永年勤続表彰金は労働保険や社会保険の対象になりますか?

 先日、大熊より年度更新の話があったことから、福島さんは早速年度更新の賃金集計を始めた。
先日のblog記事はこちら
2018年5月7日「今年の労働保険年度更新手続きでは何か変更点がありますか?」
https://roumu.com/archives/65795979.html


福島さん:
 こんにちは、先生。先日より年度更新の賃金集計を始めました。
大熊社労士:
 早めに取り掛かったのですね。さすがです。
福島さん:
 ありがとうございます。ところが、早速、疑問が出て来てしまいました。
大熊社労士:
 はい、何でしょうか?
福島照美福島さん:
 昨年から永年勤続表彰金を支払うことになり、給与台帳にも記載があるのですが、この永年勤続表彰金は労働保険の賃金に含める必要があるのでしょうか?
大熊社労士:
 そうだったのですね。ちなみにそれはどのような運用をされているのですか?
宮田部長:
 今回、勤続10年以上の者を対象として、20年、30年と10年刻みで該当者を表彰し、表彰金を支給しました。
大熊社労士:
 なるほど。それは素晴らしいですね。自社で永く勤務してもらいたいという目的で、永年勤続表彰制度を復活、または新たに設ける会社も増えてきています。永年勤続表彰金は、労働保険では原則賃金に含めなくてよいのですが、実態も確認したいので、表彰金の金額も教えてもらえますか?
宮田部長:
 はい、10年は3万円、20年は5万円、30年は10万円、そして40年が20万円です。
大熊社労士:
 そうですか。その金額であれば特に高額という訳ではありませんし、いわゆる祝金として社会通念上の範囲を超えるような金額ではないですね。結論としては、賃金に含めなくてよいということになるでしょう。
福島さん:
 そうですか。賃金として含めなくてよいのですね。でも…、給与台帳を再度確認したら、永年勤続表彰金の金額も含めて雇用保険料を算出しています。雇用保険料を多く天引きしてしまっているということですよね?
大熊社労士:
 そのようですね。永年勤続表彰金は雇用保険料の対象にはなりませんから、その金額分の雇用保険料を対象者に戻す必要がありますね。
福島さん:
 はい、わかりました。給与計算ソフトも、永年勤続表彰金を雇用保険料の対象にしてしまっているので、マスターを修正します。
宮田部長宮田部長:
 そうすると、この永年勤続表彰金は社会保険も対象にならないということでいいですよね?
大熊社労士:
 はい、御社の場合はそう考えてよいと思います。この永年勤続表彰金について、社会保険の対象となるかどうか、過去に社会保険審査会で裁決された事案があります(平成18年9月29日社会保険審査会裁決)。当時の社会保険事務所が永年勤続表彰金に係る賞与支払届が未届となっているとして、その会社に賞与支払届の提出を督促し提出させたというものです。
福島さん:
 永年勤続表彰金は毎月支給されるものではないから、賞与として届出を求めたってことですね?
大熊社労士:
 そうなんです。その会社は社会保険事務所の求めに応じ、賞与支払届を提出したのですが、それを不服として社会保険審査会に審査請求をしました。
宮田部長:
 それでどうなったのですか?
大熊社労士:
 はい、その社会保険審査会の裁決では、次の理由によって、賞与として取り扱わなくともよいとしました。
一定の勤続年数に達した者を永年勤続者とし、職種、労務の内容に関係なく、一律に支給するものとされている。
永年勤続者の表彰は会社の創立記念日に行われ、該当者には心身のリフレッシュを図る目的で5日間の特別休暇が与えられ、休暇付与に伴う資金援助の性質を持つものとして本件表彰金が支給されるとされている。
支払われる金額も社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えるといい難い…等
 ちなみに、の金額は、10年が12万円、20年が18万円、30年が24万円、40年が24万円でした。
福島さん:
 そうすると、我が社の場合はの特別休暇制度は該当しませんが、には該当しています。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。社会保険の報酬となるかどうかは、「労働者が労働の対償として受けるもの」や、「労働者の通常の生計に充てられるもの」という観点でも判断されますが、御社の永年勤続表彰金はそれらにも該当しませんので、結果、社会保険も賞与として届出しなくてもよいということになります。
福島さん:
 賞与支払届が必要となるかどうかまで、考えが及びませんでしたので、今日先生に確認できて、よかったです。
大熊社労士:
 この永年勤続表彰金の取扱いについて、もう一度整理しますね。労働保険については、「就業規則・労働協約等の定めがあるとないとを問わず賃金とはならない」と厚生労働省の年度更新のパンフレットにも記載があります。一方で社会保険については、一律賞与の取扱いにはならないという訳ではなく、回数や就業規則の規定、上記に照らし合わせ、いくつかの条件で判断されます。労働保険と社会保険では取扱いが違うことにも注意が必要です。
宮田部長:
 なんだか、ややこしいですね。
福島さん:
 でも、我が社の場合、いずれも労働保険、社会保険の対象ではないという結論ですから、早速、間違って雇用保険料の対象としてしまった保険料の差額調整をします。
大熊社労士:
 はい、そうしてください。また、不明点でてきましたら、いつでも連絡ください。
福島さん:
 はい、よろしくお願いします!

>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。年度更新の計算を進める時期になりました。賃金総額の集計では、賃金に含めるもの、含めないものの区分けをする必要があります。永年勤続表彰金は、原則労働保険の賃金の対象外として取扱いますが、社会保険は、上記①~③の基準等を参考に判断されることになります。名目上永年勤続表彰金で支給されていても、実際は評価や業績等に基づき支給される性格のものであれば、労働保険や社会保険料の対象となりますので、支給目的等をよく確認したうえで、賃金となるか、ならないかの区分を行うようにしましょう。


関連blog記事
2018年5月7日「今年の労働保険年度更新手続きでは何か変更点がありますか?」
https://roumu.com/archives/65795979.html

参考リンク
厚生労働省「労働保険徴収関係リーフレット一覧」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/hoken/gyousei/index.html

(小浜ますみ)

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