雇用保険の高年齢雇用継続給付金は短時間の被保険者でも受給できますか?

 改正高年齢者雇用安定法の説明も終了した大熊社労士。今日は高年齢雇用継続給付の話をしようと服部印刷に向かった。


大熊社労士:
 服部社長、こんにちは。今日は以前ご依頼いただきました高年齢雇用継続給付のお話をしようと思っています。
服部社長:
 そうでしたね。お願いしていましたね。よろしくお願いします。今後の60歳以降の雇用のことを考えるとしっかり学んでおかなければと思いましてね。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。さて、この高年齢雇用継続給付ですが、原則として60歳到達時点に比べて賃金が75%未満に減り、その状態で働き続ける60歳以上65歳未満の被保険者に支給されるものになります。時々、会社が受給できる助成金と勘違いされる方がいらっしゃいますが、これは本人に支給される(本人の銀行口座等に振り込まれる)ものというのが特徴ですね。
宮田部長:
 うちの会社でも何名かを申請しています。案外もらえるので結構、助かるという話を耳にしていますよ。
大熊社労士:
 そうですね、世間一般的な評価も同様のものかと思います。この給付金は既に15年以上前にできたものであり、当時は60歳以降の継続雇用について、法律で義務付けられはいませんでした。その時分から徐々に制度として広がりを見せ、次第に60歳以降の賃金設計はこの高年齢雇用継続給付が支給されることを前提に作られてきた部分もあります。来春の改正高年齢者雇用安定法の施行で、役目を終えてもよい給付とも考えられていましたが、制度が浸透しているが故に簡単に変更するわけにはいかないようですね。
服部社長:
 確かにそうかもしれませんね。特に従業員本人の口座に支払われるとなるとインパクトが大きいですからね。
大熊社労士:
 そうですね。あ、なんだか最初から大きな問題提起をしてしまったようですね。それでは内容を確認していきましょうか。
服部社長:
 よろしくお願します。
大熊社労士:
 高年齢雇用継続給付は、実は2つのものから成り立っています。1つが高年齢雇用継続基本給付金、もう1つが高年齢再就職給付金です。
宮田部長:
 高年齢再就職給付金?あまり聞いたことがないんですが、どんなときにもらえるものなのですか?
大熊社労士:
 はい、これは失業し、基本手当を受給し再就職した人が対象となるものです。概要をお伝えすると、基本手当の支給残日数が100日以上で、再就職した場合で、賃金が75%未満に低下している場合、支給対象月に支払われた賃金の最大15%が支払われるというものです。
宮田部長:
 なるほど。当社は60歳以降も「服部印刷で働くんだ!」という人ばかりですし、60歳以降の従業員を雇用することはまずもってないので、対象者はなさそうですね。
大熊社労士:
 そうですね。通常は、基本手当を受給せずに働き続けることが一般的かと思いますので、ここからは高年齢雇用継続基本給付金(以下、「給付金」という)についてスポットを当てることにしましょう。
服部社長:
 そうですね。当社でも60歳以降、継続して雇用している人をイメージしていますので、そちらでお願いします。
大熊社労士:
 さて、この給付金ですが大前提として、60歳以上65歳未満の一般被保険者であり、雇用保険の被保険者であった期間が5年以上なければなりません。つまり、1週の所定労働時間が20時間未満の場合には、一般被保険者ではないため、支給対象とはなりません。
宮田部長:
 なるほど。当社は週5日勤務ですので、1日4時間以上というイメージですね。
大熊社労士:
 毎日出勤することを前提にするとそうですね。そして、この被保険者が、先ほどもお話したように、原則として60歳時点の賃金と比較して、60歳以降の賃金が75%未満に下がった場合に支給されることになります。
宮田部長:
 確か15%支給されるんでしたよね?
大熊社労士:
 ええ、賃金が60歳時点の賃金の61%以下になった場合には、15%が支給されます。逆に、例えば70%に下がっている場合は、4.67%が支給されることになります。つまり、61%を限度に低下率が大きければ大きいほど、支給率も大きくなります。
服部社長服部社長:
 なるほど。それだけ賃金が低くなったので、雇用保険から支給してあげようということですね。ちなみにその支給率というのはどの金額に対して乗じるのですか?60歳時点の賃金なんですかね?
大熊社労士:
 おぉ、大事なことを申し上げていませんでしたね。これは60歳以降に支払われた賃金に対して支給されます。ですので、60歳時点の賃金が40万円の人が60歳以降の賃金として20万円支給されると、低下率が50%、支給率が最高の15%。20万円の15%である3万円が支給されることになります。
服部社長:
 なるほど。うまくできていますね。てっきり40万円の15%、6万円が支給されるのかな?と思ってしまいましたよ(笑)。
大熊社労士:
 確かに勘違いしやすいですよね。
宮田部長宮田部長:
 いまお話を聞いていて、ふと思ったのですが、当社の一部の従業員は労働時間を1日8時間のところ、60歳以降は5時間程度にし、給料も8分の5・・・つまり62.5%にするという方法を採っています。よく考えたら、労働時間が短くなったことの賃金減額でも、この給付金はもらえるのですか?
大熊社労士:
 すごく良い質問ですね!この給付金ですが、実は宮田部長のご指摘のような時間単価の考え方は用いていません。ですので、60歳以降に時間単価という意味で賃金が下がっても、単純に労働時間が減ったことで賃金が下がっても、両方変わらずに支給されるんですよ。
服部社長:
 ほぉ、なるほど。実際に担ってもらう業務がほとんど変わらないのに、時間単価を大幅に下げることは本人たちのモチベーションにも影響するので、あまりやりたくないと思っていましたが、その状態でもうまく利用できそうですね。
大熊社労士:
 はい、おっしゃる通りです。60歳以降は労働時間を少し減らして後進の指導を行いながら働いてもらうというようなことは十分に考えられますよね。おっと、少し話がずれそうになりましたので、戻しましょう。この給付金ですが、2ヶ月に1度の申請となり、被保険者が60歳になった月から65歳になる月まで支給されることになっています。
宮田部長:
 当社でも2ヶ月に1回、申請に行っていますよ。そうそう、福島さんがお休みしたときに、真っ先に「嘱託さんの申請はぜ~ったいに遅れないようにしてくださいね!」と電話がかかってきましたよ。私はそれまでこの申請が2ヶ月に1回だったことも知りませんでした、お恥ずかしながら(苦笑)。
大熊社労士:
 そうですね、この申請は特に期限厳守とされていますので、申請を忘れるとご本人に支給されないことになります。そういう意味ではとても重要なものになりますね。
服部社長:
 なるほど、確かに申請を忘れると会社が保障してあげるなんて話に繋がりかねませんね。宮田部長、どうです。次回は大熊さんにその申請のあたりの話を整理してもらったらいいんじゃないですか?もちろん、福島さんから聞いているかとは思うのですが、重要なことですからね。
宮田部長:
 そうですね、良ければ教えていただければ嬉しく思います。
大熊社労士:
 了解しました。それでは次回は申請のあたりを整理することにしましょう。
宮田部長:
 よろしくお願いします。

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。今日から高年齢雇用継続給付のお話を開始しました。ここで少しお話をしておきたいのが、60歳以降に退職したときのことです。給付金をもらったからといって、60歳以降の基本手当が減額することはありません(65歳以上での退職は基本手当ではなく、一時金である高年齢求職者給付金が支給されます)。ただし、基本手当の日額は、原則として退職日の直前の6ヶ月に支払われた賃金の合計を180で割って算出した金額で決まるため、60歳以降に賃金が下がるとこの日額も連動して下がり、基本手当の額が少なくなる可能性が高くなります。できれば、高年齢雇用継続給付の説明をする際に、この部分も説明しておくとよいでしょう。


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2012年11月14日「改正高年齢者法に対応した就業規則規定例および最新リーフレットのダウンロード開始」
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2012年11月13日「改正高年齢者法において継続雇用から除外できる者を定めた指針が公開」
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2012年10月22日「65歳以上まで働くことのできる企業割合と定年到達者の動向」
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2012年10月9日「改正高年齢者法の継続雇用しない労働者の範囲等に関する指針案概要が発表に」
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2012年9月29日「改正高年齢者雇用安定法のリーフレット ダウンロード開始」
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2012年9月17日「65歳までの雇用が義務付けられたと聞きました」
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2012年9月6日「改正高年齢者雇用安定法が公布」
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2012年8月30日「改正高年齢者雇用安定法成立 2013年4月1日に施行」
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参考リンク
ハローワークインターネットサービス「雇用継続給付」
https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_continue.html

(宮武貴美)

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