また社会保険に加入するパートさんの範囲が拡大になるのですか?

 大熊が服部印刷に到着すると、宮田部長がいきなり質問をしてきた。


宮田部長:
 大熊先生、この4月からたいへんですよね。
大熊社労士:
 ん?どうかされましたか?
宮田部長宮田部長:
 いやね、うちのパートさんの一人から「4月から社会保険に加入することになるのですよね?」と確認があったのです。彼女は週25時間の勤務なので、現状、雇用保険には入っているのですけど、健康保険と厚生年金保険にも入らないといけなくなるのですよね?
大熊社労士:
 え?週25時間の勤務から変わらないのですよね?長くなりますか?
宮田部長:
 いえいえ、このまま1日5時間の1週間5日の勤務の予定です。
大熊社労士:
 それなら社会保険には加入しない人になりますよ。あ!適用拡大の話か!
宮田部長:
 そうそう、そのパートさんが「4月から制度が変わるから、自分も入らないといけなくなる」と言っていました。
大熊社労士大熊社労士:
 なるほど。確かに間違いではないのですが、きちんと整理をしておかないといけない内容ですね。現在は、正社員の所定労働日数・所定労働時間の4分の3以上のパートさんは、社会保険に加入することになっていますよね。そして、大企業・・・具体的に言うと社会保険の被保険者が501人以上の企業に勤務するパートさんの場合には、4分の3未満であっても、週の所定労働時間が20時間以上だったり、月収が88,000円以上だったりすると社会保険に加入することになっています。
福島さん:
 「特定適用事業所」というものですよね。
大熊社労士:
 そうですね。ですので、いまのままであれば、そのパートさんも社会保険には加入しなくてもよいことになっています。ただし、平成29年4月から新しい制度が始まるので、それに該当した場合には、そのパートさんも社会保険に加入する必要が出てくるかも知れません。
宮田部長:
 え!制度に該当するかどうか分からないのですか?
大熊社労士:
 ちょっと表現が不適切だったのかも知れません。該当するという表現をしたのは、会社が該当するかどうかを選ぶことができるからなのです。先ほど福島さんが「特定適用事業所」という言葉を出されましたが、この事業所になるかどうかは、社会保険の被保険者数が500人を超えるかどうかで決まります。その上で、御社のように500人以下の企業にとって、今回の制度変更は選択ができる仕組みになっています。「労使合意に基づく」という条件がついているからです。
福島照美福島さん:
 労使合意、ということは、会社と従業員が合意したことですよね。ということは「社会保険に入ろう!」と会社と従業員(パートさん)が同じ気持ちになったらということですか?
大熊社労士:
 そうですね。本来であれば、特定適用事業所以外の事業所・・・つまり社会保険の被保険者数が500人以下の事業所に勤務する4分の3未満のパートさんは社会保険に加入できません。ただ、会社も本人も入りたい・入ってもいいね、というのであれば入れてあげようということになるのです。ですので、その証明として、従業員の同意書を提出することになります
宮田部長:
 ということは、今回入社する新入社員の社会保険の手続きと一緒に、パートさんに同意書を書いてもらって、手続きをすることになるのですね。
大熊社労士:
 いえいえ、実は少し違っていますね。同意書は、そもそも特定適用事業所ではないけれども、特定適用事業所と同じようパートさんも社会保険に加入しますよ、という事業所の登録をする際に提出することになります。会社として「任意特定適用事業所 申出書/取消申出書」という用紙を出すことになるのですね。
福島さん:
 当社全体として、パートさんが社会保険に加入するかどうかを決めるということですね。
大熊社労士:
 はい、そうです。ですので、会社がその届出をした場合には、社会保険に加入する人・加入しない人というのを選別できなくなり、加入要件に該当した人は全員が加入することになります。
宮田部長:
 そっかぁ。そうなると、単純に「私は社会保険に加入したいので」という人に対応するだけではダメだし、逆に質問をしてきたパートさんについても、うちは対象ではないから入らないのだよ、という説明もできるということですね。
大熊社労士:
 はい、そうです。任意という表現も使われますが、その任意というのは会社という大くくりですので、注意が必要ですね。特に、社会保険料は半分を会社が負担していますし、税金よりも重い負担として従業員の方は感じますので、慎重に判断することが求められますね。
宮田部長:
 確かにそうですね。一度、社長にも話をしてみて、どうするか決めたいと思います。
福島さん:
 私のほうでも、任意適用事業所となると、どれくらいの社会保険料の負担が増えるのか、会社とパートさんお一人ずつと計算してみますね。
大熊社労士:
 そうですね。それがよいと思います。また、ご質問があれば、お願いしますね。
宮田部長:
 はい、ありがとうございました!

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。今日は社会保険の適用拡大についてお話しました。日本年金機構からは案内のリーフレットと「労使合意に基づく適用拡大Q&A集」も出ていますので、加入の検討の際の参考にしてもらえると思います。


参考リンク
日本年金機構「平成29年4月より短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用対象が広がります。」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2017/20170315.html

(宮武貴美)
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