退職願は法律上、いつまでに提出すべきなのですか?

 例年からすると、そろそろ梅雨明けの時期だなぁと青空を見上げながら、大熊は服部印刷に向かった。


宮田部長:
 大熊先生、基本的なことですが、今日は1点、退職に関することで確認させて頂いてもよいですか?
大熊社労士:
 もちろん!どういう内容ですか?
宮田部長:
 当社では、就業規則の退職という条文に「自己都合で退職する場合には、1ヶ月前に退職願を提出すること」と記載しています。
大熊社労士:
 比較的よく見る規定ですね。
宮田部長宮田部長:
 やっぱり、そうですよね。これまで多くの正社員は、この規定どおりに退職願を出してきてくれたのですが、先日、1週間前に突然、退職すると申し出てきた正社員がいました。よくよく話を聞いてみると、直属の上司にはかなり前から伝えていたようなのですが、総務まで話が回ってきていなかったようなのです。
大熊社労士:
 そうでしたか。そんな状態では、総務は手続きでバタバタしてしまいますね。
宮田部長:
 はい、それが問題となりました。そこで、法律で何らかの規定がないのかな?と疑問に思いまして・・・。確か、解雇するときは1ヶ月前に予告が必要ですよね?
大熊社労士:
 会社が従業員を解雇する場合には、少なくとも30日前の予告か、30日分の解雇予告手当の支払いが必要になりますね。あ、もちろん、この2つを組み合わせることも可能です。これは労働基準法で規定されていることですが、自己都合の退職において、従業員から○日前に申し出なさいというような規定は、労働基準法では規定されていません。
宮田部長:
 え!そうなんですか?なんか、会社側ばかりに不利な条件が押し付けられているような気がするな・・・。
大熊社労士:
 確かにそう感じるかも知れませんね。まぁ、労働基準法は弱い労働者、強い使用者という考え方が基本にありますからね。さて、話を前に進めましょう。それでは従業員はいつでも退職できるのかというと、民法の第627条第1項に「期間の定めのない雇用の解約の申入れ」という条項があり、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」と規定されています。つまり、少なくとも14日前には申出をすることが必要になると解釈できますね。
宮田部長:
 なるほど。確かにそうですね。
大熊社労士大熊社労士:
 さらに民法の第627条第2項で、「期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない」という規定がありますので、月末締めの月給制の場合で、その月に退職する場合には、月の前半である15日までにしなければならないということになります。
宮田部長:
 なんだか難しいですね・・・。
大熊社労士:
 はい、私も同じ感想をずっと持っています。
宮田部長:
 ん?そうなると、先ほどお話をした就業規則の「1ヶ月前に退職願を提出すること」という規定は違法ということになるのですか?
大熊社労士:
 いえいえ、その規定が直ちに無効になることはありません。多少、裁判例で見解が分かれているようですが、現状の一般的な解釈では、申出の期間があまりにも長くない限りには、就業規則が適用されると考えて問題ないとされています。
宮田部長:
 なるほど。確かに14日前にしなくてはならないということで、就業規則もこれに揃えて、実際にみんなが14日前にしか退職願を出さなくなると、現場は混乱をしてしまいます。
大熊社労士:
 確かにそうですよね。ただし、働く人にとっての大前提として「職業選択の自由」が認められているわけですし、退職すると決めた人をいつまでも強制的に働かせることはできないため、結果的に、会社は退職を認めざるを得ないという結論にはなるのですけどね。
服部社長服部社長:
 確かに大熊さんのおっしゃるとおりですね。常に会社が従業員と良好な関係を築き、何かあったときに早めに報告をしてくれるということが重要なのでしょうね。
大熊社労士:
 はい、おっしゃるとおりです。退職の申出が1ヶ月前では、引継ぎもままならないというケースも多くありますよね。やむを得ず、転職をするという人もいるかとは思いますが、そのときもできるだけ、早めに相談をしてもらって、退職日を相談できるような関係性を作っておきたいですよね。
宮田部長:
 そうですね。今回は上司から、総務への連絡が滞った事案なので、その点も良好にできるようにしておきます。ありがとうございました。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。今日は自己都合退職の申出時期について説明しました。自己都合退職の際に問題になる事項として、年次有給休暇のまとめ取りの問題があります。これについても、普段からの関係を良好にし、また、一方で年次有給休暇の取得を推奨することで「全然、年次有給休暇が取れない」という潜在的な不満をなくしておくことが大切になります。ちょっとした心がけにより、退職時のトラブルをなくすようにしておきましょう。


参考リンク
大阪労働局「退職・解雇・雇止め(Q&A)」
http://osaka-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/yokuaru_goshitsumon/jigyounushi/taisyoku.html
福岡労働局「労働条件 Q&A」
http://fukuoka-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/hourei_seido/qa02.html
鹿児島労働局「採用・退職・解雇・雇止め」
http://kagoshima-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/yokuaru_goshitsumon/qa07/0701.html

(宮武貴美)
http://blog.livedoor.jp/miyataketakami/

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