改正高年齢者法に対応した就業規則の変更はどのようにすればよいですか?
服部印刷に到着した大熊社労士。いつも面談する会議室まで進んでいくと、宮田部長が唸りながら何かを考えている姿が見えた。
関連blog記事「65歳までの雇用が義務付けられたと聞きました」はこちらから
https://roumu.com/archives/65577425.html
大熊社労士:
こんにちは、いつもお世話になっています。何か真剣にご覧になっていらっしゃいますけれども、どうされましたか?
宮田部長:
大熊先生、こんにちは。あぁ、もうこんな時間なのですね。実は、就業規則を変えなければならないなと思い、唸ってしまっていました。
大熊社労士:
定年の部分ですか?
宮田部長:
はい、以前、大熊先生からお話を聞いていましたので、そろそろ準備をしなくてはいけないなと思い、就業規則を確認していたのです。ただ、どうしたらよいのか悩んでしまって。
大熊社労士:
なるほど。今日はちょうど厚生労働省から出された就業規則の記載例を持ってきましたので、一緒に見てみましょう。こちらがその記載例が掲載されているリーフレットです。まずは改正内容の基本的な部分を確認しておきましょう。
★ここからはこちらのリーフレットを確認しながら読み進めるとわかりやすいです★
http://blog.livedoor.jp/leafletbank/archives/51232162.html
宮田部長:
はい、お願いします。実は前回の説明もうろ覚えになっていて困っていました(苦笑)。
大熊社労士:
やっぱり…(笑)。さて、この改正法は来年(2013年)4月1日に施行されます。その内容は、原則として希望者全員を65歳まで雇用しなければならないというものです。何が変わるかということ、これまでは労使協定で基準を定めることで、60歳以降について継続雇用する対象者を限定する仕組みがありました。これが廃止になるため、原則として希望者は全員雇用することになるのです。
宮田部長:
そうでしたね。就業規則の定年の部分を見て、あれ?この定年を「65歳」とするんだっけ?と思ってしまいましたが、その必要はないですよね?
大熊社労士:
はい。その通りです。今回の改正では60歳の定年を65歳に引き上げることまでは必要としていません。ですので、リーフレットをご覧いただくと、「定年は満60歳とし」と書いてありますよね。
宮田部長:
本当ですね。うむうむ、60歳以降は継続雇用になるのですね。だから、定年の引き上げまでは要しない。一旦60歳を定年として、本人が継続雇用を希望するかどうかを確認、その上での対応になるわけですね。
大熊社労士:
その通りです。リーフレットの続きをご覧いただくと、但し書きの後に「解雇事由又は退職事由に該当しない者については」と書いてありますよね。これが以前お話をした「事業主が講ずべき高年齢者確保措置の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む。)に関する指針」の部分です。指針の名称としては、平成24年厚生労働省告示第560号で高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針となりました。
宮田部長:
なるほど。
大熊社労士:
再度、お話することになりますが、この指針では、「心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。)に該当する場合には、継続雇用しないことができる」としています。だから、先ほどの記載例のように書くことでそれに該当する人は、例え本人が希望したとしても継続雇用を断ることができるとなるのです。この部分を書き忘れると、それこそ本当に希望者全員の65歳までの雇用となるので、現在、断るような従業員の方がいない場合にも入れておいた方がよい内容となります。
服部社長:
そうですね。将来的にはどうなるか分からないですからね。
宮田部長:
わ!社長、いつからこちらにいらっしゃったのですか?最近、突然現れることが多いですよね(汗)。
大熊社労士:
宮田部長、別に見られて困るようなことをしていた訳ではないですから、そんなに慌てなくてもいいじゃないですか(笑)。
服部社長:
大熊さん、確かにそうですよね。ところで、いまご説明いただいていた話なのですが、「解雇事由又は退職事由に該当しない者については」では、従業員にとってピンとこないような気がします。解雇の事由って言われてもよく分からないなんて反発されるかも知れませんので、これに対応できる何かよい方法はありませんか?
大熊社労士:
はい、2つの方法があると思っています。1つ目はリーフレットの2ページ目(裏面)にある内容です。「就業規則に定める解雇・退職事由と同一の事由を、継続雇用しないことができる事由として、解雇・退職の規定とは別に、就業規則に定めることもでき
る」とありますよね。したがって、「定年後も引き続き雇用されることを希望する従業員については、65 歳まで継続雇用する。ただし、以下の事由に該当する者についてはこの限りではない。(1) 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、従業員としての職責を果たし得ないとき。(2) 精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。…」と、定年の定めの部分に改めて解雇や退職と同じ定めを記載することができます。ただし、「解雇・退職事由とは異なる運営基準を設けることは改正法の趣旨を没却するおそれがあることに留意する」と指針にもありますので、これらの基準は、解雇や退職の事由と同一にする必要があります。
服部社長:
なるほど、確かに解雇や退職の事由と異なるものを入れると、これまでの選定基準と変わらないってことになってしまいますよね。それで、2つ目はどのようなものですか?
大熊社労士:
はい、これは記載例にはないのですが、解雇や退職が記載されたものが第何条かを記載すると方法があると思います。「第●条の解雇事由又は第▲条の退職事由に該当しない者については」という表現ですね。確かにこれらの第●条という表現がなくても十分伝わるとは思うのですが、就業規則を読みやすく、より分かりやすくするのであれば、このような表現がよいと考えています。
服部社長:
なるほど、確かにそれは言えるかもしれませんね。1つ目の方がより分かりやすいのかもしれませんが、解雇の部分を修正するときに、修正し忘れるなんてことがあったりするかも知れませんし、後々、なぜ2か所に書いてあるか分からないという事態にもなるかも知れませんからね。ね、宮田部長。
宮田部長:
よくお分かりで(笑)。
服部社長:
さらに、質問してもよいですか?リーフレットの続きの部分に「労使が協定を締結することができる」ともあるじゃないですか。これはどういうことなのですか?
大熊社労士:
はい、今回のお話では就業規則の変更ということで進めてきましたが、就業規則の変更ではなく、会社と従業員代表とが同意をして協定を締結することでも対応できるとされています。協定の方が労使合意が前提となりますので、手間はかかりますが、その後の運用を考えると協定の方が望ましいという見方もできるでしょうね。ただ、その場合でも、もちろん就業規則の変更は必要です。
服部社長:
なるほど。よく分かりました。
大熊社労士:
今回の法改正では、経過措置が設けられている部分もありますので、こちらについては次回、改めてお話することにしましょう。
服部社長:
よろしくお願いします。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。改正高年齢者雇用安定法への対応をそろそろ検討する時期となりました。検討で必ず考えておきたい内容が、継続雇用後の労働条件です。これについては、特に継続雇用時の労働条件を引き継ぐ必要はありません。企業の合意的な裁量の範囲で設定が可能とされています。そもそもどのような業務に就かせるのか、その際の賃金はどうするのか、また労働時間についてどの程度本人の希望を受け入れるのかなど考慮しながら、労働条件を考えていきましょう。
関連blog記事
2012年9月17日「65歳までの雇用が義務付けられたと聞きました」
https://roumu.com/archives/65577425.html
2012年11月14日「改正高年齢者法に対応した就業規則規定例および最新リーフレットのダウンロード開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51963262.html
2012年11月13日「改正高年齢者法において継続雇用から除外できる者を定めた指針が公開」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51962736.html
2012年10月22日「65歳以上まで働くことのできる企業割合と定年到達者の動向」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51959290.html
2012年10月9日「改正高年齢者法の継続雇用しない労働者の範囲等に関する指針案概要が発表に」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51956345.html
2012年9月29日「改正高年齢者雇用安定法のリーフレット ダウンロード開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51955291.html
2012年9月17日「65歳までの雇用が義務付けられたと聞きました」
https://roumu.com/archives/65577425.html
2012年9月6日「改正高年齢者雇用安定法が公布」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51951536.html
2012年8月30日「改正高年齢者雇用安定法成立 2013年4月1日に施行」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51950333.html
参考リンク
厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止~」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1.html
(宮武貴美)
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