妊娠した従業員の体調不良にはどう対応すればいいですか?

 福島さんの傷病手当金の手続きも終了し、ほっとした気分に浸っている大熊社労士と宮田部長。ただ、今後、妊娠・出産をする女性従業員が発生した場合にはどのような対応をすれば良いのか…。このようなことが新たなテーマとなっていた。


服部社長:
 大熊さん、こんにちは。宮田部長がいろいろお世話になっているようですね。いつもご指導ありがとうございます。
大熊社労士:
 服部社長、こちらこそいつもお世話になっています。宮田部長は本当にこの半年でいろいろなことに取り組まれてきました。私も安心できるようになりましたよ。
宮田部長:
 様々な実務を自分自身で行うようになり、福島さんの存在の大きさが分かりましたね。
服部社長服部社長:
 ところで、今回の福島さんのように、妊娠をして体調を崩すというケースは今後も発生する可能性があると思うのですが、会社としてはどう対応すればよいでしょうか?
大熊社労士:
 とても難しい問題ですよね。法律(男女雇用機会均等法)にも定めがありますが、問題が発生しないと見落としがちですので確認しておきましょう。まず、さすがにいまの時代ではほとんどないかとは思いますが、結婚をしたことを退職理由とするような定めはできませんし、それを理由に退職を勧めることもできません。これは、妊娠や出産に関しても同様の取扱いになります。
宮田部長:
 以前は結婚すると女性は会社を辞めて家庭に入るものでしたが、いまの時代は変わりましたよね。当社でも結婚のタイミングで退職する女性はほとんどいなくなりました。
服部社長:
 確かに女性の勤続年数も長くなってきていることを感じます。最近は妊娠・出産のタイミングで悩む女性が増えてきているんだろうね。
大熊社労士:
 そうですね。そして、継続して勤務を希望する女性も増えています。ちなみに先ほどは「退職」という言葉を使いましたが、解雇についてももちろん制限があります。妊娠中や産後1年以内に解雇をすることは原則として認められません。妊娠したということはもちろん、その影響で長期休業を取らせる必要がある場合でもできないと考えてください。ただし、その解雇の理由が、妊娠等を理由としていないことを会社が証明できれば認められます。
服部社長:
 なるほど。例えば、業績不振で工場を閉め、その工場の従業員全員を解雇するような場合であれば認めらるということですね。
大熊社労士:
 そうですね。そのような整理解雇の案件ならばはっきりしていますので、認められるでしょう。もちろん、その前にその整理解雇が有効かという議論はありますので、実際には様々な事項について検討が必要にはなります。さて、次にですが、妊娠中というのは体調の変化が頻繁に起こるものです。あ、もちろん、私は産んだことはありませんが…(笑)。
宮田部長:
 あはは、私たち男には分かりませんが、大変そうですよね。この前、福島さんが来たときにも、自分でもどうしようもなくて…と言ってましたよ。
大熊社労士:
 そうですね。それに加えて、保健指導や健康診査を受ける必要がありますので、事業主にはこれら保健指導等が受けられるように時間を確保してあげる義務があります。一般的には、休日に病院に行ったり、年次有給休暇で対応する方が多いとは思うのですけどね。
服部社長:
 そうですね。年次有給休暇もそのような利用法ならば、事業主という立場でも積極的に使って欲しいと思いますね。
大熊社労士:
 そうですね。そして、その保健指導等を受けると、医師からの指導が行われることがあります。例えば、つわりが相当きついので、勤務時間を短縮することや勤務を軽減するといったことです。今回の福島さんの場合は切迫流産ということでしたので、休業の指示が出たのでしょうね。
宮田部長宮田部長:
 そうなんですよ。「少なくとも1ヶ月は完全に安静に」と言われたと、福島さんが泣きそうな声で電話してきました。もちろん体の方を大事にすることが最優先ですから、「こっちは心配ないから休みなさい」と伝えたんですけどね。内心は私が泣きそうでした。
大熊社労士:
 そうでしたか。こういう状況は妊娠だけでなく起こる可能性があるので、業務マニュアルのようなものを整備しておくことが重要ですね。
服部社長:
 大熊さん、今回は総務の担当者で、状況も把握していたから良かったですが、少し目の届きにくい部署ですと、妊娠したことも伝わってこない、何かあってもどうしたら良いか、現場が混乱する恐れがあるのですが、何か対策はないでしょうか。
母性健康管理指導事項連絡カード大熊社労士:
 そうですね、そのようなことは容易に想定されますよね。厚生労働省では、保健指導等による医師の指導内容を的確に事業主に伝えるために「母性健康管理指導事項連絡カード」の利用を勧めています。様式を見ていただければ分かりますが、症状等とそれに対する標準措置が記載されているので、本人の状況も勘案しながら、措置を取っていくことになりますね。
宮田部長:
 そういえば、このカードのことは以前お聞きしたかも知れませんね、すっかり忘れてしまっていましたが…(苦笑)。
服部社長:
 こういうような連絡カードもあるのですね。これは会社としても活用していこう。医師の指導を受けていることもはっきりさせておくことで、同僚にも納得感が沸くだろうからね。ただ、現場の繁忙期に突然2週間休む必要があるといわれても正直、困ることがあると思うのですが、どうしてもその指導に従う必要があるのですか?
大熊社労士:
 おっしゃること、推測いたします。ただ、指導に従うことが事業主の義務となっていますので、断ることはできません。逆に言うと、妊娠するということはそのようなリスクがあることを認識しておくことと、妊娠をした際になるべく早く上長に報告をできるような体制をコミュニケーションという面も含め、構築しなくてはならないのでしょうね。
服部社長:
 大熊さんのおっしゃる通りですね。できるだけ早く情報が上がり、それに対応できる体制が取れるということが理想でしょうから、それは私も含め、管理をする立場の者と一緒に学んで行こうと思います。
宮田部長:
 ところで大熊先生、この指導に従うべきだということは分かったのですが、その際の給料は無給でいいのですよね?
大熊社労士:
 はい、ノーワークノーペイの原則にしたがい、無給で構いません。そこははっきりさせておく必要があるので、就業規則に記載をし、誤解のないようにしておきましょうね。
宮田部長:
 了解しました。確認しておきますね。
服部社長:
 大熊さん、賞与についてはどのように考えればよいですか?
大熊社労士大熊社労士:
 はい、実際に働いていない分に関しては、欠勤として取り扱って構いません。そこは労務提供をしたか、しないかで判断しても問題にはならないのですが、それを超えて減額するような取り扱いは禁止されています。賞与の査定については、妊娠をしたこと等の事実は、考えずに行うようにすることですね。
服部社長:
 なるほど、ありがとうございました。

>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]

大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。このブログは、妊娠中の女性労働者も多くご覧いただいていることでしょう。法律では以上のように、いろいろな配慮がされ、事業主にも措置義務が課されています。ただ、労働者の当然の権利としてではなく、労働者としても周囲になるべく配慮しながら、必要な権利を行使していきたいですね。労使双方が必要なコミュニケーションを取れるようにしていきましょう。


関連blog記事
2007年8月9日「母性健康管理指導事項連絡カード」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54764218.html

参考リンク
厚生労働省「母性健康管理指導事項連絡カードの活用について」
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/josei/hourei/20000401-25-1.htm

(宮武貴美)

当社ホームページ「労務ドットコム」および「労務ドットコムの名南経営による人事労務管理最新情報」「Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog」にもアクセスをお待ちしています。