改正労働者派遣法の労働契約申込みみなし制度とはどのようなものですか?

 前回、労働者派遣法の改正について説明を行った大熊。今回は改正点の中でも、もっとも影響が大きいといわれる労働契約申込みみなし制度について解説することとした。


前回記事「労働者派遣法が改正されると聞きました」はこちら
https://roumu.com/archives/65571969.html


服部社長服部社長:
 大熊さん、こんにちは。今回の労働者派遣法の改正ですが、派遣労働者を受け入れている企業にとっては何やら大きな影響があるようですね。
大熊社労士:
 そうなんです。今回の改正は一部の企業に影響がある内容が多く、今日ご説明するものに関しても、適正に派遣を受け入れている企業は何も関係ないのですが、一歩間違えるとその影響は絶大なものとなるため、服部社長にも聞いていただきたく、今日のお時間をいただくことにしました。あ、ちなみに、いまから説明する制度ですが、影響が大きいこともあり、3年後の平成27年10月1日施行となりますので、お気を付けください。
宮田部長:
 前回、「みなし制度」とかおっしゃっていましたよね?何を何にみなすのですか?
大熊社労士:
 はい、派遣労働者を受け入れている派遣先の会社が、派遣労働者として受け入れている労働者に労働契約の申込みをしたとみなすのです。実際には申込みをしていないにも関わらず…。
宮田部長:
 へっ?
大熊社労士:
 驚き方がいいですね(笑)。そもそも派遣労働者というのは、派遣元の会社と労働契約を締結していますよね。そして、派遣先の会社は基本的に派遣会社から労働者を派遣をしてもらい、指揮命令を行うのみという関係になります。そこには派遣契約はあっても、派遣労働者との直接の労働契約はありません。
宮田部長:
 そうですよね。お給料も払っていませんしね。
大熊社労士:
 それが【派遣先の会社が違法派遣であること知りながら、派遣労働者を受け入れている場合】には、自動的に派遣先の会社が派遣労働者に対し、労働契約の申込みを行ったことになるんです。
服部社長:
 なるほど。違法派遣をなくす手段ということですね。
大熊社労士:
 さすが服部社長、鋭いですね。おっしゃる通りです。具体的な例を挙げてみましょう。例えば派遣の制限期間のない専門26業務として5年派遣されている労働者がいるとします。実はこの労働者が行っている業務が当初から専門26業務ではなかったとします。この場合の最長の派遣期間は3年間。すると、派遣制限期間を超えていますので、違法派遣となるのです。
宮田部長:
 そうかぁ、実は大丈夫と思っていても、違法だったなんてことがあるんですね。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。もちろん、派遣先の会社が違法派遣だと知らずに、更には知らなかったことに過失がなかったという場合には、この労働契約申込みみなし制度は適用されません。ただ、先ほどのような事例は実際に指揮命令をしているわけですから、違法派遣であったことを知らないことに過失がないとは言い難いのではないでしょうか。私はそう判断されるとみています。
服部社長:
 そうですね。確かに専門業務以外の業務をさせているかどうかは派遣先が一番分かっていることですよね。
大熊社労士:
 そうですよね。ですから、派遣先もきちんと労働者派遣法を知り、対応をしていく必要があるのです。ちなみに、違法派遣とされるのは以下の4つとされています。
禁止業務への派遣受入れ
無許可・無届の派遣元からの派遣受入れ
期間制限を超えての派遣受入れ
偽装派遣
服部社長:
 なるほど、無許可・無届の派遣元からの派遣受入れなどというものもあるのですね。大熊さんのおっしゃる通り、派遣についてはきちんとした管理が必要だと思います。特にこれから当社が新しい派遣会社と取引するときには、派遣許可がきちんとあるかも確認した方がよいということですね。
大熊社労士:
 おっしゃるとおりですね。
宮田部長:
 ところで、この労働契約の申込みみなしは永遠に有効なのですか?
大熊社労士:
 鋭い質問ですね。
宮田部長:
 えへへ。
大熊社労士:
 その点ですが、派遣先の会社は1年間は申込み(みなし)を撤回できないとしています。起算日は、違法派遣が終了した日からになりますので、違法派遣の状態を放置していると永遠に…ということになりますね。
服部社長:
 なるほど、場合によっては、意識もしていないのに、「うちの会社に入らないかい?」と言ってしまっているということになるわけですね。
大熊社労士:
 そうです。非常に怖い制度だということが分かるかと思います。ちなみに、1年間の間に承諾する旨または承諾しない旨の意思表示がされなかったときは効力が失われます。
宮田部長:
 もう一つお伺いしてもよいですか?
大熊社労士:
 はい、もちろん!
宮田部長宮田部長:
 労働契約の申込みをしたとみなされてしまう場合なのですが、その派遣労働者はどのような条件で当社から申込みをしたとなるのですか。
大熊社労士:
 またまた鋭い質問ですね。
宮田部長:
 えへへへ。
大熊社労士:
 この場合なのですが、申込みをしたとみなされる、その時点における派遣労働者の労働条件と同一の労働条件で申込みを行ったとされます。つまり、直接労働契約を結ぶことになったからと言って、1日8時間派遣で来てもらっている派遣労働者を1日4時間に変更するようなことは認められません。
服部社長:
 なるほど。施行は3年後とのことでしたが、業務の見直しなどを考えると、いまのうちから計画的に徐々に対応していく必要がありますね。
大熊社労士:
 おっしゃる通りです。これに加え、先日、改正労働契約法も施行されました。こちらも次回、ご説明したいと思いますので、次回も服部社長、お時間をいただければと思います。
服部社長:
 そうですね。お陰様で社会保険関係は宮田部長がしっかりと学んでくれていて安心していますが、労働契約にかかる部分は今後の経営をどうするかにも絡んでくる部分ですので、宮田部長と一緒に対策を考えていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]

大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。全2回で改正労働者派遣法の主要部分を取り上げました。労働契約申込みみなし制度は平成27年10月1日施行、その他は平成24年10月1日施行となりました。内容が随分骨抜きになったといわれる今回の改正ですが、今回の労働契約申込みみなし制度は、気づいたら直接の労働契約が成立している可能性もある究極の制度です。いまからきちんと対策をとっておくことが、後のトラブル防止のために重要になってきます。


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講師:岩出誠弁護士
(ロア・ユナイテッド法律事務所代表パートナー)

[日時および会場]
(1)東京会場
平成24年8月31日(金)午後1時30分~午後4時30分
 総評会館 大会議室(御茶ノ水)
(2)大阪会場
平成24年9月14日(金)午後1時30分~午後4時30分
 マイドームおおさか 第1・2会議室(堺筋本町)

[詳細およびお申込み]
 本セミナーの詳細およびお申し込みは以下よりお願いします。なお、LCG会員のみなさんは専用ホームページ「MyKomon」よりお申し込みをお願いします。
http://www.lcgjapan.com/sr/seminar/1209sr3rd.html


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2012年8月13日「労働者派遣法が改正されると聞きました」
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2012年8月10日「改正労働契約法が公布 改正労働者派遣法は10月1日施行で決定」
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2012年8月8日「[改正派遣法(2)]早急な対策が求められるグループ内企業派遣の規制強化」
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2012年8月6日「[改正派遣法(1)]日雇派遣の原則禁止と例外となる労働者」
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(宮武貴美)

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