準賞与額でみるのですが、健康保険では年度の累計額540万円(年度は毎年4月1日から翌日3月31日まで)、厚生年金保険は1回あたり150万円です。ちなみに、同月内に2回以上
賞与を支給したときは合算した額で上限額を判断します。ちなみに雇用保険にはこのような上限の制度はありません。
宮田部長:
なるほど、いろいろ細かく決まっているんですね。気を付けることにします。ところで大熊先生、今回、福島さんにも賞与を支払うのですが、彼女からも社会保険料を控除してしまっていいんですよね?
大熊社労士:
病気療養中ということでしたよね。退職する予定がないようでしたら、当然賞与は控除する必要がありますよ。あ…ただし、育児休業中に賞与を払うような場合には免除の制度があったりします。
宮田部長:
あれ?大熊先生、何かご存じなのですか!?
大熊社労士:
???
服部社長:
大熊さんには当然、話してもいいでしょう。大熊さん、実は福島さんおめでただったようです。それもあって体調を崩していたようなんですよね。いろいろあり、まだ社内には内緒にしていますが、今後のこともありますので、大熊さんには伝えておきますよ。
大熊社労士:
そうだったんですね。それはそれはおめでとうございます(^^)!今後、いろいろ大変ですが、一緒に勉強していきましょうね。それにしても福島さんには元気なお子さんを産んでほしいですね。さてさて、賞与支払届の話をしておきましょう。日本年金機構のこちらのページに記載例が掲載されていますが、年金事務所から送付されてきたものには、既に被保険者となっている従業員さんのお名前が記載されていますよね。まず、用紙の一番上の「④賞与支払年月日」欄に支給日を書いてください。
宮田部長:
うん、ここだな。
大熊社労士:
そして、各お名前の下に総支給額を書きます。先ほどの方の場合は「412,200」ですね。さらにその右の欄には、標準賞与額の上3ケタを書きます。「412」ですね。これで完成となります。
宮田部長:
思ったより簡単ですね。ちなみに「412」の隣の欄は書かなくていいのですか?
大熊社労士:
はい、賞与の支払年月日を記入する欄ですが、先ほど書いた上段の「④賞与支払年月日」と同日の方について省略でできますよ。
宮田部長:
なるほど、これであればすぐに書くことができますね。ちなみにもう1枚、総括表とかいうのが入っていたのですが、これはどうすればいいですか?
大熊社労士:
はい、こちらも日本年金機構のこちらのページに記載例が掲載されていますが、会社全体のことを記入します。
宮田部長:
なるほど、なるほど、わかりました。こちらも忘れずに記入して事業主の印鑑を押して、提出することにしますね。これで賞与計算も目途がつき、ほっとしました。ありがとうございました。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。既に賞与を支給された会社も多いかと思いますが、今日は賞与支給の際の社会保険等の概要について取り上げました。最後に取り上げた賞与支払届総括表ですが、仮に賞与を支払わなかった場合にも提出が必要とされています。「支給・不支給」欄の「不支給・1」を○で囲んで提出する必要がありますので注意しましょう。それにしても福島さんの妊娠発覚にはびっくりしましたね。今後も福島さん不在の中で、奮闘し、成長する宮田部長を取り上げていきますので、宮田部長と私を応援してくださいね!
参考リンク
日本年金機構「従業員に賞与を支給したときの手続き」
http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=2059
(宮武貴美)
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