賞与を分割支給すると社会保険料が削減できるのですか?

 大熊が服部印刷に到着すると、久々に服部社長の顔が見えた。


大熊社労士:
 服部社長、お久しぶりですね。
服部社長:
 なかなか同席できずに申し訳ありません。同業者の工場の視察等もあり、なんだかんだ飛び回っていました。そうそう、そこで聞いた話で確認したいことがあり、今日は大熊さんを捕まえようと思っていたところでした。
大熊社労士:
 そうでしたか。それで、確認したいことというのはどのようなことですか?
服部社長服部社長:
 はい、社会保険料のことなのですが、社会保険料の負担は年々重くなっていますよね。会社の負担はもちろんのこと、従業員の負担も大きいなぁ、と思っています。そこで、社会保険料の削減対策に取り組んでいる社長がいて、興味を持ったのです。何か賞与をなくす、とか言っていましたね。あ、もちろん、私の基本は小手先の技を使うのではなく、払うべきものは払う、なんですけどね。
大熊社労士:
 なるほど。その話に関しては、ちょうど通達が出たところです。服部社長がお聞きになった社会保険料削減対策については、今後は問題視・・・ここではダメという表現にしましょうか・・・されると思います。
宮田部長:
 ん?今後は?
大熊社労士:
 えぇ、これまではやむを得ず問題ないと判断されてきたものが、今後は問題ですよ、となったのです。それでは具体的な話をしていきましょうか。
服部社長:
 よろしくお願いします。
大熊社労士:
 今回、ダメといわれた方法は、例えば年2回、6月と12月に支払われる賞与を分割して毎月の給与に上乗せしましょうというものです。そうなると賞与の保険料は当然、不要になりますよね、そもそも賞与自体がなくなるわけですから、保険料も当然かかりません。
福島さん:
 大熊先生、でも、それでは給与の標準報酬月額が上がって、毎月の保険料が増えてしまいますよね?
宮田部長宮田部長:
 だよね?たぶん、うちの会社でそんなことをしたら、従業員から「思ったより手取りが増えない!だから賞与も払ってくれ~!」って単純に手当の増額になり、賞与も払うことになり・・・・逆効果かも知れませんよ。私もそう言っちゃいそうです(笑)。
大熊社労士:
 はい、もちろん。賞与の額、そうですね。例えば、6月と12月に60万円ずつ払われている賞与を、12ヶ月で均等に割り、1ヶ月10万円を上乗せすると、1年を通して標準報酬月額が上がってしまって、結局、保険料の削減効果はほぼありません。
福島照美福島さん:
 他の残業手当などもあるので、なんともいえないですけど、そうですよね。少なくとも大幅に削減できるイメージはありません。もしかすると高くなる人もいるかも知れませんよね。
大熊社労士:
 ただ、その60万円ずつの賞与を均等ではなく、毎月の給与に上乗せすると・・・例えば、極端な例として、賞与手当として、2月から6月および8月から12月は500円を、1月および7月は597,500円を支給するというような形にすると・・・。
宮田部長:
 1月と7月に賞与が払われるみたいで、うれしくなります!小躍りしちゃうかも。あ、でも他の月は500円かぁ。お小遣い交渉が大変になりそうです。
福島さん:
 あ!月額変更するのですか?
大熊社労士大熊社労士:
 そうです!小躍りして交渉しながら、月額変更届を出すことになります(笑)。もう少し詳しく事例をみていきましょうね。月額変更は、固定的賃金の変動があった場合等に、変動月からの3ヶ月間に支給された給与を平均し、これまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差がある場合に、届出を出すことになります(実際には他の要件もあり)。先ほどの事例ですと、1月と7月には賞与手当が増加(500円から597,500円)したため、1月から3月、7月から9月の平均で月額変更の判断を行います。
服部社長:
 1月・7月の給料が高いために、当然、平均も高くなり、月額変更に該当しますよね?
大熊社労士:
 そうですね。4月と10月に増額の月額変更になりますね。そして、2月と8月には賞与手当が減額(597,500円から500円)したため、2月から4月、8月から10月の平均で月額変更の判断を行います。そうなると当然・・・
宮田部長:
 5月と11月に減額の月額変更になる!
大熊社労士:
 このケースですと、年間2ヶ月(4月と10月)は高い標準報酬月額ですが、逆に10ヶ月は低い標準報酬月額になります。賞与は支給されない(月給に振り分けられる)ので、賞与の保険料も発生しないことになります。さらには、算定基礎も4月から6月の賞与手当の低い時期に該当するので、算定基礎で標準報酬月額が高くなることもありません。
服部社長:
 なるほど。確かに社会保険料の
削減にはなりますね。ただ、私には法律の抜け道を通る、法のもともとの主旨を逸脱した内容に見えます。
大熊社労士:
 そうですね、私も同感です。厚生労働省も同じ判断をしたため、今回の通達で、ダメなケースとして整理したのでしょう。
福島さん:
 今後、大熊先生のおっしゃった事例のように支給しているとどうなりますか?
大熊社労士:
 はい、給与規定等により賞与等を分割して毎月支給する場合については、毎月支給される通常の報酬には含めないことになります。その上で、保険料を計算するときの報酬額の算定は、年間を通じ4回以上支給される賞与として、年間の支給額の総額を12で割って計算することになるようです。たまたま賞与が12ヶ月払われたよ、っていう取り扱いですね。
服部社長:
 いずれにしても、これまでのようには行かないということですね。よく分かりました。ありがとうございました。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。今回の取り扱いの変更は、以前、発出された通達を見直し、その一部を変更することで、このような取り扱いがされることになりました。適用は平成27年10月1日で既に始まっています。


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2015年11月12日「【続報】賞与を分割支給する社会保険料節減スキームへの具体的対応事例」
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2015年11月10日「厚労省 賞与を分割支給する社会保険料節減スキーム対策についての通知を発出」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/52089297.html
2015年11月9日「厚生労働省 社会保険逃れの手法に「待った!」」
http://blog.livedoor.jp/otsuakinori/archives/45944540.html

(宮武貴美)
http://blog.livedoor.jp/miyataketakami/

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