海外派遣者の社保取扱い(1)健康保険・厚生年金保険の適用

 世界経済のグローバル化に伴い、日本国内の従業員を海外へ派遣するケースが増加しています。このような従業員への社会保険や労働保険の適用について、国内事業所のままでよいのか、それとも海外派遣先の事業所で新たに加入しなければならないのか判断に迷うことがあります。そこで今回から数回に分けて、海外派遣者の社会保険や労働保険の取扱いについて取り上げたいと思います。第1回目の本日は、海外派遣者の健康保険・厚生年金保険の適用についてお話します。


 原則として、海外派遣者への健康保険・厚生年金保険の適用については、海外派遣期間の長短に関係なく、当該派遣者に対する指揮監督や報酬の支払いなどの使用関係によって判断されます。直接の使用関係が国内の事業所にある場合は、被保険者資格がそのまま継続される一方、国内の事業所との使用関係が事実上消滅し、海外派遣先にて使用関係が認められる場合は、海外での勤務期間の長短に関係なく、被保険者資格を喪失することとなります。このような場合には、被保険者が退職した際と同様に、資格喪失届を管轄の年金事務所あるいは健康保険組合に提出しなければなりません。


 ただし、社会保障協定が締結されている国へ派遣する場合には、就労状況や派遣期間により以下のような取扱いとなります。
5年以内と見込まれる一時派遣
 日本の社会保障制度へ加入
派遣期間が予見できない事情により5年を超える場合
 原則、協定相手国の社会保障制度へ加入。両国の合意が得られた場合には、日本の社会保障制度へ加入
5年を超えると見込まれる長期派遣
 協定相手国の社会保障制度へ加入


 したがって従業員を海外へ派遣する際には、人事管理等の使用関係が国内・海外のいずれかあるかを総合的に判断することと共に、派遣先が社会保障協定の締結国であるかを確認する必要があります。次回は、この社会保障協定について、その概要と協定相手国で就労する場合の手続きについて取り上げたいと思います。


[関連法規]
健康保険法 第35条(資格取得の時期)
 被保険者(任意継続被保険者を除く。以下この条から第38条までにおいて同じ。)は、適用事業所に使用されるに至った日若しくはその使用される事業所が適用事業所となった日又は第3条第1項ただし書の規定に該当しなくなった日から、被保険者の資格を取得する。


健康保険法 第36条(資格喪失の時期)
 被保険者は、次の各号のいずれかに該当するに至った日の翌日(その事実があった日に更に前条に該当するに至ったときは、その日)から、被保険者の資格を喪失する。
1.死亡したとき。
2.その事業所に使用されなくなったとき。
3.第3条第1項ただし書の規定に該当するに至ったとき。
4.第33条第1項の認可があったとき。



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(佐藤浩子)


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