仕事中にぎっくり腰になったら労災保険の対象になりますか?

 時間ぎりぎりに服部印刷に着いた大熊は急ぎ足で玄関に向かい、受付で宮田部長を呼び出したところ、福島さんが迎え入れてくれた。


福島さん:
 大熊先生、おはようございます。宮田ですが、もう少ししたら参りますので、少々お待ちください。

—- 廊下の先に視線を送ると、宮田部長がそろりそろりと歩いてきた —-

宮田部長:
 おはようございます。あいたたたた。大熊先生、腰を痛めてしまいましてね。
大熊社労士:
 そうですか、それは大変ですね。歩くのも痛そうですし、椅子に腰掛けるのも大変そうですね。
宮田部長:
 そうなんですよ。何をするにも時間がかかって。ただ、重要な会議が入っているので、今日は休むわけにもいかず。
福島さん:
 会議は昼からなので、そのときだけ出てきたらどうですか?と提案したのですが、大熊先生に腰のことを聞きたいから朝から来る、と言って聞かなかったのですよ。
大熊社労士:
 あらら。なんだか福島さん、宮田部長の母親みたいな口調ですね。さてさて、私に聞きたい腰のことってなんですか?
宮田部長:
 実はこれ、昨日、重い荷物を持ち上げようとしたときに、「ぐきっ」となってしまいまして。ぎっくり腰のようなのです。それで、その荷物というのが、工場の重い工具だったのです。
大熊社労士:
 工場ということは、仕事中だったのですね。
宮田部長宮田部長:
 えぇ。夕方、工場で危険な箇所がないかを確認するために見回りをしていたのですけどね、出しっぱなしの工具があり、誰もいなかったので、片付けておこうと工具箱を持ち上げたら思いのほか重くて。たぶん、あれ、30キロくらいあったんじゃないかな?
大熊社労士:
 それは重いですね。おそらく、そんなに重くないだろうと想像されて持ったのですよね?
宮田部長:
 そうなんです。気軽にひょいとやったらこんなことに。その後、病院にも行ったのですが、ふとこれって労災かな?と疑問に思ったのです。
大熊社労士:
 なるほど、そうでしたか。う~ん、労災かどうかはとても微妙な判断になるかもしれません。というのも、腰痛は通常生活でも発生しやすいものですので、すべてが労災として認められるわけではないのです。ただ、もちろん、労災に該当するものもあります。具体的には以下の2つの要件が示されています。そして、これらの両方を満たす必要があります。
腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること
福島さん:
 トラックの運転手さんが腰痛だ、というのは対象にならないということですよね。
大熊社労士大熊社労士:
 いま説明したのは「災害性の原因による腰痛」になります。この他に「災害性の原因によらない腰痛」というのもあり、突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取扱う仕事など腰に過度の負担のかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるものは労災になるとされています。
宮田部長:
 なんだか判断する要素があって、難しいのですね。ところで、私の腰の場合はどうなんでしょうか?
大熊社労士:
 一般的に、ぎっくり腰と呼ばれる急性腰痛症は、日常の動作の中で生じるため、仕事中になったとしても、労災として認められないとされています。ただし、発症時の動作や姿勢が異常であり、腰へ強い力がかかった場合には、労災として認められることがあります。今回は、予想以上に重い工具箱を持ち上げるということでの発症ですので、認められる可能性はあると思いますよ。
宮田部長:
 なるほど。特に持病で腰痛があったわけでもないですし、不注意ですが、原因は工具箱を持ち上げようとしたことなので、一度、労災で申請してみたいと思います。
大熊社労士:
 そうですね。その状況であれば、申請してみることもひとつだと思います。最終的には労働基準監督署の署長の判断ということになりますので、認められない可能性もありますので、ご注意くださいね。
福島照美福島さん:
 それでは私の方で書類を作成して、宮田部長に接骨院に持っていってもらいます。もし、認定がおりなければ健康保険に切り替えることになりますね。
大熊社労士:
 はい。それでお願いします。
宮田部長:
 福島さん、すまないね。
福島さん:
 いえいえ、部長は大事にして早く治してくださいね。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。腰痛の労災認定については、厚生労働省から説明のリーフレットが出ているので、参考にしてみてください。なお、長距離トラックの運転業務の腰痛については長時間立ち上がることができず、同一の姿勢を持続して行った状況が、比較的短期間(約3ヶ月以上)従事したことによる筋肉等の疲労を原因として発症していれば、労災の対象になるとこのリーフレットでは説明されています。


参考リンク
厚生労働省「腰痛の労災認定」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/111222-01.html

(宮武貴美)
http://blog.livedoor.jp/miyataketakami/

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