自己申告による労働時間の把握が厳格化されるのですか?
2月も中旬となり、働き方改革関連法の施行が近づいてきた。
大熊社労士:
おはようございます。
服部社長:
大熊さん、おはようございます。ここに来て、梅の花も咲き始めるなど、少しづつ春めいてきましたね。ということは働き方改革関連法の施行も間近ということになりますね。
大熊社労士:
そうですね。御社では年休取得義務化の対応など、しっかり対応されているので問題ないと思いますが、先週も同一労働同一賃金に関して、非正規従業員について賞与の支給を命じる高裁判決などもあり、更なる対応を検討しなければならない状態となってきました。
服部社長:
非正規従業員に対して賞与の支給ですか。当社の場合はほとんど正社員なのでその問題はあまり大きくはないのですが、非正規が多い会社では大変な問題となりそうですね。
大熊社労士:
本当にそうですね。さてさて、今日は昨年末に発出された働き方改革に関連する通達で注目の内容がありますので、お話ししたいと思います。
宮田部長:
それはどんな内容なのですか?また4月までに対応しなければならない事項が増えるとちょっと大変なんですけど…。
大熊社労士:
残念ながら4月の法改正に関する内容です。通達の名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法及びじん肺法関係の解釈等について(基発1228第16号 平成30年12月28日)」となります。
宮田部長:
ひやぁー、難しそうです。
大熊社労士:
要は労働安全衛生法に関する通達なのですが、私が注目したのは、労働時間の状況の把握(新安衛法第66条の8の3並びに新安衛則第52条の7の3第1項及び第2項関係)の問12「労働時間の状況の把握方法について、やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合とは、どのようなものか。」という内容です。
福島さん:
具体的にはどのような内容なのでしょうか?
大熊社労士:
今回の安衛法の改正では、すべての労働者について、原則としてタイムカード、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録、事業者の現認等の客観的な記録により、労働者の労働日ごとの出退勤時刻等を把握しなければならないとされました。その際、「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」には自己申告制が例外的に認められるとされています。
福島さん:
ということはこの問12は、自己申告制が認められる場合という風に理解すればよろしいのでしょうか?
大熊社労士:
福島さん、すごい。そのとおりです。それでは通達におけるその答を見ていきましょう。段落として3つのパートに分かれており、まず最初の段落では、一般論が述べられています。
「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」としては、例えば、労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合など、事業者の現認を含め、労働時間の状況を客観的に把握する手段がない場合があり、この場合に該当するかは、当該労働者の働き方の実態や法の趣旨を踏まえ、適切な方法を個別に判断すること。
福島さん:
「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」とは、まずは直行直帰などの場合が想定されているということですね。
大熊社労士:
そうです。その上で問題となるのが次の段落。ここでは、直行直帰などにより事業場外で勤務する場合の取り扱いが述べられています。
ただし、労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合などにおいても、例えば、事業場外から社内システムにアクセスすることが可能であり、客観的な方法による労働時間の状況を把握できる場合もあるため、直行又は直帰であることのみを理由として、自己申告により労働時間の状況を把握することは、認められない。
宮田部長:
これってすごく厳しい内容ではないですか?いまどき、普通にスマホやパソコンを持っていて、社外からもモバイルでグループウェアに接続して報告書を登録するなんていうのは当たり前に行われていますよね?
大熊社労士:
そうなんです。そのような場合には「自己申告により労働時間の状況を把握することは、認められない」とされているのです。現実的にどの程度の指導が行われるのかはまだ分かりませんが、営業職などの外勤者の労働時間の把握についても、アクセスログなどに基づいて行うことが求められる可能性は高いのではないかと考えています。そして内勤者について述べられているのが、最後の段落です。
また、タイムカードによる出退勤時刻や入退室時刻の記録やパーソナルコンピュータの使用時間の記録などのデータを有する場合や事業者の現認により当該労働者の労働時間を把握できる場合にもかかわらず、自己申告による把握のみにより労働時間の状況を把握することは、認められない。
福島さん:
あらら、この内容ですと、事務職のほとんどで自己申告は認められないとなりそうですね。当社の場合はタイムカードで把握しているので問題はないですけど。
大熊社労士:
そうですね。小規模な事業所などではタイムレコーダーの導入にもコストがかかるということで、自己申告での労働時間把握が行われていることが多いですが、このあたりにも指導が入ることになるかも知れません。
服部社長:
なるほど。時代の変化を感じさせる通達ですね。
大熊社労士:
同感です。このように労働時間管理は、IT化やモバイル化によって変化していくのでしょうね。4月以降、労働基準監督署がどのような姿勢で指導するのかはまだ分からないところはありますが、自己申告のみで対応しているケースではそろそろ見直しが求められそうです。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今日は昨年末に発出された労働安全衛生法の通達から、自己申告による労働時間把握に関する内容を取り上げました。過重労働対策を進めるためには労働時間の状況の把握がこれまで以上に重要になるのは間違いありません。自己申告制で把握している企業はもちろんのこと、それ以外の企業でも、労働時間の実態との乖離がないかなど確認と是正を行うようにしていきましょう。
関連blog記事
2019年1月8日「働き方改革関連法 改正労働基準法・改正労働安全衛生法等のQ&Aが掲載された通達が発出!」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/52164368.html
参考リンク
厚生労働省「「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00001.html
(大津章敬)
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