労働時間適正把握ガイドライン(1)労働時間ってなんですか?

 ここ数ヶ月、長時間労働に関する新聞記事が紙面を踊り、関心がこれまでにないほど高まっていることを気にしている大熊。今日は服部印刷で労働時間適正把握ガイドラインを説明することにした。


服部社長服部社長:
 大熊さん、先日まで同一労働同一賃金に関していろいろお聞きしていましたが、最近、新聞で労働時間の管理について厳格化されるようになったというような記事を見かけました。あれはどのようなことですか?
宮田部長:
 労働時間の管理?社長、うちの会社では仕事が終わったら、タイムカードをきちんと押すように徹底しているじゃないですか。きちんと把握できていますよね?
大熊社労士:
 社長がおっしゃっているのは、労働時間の適正把握に関するガイドラインのことですね。正確にお伝えすると、平成29年1月20日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が厚生労働省から示されました。このガイドラインが、ここのところ新聞を始めとしたメディアで取り上げられています。
服部社長:
 なるほど。そのようなものが出た影響なのですね。
大熊社労士:
 はい、そうです。このガイドラインですが、元になる通達が平成13年4月6日に発出されていました。「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」という通達です。
福島さん:
 確か、以前、参加したセミナーで、労働基準法では労働時間の把握方法までは書いていないけれど、通達で「タイムカードなどできちんと把握しなさい」と書いてあると耳にしたことがあります。その通達ですか?
大熊社労士:
 よく覚えていらっしゃいましたね。そうです。その通達がガイドラインになった形ですね。そもそもこのガイドラインが出た理由としては、広告関係会社に勤務していた女性新入社員が過労自殺したことに端を発します。政府では昨年(平成28年)末、「「過労死等ゼロ」緊急対策」を出し、違法な長時間労働の是正のために動き出しました。この対策の中で「企業向けに新たなガイドラインを定め、労働時間の適正把握を徹底する」としており、策定されたのがこのガイドラインです。
宮田部長:
 あぁ、社長が書類送検されたあの事件ですね。うちも服部社長がそんなことにならないようにしなくっちゃ、って思いましたね。
大熊社労士:
 宮田部長、書類送検されるのは、会社や社長だけでなくて、人事労務管理をしている長、つまり御社で言うと宮田部長も対象になるかも知れないので気をつけてくださいよ!
宮田部長:
 え、え、ええええ!!!そりゃまずい。じゃ、しっかり聞かないと。
大熊社労士:
 そうですよ、頼みますよ!このガイドラインですが、通達から変更になった部分や追加された部分がいくつかあります。私は3点ほど注目をしているので、それを順番に説明したいと思います。今日は1点目ですね。
福島さん:
 私もしっかり聞いておきますね。
大熊社労士:
 よろしくお願いします。まずは「労働時間の定義」です。これまで「労働時間」がどういう時間を指すのか、法令では定められておらず、裁判例を元に実務で運用されていました。今回、ガイドラインでは「労働時間の考え方」ということで示されています。


労働時間の考え方
 労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。


このように定められています。これまで参考にされてきた裁判例とほぼ同じ形の解釈です。
服部社長:
 「黙示の指示」という部分に注目しなければなりませんね。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。まぁ、この内容は先ほどから挙げている裁判例の内容ですので、注意しつつも「そんな感じ」という理解が多いかと思うのですが、問題はより具体的な例も挙げられているということです。具体的に挙げられているものを確認しておきますね。
使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわdゆる「手待時間」)
参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
 これらのような時間は、労働時間として扱わなければならないとされています。もちろん、これらだけではないので、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるのであれば、労働時間と判断されます。
服部社長:
 大熊さん、このってちょっと厳しくないですか?もちろん、業務に必要な研修は労働時間として当然扱うのだと思うのですが、例えば、「退職後のライフプランの研修を企画したので、55歳以上の人は将来の働き方を考えるために時間があれば受講してください」といった研修の場合、会社は任意と考えますが、従業員は「将来の働き方に関して考えるのだから、労働時間だ」なんていう可能性が出てきますよね?
宮田部長宮田部長:
 ということは、私が人事労務管理を行うものとして受験したらどうか、と社長に言われた社会保険労務士試験の勉強をする時間も労働時間とか・・・。
大熊社労士:
 そうなんです、どこまでがどういう取扱いになるかは個別具体的に判断することになっているので、いまの内容がOKかどうかは明確に線を引くことはできません。ただし、ライフプランの研修は働き方というよりもリタイア後の生活を見据えるためのものですから、業務にはつながらないでしょうし、社会保険労務士試験の勉強も、取得しなければ業務に差し障りがあるものではなく、あくまでもすすめられたというものですので、労働時間ではないのだろうと思いますよ。
福島照美福島さん:
 もし、本当に自己研鑽したい、自己啓発に力をいれるんだという従業員が、会社に勧められたものを一所懸命にしているのに、一方で労働基準監督署から「それは労働時間だ」なんていわれると会社にとっても従業員にとっても思わぬ結果ということになりかねませんよね。大熊先生が先ほど「問題」と表現されたのはそういうことなのですね。
大熊社労士:
 はい。もちろん、業務に必要不可欠な研修について、時間外で行うことは間違っていると思いますが、今回のガイドラインを見て、行きすぎになることを気にしています。
服部社長:
 そうですね。うちの研修のほとんどは時間内にやっているので、問題は発生しないと思いますが、従業員が自主的に勉強会を実施していることもあるようですので、気に掛けておこうと思います。
大熊社労士:
 そうですね。私自身も監督官と話す機会があれば、どの程度の指導を行っているのか、聞いておきたいと思います。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。今回より労働時間適正把握ガイドラインについて解説を始めました。ぜひ、ガイドライン全文も確認いただきたいものになっていますので、参考リンクよりご覧ください。


参考リンク
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/dl/151106-04.pdf
厚生労働省「長時間労働削減に向けた取組」
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/151106.html

(宮武貴美)
http://blog.livedoor.jp/miyataketakami/

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