通勤手当はかかった費用の実費を支給しなければなりませんか?

 大熊は久々に電車に乗って服部印刷を訪問した。さっそく宮田部長が応接に招き入れてくれ、話しかけてきた。


宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。今日は通勤手当のことでご相談があります。
大熊社労士:
 通勤手当?残業代の基礎になるとか、ならないとか、そういうことですか?
宮田部長宮田部長:
 いやいや、違うんですよ。当社は土地柄、自家用車通勤の従業員が多くいますが、公共交通機関を利用する従業員もいます。その従業員から、「健康のために1駅前の駅から歩いてくるけどいいですか?」と聞かれましてね。そうなると、通勤手当はどういう風に考えればよいのか、その他に何か問題になるようなことはないか、頭の中がぐるぐるしてきましたよ。
大熊社労士:
 まぁまぁ、落ち着いてください。御社の賃金規程の中で、公共交通機関を利用している人に対する通勤手当額を確認すると、「会社が経済的に合理的と認めた経路の1ヶ月分の定期券代相当額を支給する」となっていますね。
宮田部長:
 はい、おっしゃる通りです。
大熊社労士:
 であれば、まずは御社として、どの経路が「経済的に合理的と認められるか」ということを決めなくてはなりません。たぶん、その方は最初に自宅から御社までの経済的に見て合理的だという通勤経路を申請し、会社はそれを認めたのでしょうね。
宮田部長:
 そうそう、確か入社するときに、通勤手当支給経路申請書とかなんとかいう書類を提出してもらっています。総務でそれが正しいかどうかを確認し、通勤手当の額を決定するという手続きになっています。
大熊社労士:
 そうですよね。それであれば、基本的には1駅前で降りて歩いてきたとしても問題ないと認めてもよいと思いますよ。仮に規程に「実際に通勤に係った費用を支給する」というような記載であれば、1駅分の通勤手当をどうするか?という問題が発生しますよね。
宮田部長:
 なるほど、弊社の規程が「1ヶ月分の定期券代相当額」となっていて、必ずしも実費とは書いていないですもんね。
大熊社労士:
 ただし、1駅前の駅から歩いてくるのが、社会通念上、おかしくない距離であれば、1駅前までも最寄駅と認めて、それらの駅を利用している従業員一人ひとりについて、どちらが経済的合理的かを判断することになります。
宮田部長:
 社会通念上、おかしくない距離・・・徒歩5分と10分なら両方最寄な感じがしますけど、15分まで行くとなぁ・・・ってな感じですよね?
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。どこまでがOKなどというものはないので、これはある程度、会社が決めることになるのでしょうね。例えば、うちの最寄駅はJRであればA駅、私鉄であれば、B駅もしくはC駅、バス停であれば、Dバス停のように。
宮田部長:
 会社が決めちゃってよいのですか?
大熊社労士:
 そもそも通勤手当は、法律上では払わなくてもよい賃金です。最低賃金にも入らないようなものですし。つまり、会社が自由に決めてもよいものなのです。
宮田部長:
 あぁ!確かにそうですね。私は勤め始めたときから通勤手当をもらっているので必ず払わらなければならないと思っていました。
大熊社労士:
 ですよね。でも、払わないという選択肢もあるし、上限を決めることもできるのです。だから、通勤手当という自由な手当について、最寄駅を定めることももちろん可能です。
宮田部長:
 今回、従業員は徒歩15分程度らしいので、迷うところですが、こちらの駅も最寄駅とすることにし、通勤手当をそちらの駅までのものに変更することにします。
大熊社労士:
 了解しました。ちなみに、冒頭で残業代のことをちらっと話題に出しましたが、通勤手当については、割増賃金の計算から除外できる手当となっています。これについては、「通勤距離または通勤に要する実際費用に応じて算定される手当」とされています。健康志向の高まりにより通常では考えられない距離を徒歩や自転車で通勤するケースが増えてきており、公共交通機関を使わない分、実際費用がかかっていないケースも見られます。これが割増賃金の計算に含むべきかどうかはまだはっきりしていないようですね。
宮田部長:
 そういうところにも影響が出る可能性があるのですね。気にしたいと思います。ありがとうございました。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。今日は通勤手当のことを取り上げてみました。通勤手当をしっかりと計算しようとすると、なかなかルール化が難しいものです。自社としてどこまでを通勤手当の対象とみるかをきちんと決定しておきましょう。次回は通勤手当支給と通勤災害の関係について取りあげることにしましょう。


関連blog記事
2013年7月2日「割増賃金の基礎となる賃金とは?」
http://blog.livedoor.jp/leafletbank/archives/51271736.html

(宮武貴美)
http://blog.livedoor.jp/miyataketakami/

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