海外出向者の社会保険はどのように取り扱うのですか?

 大熊が服部印刷に到着し、招き入れられた応接では服部社長が待っていた。


服部社長:
 大熊さん、ご無沙汰しています。
大熊社労士:
 あ、服部社長、お久し振りです。
服部社長:
 今日はうちの会社のことではないけど、確認したいことがあるのですがよろしいですか?
大熊社労士:
 もちろん。どのようなことですか?
服部社長服部社長:
 近年、製造業の海外進出はどこも考えることじゃないですか。そのときに、まぁ、普通であれば現状いる社員を現地法人などに出向させることが多いかと思いますが、その際の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の取扱いはどうなるのかな?と思いまして。
大熊社労士:
 なるほど。確かに疑問に感じるところですよね。実は1ヶ月前ほど、日本年金機構からそれに関する資料が公開されました。この資料によると、出向など日本での雇用関係が継続したまま海外で勤務する場合、出向元から給与の一部(全部)が払われているときは、社会保険も継続加入することになっています。
服部社長:
 なるほど。多くは数年の単位で帰国する前提で海外に派遣されているでしょうからね。あくまでも国内の会社、出向元とは継続的に雇用関係は結ばれていますよね。
宮田部長:
 大熊先生、そのときの標準報酬月額ってどのように見るのですか?
大熊社労士:
 するどい質問ですね。まずは給与が全額、国内から払われているときは、その額ということになります。労働の対価、給与明細等に記載があるもののことですね。
宮田部長宮田部長:
 それでは一部しか払われていないときは、もしかしたら、標準報酬月額がとても低くなる可能性もあるということですか?
大熊社労士:
 はい、その可能性もありますね。ただし、注意すべき扱いがあります。出向先の海外の会社から給与が支払われている場合の対応です。
服部社長:
 どのようなものがあるのですか?
大熊社労士:
 通常は海外の会社からの分は報酬には含めないのですが、国内の会社の給与規定や出向規定等に基づいて実質的に国内の会社から払っていることが確認できれば、その給与も含んで報酬とすることになっています。
服部社長:
 現地の生活費に充てる金額として、基本給の半分は海外の会社から海外の通貨にて払うというようなケースだったりしますかね。
大熊社労士大熊社労士:
 海外出向者の賃金設計はいろいろで、日本年金機構には事例は載っていませんが、そのようなケースはあり得るでしょうね。この報酬に含める給与についてはあくまでも規定等に基づいて払われるものに限りますので、海外の会社からその労働の対価として直接給与が払われるようなものは含まないということは留意点なのでしょう。
服部社長:
 なるほど。実際に海外出向者が出るようなケースでは、賃金も含めた労働条件をどうするのか、その払い方や、現地法人との負担割合といったものもしっかり整備をしていかなければならなさそうですね。将来的な国内の年金額が必要以上に低額になることにもつながりかねませんからね。
大熊社労士:
 そうですね。まずは1人だけだから場当たり的な対処になりがちですが、ご家族がいれば帯同をさせるのか、そのときの費用は・・・といった細かなことも想定しておかなければ、出向者が不安に思うので、きちんとつめておいたほうがよいですね。
服部社長:
 ありがとうございました。一度、私と話をしていた社長に伝えておきますね。
大熊社労士:
 そうですね。何かありましたらご遠慮なくお声をおかけくださいね。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。海外の会社から払われる給与が海外の通貨ということがありますが、この場合には、実際に払われた額について、支払日の外国為替換算率で日本円に換算した金額を報酬額とすることになっています。


参考リンク
日本年金機構「海外勤務者に係る報酬の取扱いに関する記事を掲載しました。」
http://www.nenkin.go.jp/n/data/service/0000018004Csnu7lBxuA.pdf

(宮武貴美)
http://blog.livedoor.jp/miyataketakami/

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