年金をもらうのに必要な期間が短くなります

 服部印刷に到着した大熊を服部社長が待っていた。


服部社長:
 大熊さん、今日は年金のことをお聞きしたいと思っているのですが。
大熊社労士:
 年金ですか?服部社長のご質問としては珍しいですね。
服部社長服部社長:
 ええ、まだ私が年金をもらうまでには時間がありますし、そもそも年金をなるべくもらわずに生きていくことができるくらい、ずっと働いていたいと思っています。経営者はそう考えている人も少なからずいるみたいですけどね。ただ、いざもらえるとなると関心が高まるようでして(笑)。
大熊社労士:
 確かにいざ「受け取れますよ」となると「もらえるものならば」となるかも知れませんね。どなたかの手元に届いたのですか?
服部社長:
 そうなんですよ。知り合いの経営者の手元に届きましてね。それが、ずっと自営業で、年金に加入してこなかったらしいんですよね。その彼の元に年金がもらえるというような通知が届いたらしいのです。「なぜ、今更?」と疑問だという話になって、大熊さんに確認しようと思ったのです。
大熊社労士:
 なるほど。いまの話から察すると、今回、新たに年金がもらえるようになる方かも知れませね。
服部社長:
 いまからもらえる?彼は、確か昭和20年だったかの生まれで、既に70歳を超えてますよ。私の記憶だと年金は普通、遅くても65歳くらいからもらえるのではないですか?
大熊社労士:
 そうですね。繰り下げ等の手続きをしない限り、いまであれば、男性は63歳から支給が始まります。
服部社長:
 やっぱりそうですよね。
大熊社労士:
 ただ、年金を受給するために必要な年金加入期間が8月から短くなるのです。ですので、服部社長のお知り合いはおそらく、これに該当したのではないかと思われます。
宮田部長宮田部長:
 確か、年金って25年間はかけていないといけなかったのですよね?えっと40年かけると国民年金が満額もらえる、そんな感じではなかったでしょうか?
大熊社労士:
 えぇ、まさにそのとおりです。その25年というのが、今年8月から変更になるのです。
宮田部長:
 へぇ、5年くらい短くなるのですか?
大熊社労士:
 いえいえ、実は25年から10年になるのです。つまり15年短くなります。
宮田部長:
 えー!半分以下じゃないですか!そんなことしていいんですか?年金ってだだでさえ財源がないとかじゃなかったですか?
大熊社労士:
 確かに心配になりますよね。ただ、25年だと問題になっていたこともあるのです。無年金者の問題です。
服部社長:
 なるほど。確かに私の知り合いも70歳を超えたけれども、年金はもらえないし、子どもには頼れないし、仕事を辞めるわけにはいかないと。高齢になって、そのような状態だと生活保護も増えるでしょうしね・・・。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。そのような事情もあり、法律が改正され、年金を受給するために必要な期間(保険料納付済等期間)が25年から10年にされたのです。ただし、宮田部長が心配されているとおり、財源の問題はあります。ですので、当初は消費税を10%に引上げて、財源にする予定でしたが、消費税の引き上げが見送られ、この年金受給資格期間の短縮の開始が見送られてきました。それが、さらに法律の改正により今年8月施行となったのです。
宮田部長:
 そういうことだったのですね。
大熊社労士:
 対象となる人の見込みは約40万人おり、1年度で約650億円の財源が必要になるという試算が出ていました。
服部社長:
 そういえば、「若いころは会社勤めを少ししていて、その後、独立開業をした。最初のころは年金のことなど考えもせずに、年金の保険料まで削減し働き続け、いざ、気づいたときには頑張ってももらえるまで(25年)加入できるような状態ではなかったから、そのまま未納として過ごした」なんて、その社長は話していたなぁ。
大熊社労士:
 確かにその社長のような場合には、まだこの10年に短縮の話もなかったので、そのような判断をする人もいたのでしょうね。ただ、例えば、10年だけの保険料納付済み期間だとすると、年金額はわずかでしょうから、なかなかそれで生活をしていくというのは難しいのかも知れませんね。
服部社長:
 なるほど、そのような問題もあ
るのですね。
宮田部長:
 そういえば、今日は休んでいる福島さんが、保険料の免除などについて聞きたいと話していました。今度、そのお話をしてもらえませんか?
大熊社労士:
 承知しました。予定しておきますね。
服部社長:
 私からは、知り合いの社長に今日の話をかいつまんでしておきますね。ありがとうございました。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。今回の年金受給資格期間の短縮で新たに年金が支給される人については、日本年金機構から年金請求書が送付されてきます。生年月日により送付時期が分かれており、今年の2月下旬から7月下旬まで5回に亘り送付されてきますので、届いた場合には適切に請求手続きをしましょう。


参考リンク
日本年金機構「必要な資格期間が25年から10年に短縮されます」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/tansyuku/20170201.html
厚生年金保険「新たに年金を受けとれる方が増えます(受給資格期間25年→10年)」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000143356.html

(宮武貴美)
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