副業者の労災保険の取扱い③給付額(平均賃金)の算出の際の留意点

 先週まで2回にわたって説明してきた副業者で労災事故が発生したときの取扱いの説明も今日で終わりにさせようと思い、大熊は服部印刷に向かった。

↓前回の記事はこちらから!
2020年9月7日「副業者の労災保険の取扱い①給付額の決定における賃金の合算」
https://roumu.com/archives/104278.html
2020年9月14日「副業者の労災保険の取扱い②請求書の記載と書類の流れ」
https://roumu.com/archives/104362.html


大熊社労士
 おはようございます。9月に入り、中旬も過ぎると涼しいということばがちょうどあうようになりましたね。
宮田部長宮田部長
 本当にこの気温差に体力が失われる思いですよ。
大熊社労士
 今日は前回の続きで、副業者がいずれか一方の勤務先で労災事故にあって休むことになった場合の給付額の算出について、注意事項をお話しておきましょう。
宮田部長
 え~、まだ注意事項があるのですか!?
大熊社労士
 そうなんです。でも、今日が最終回ですので、許してくださいね。
福島さん
 しっかり学びたいと思います。
大熊社労士
 さて、注意事項というのは平均賃金の算出方法なのです。
宮田部長
 え?平均賃金!?平均賃金って、事故が発生した前3ヶ月間の給料の総額を、総暦日数で割るってやつですよね?う~ん、2か所以上で働いているのだから、働いている会社の総支給額を全部足して、暦日数で割る!?ん!?
大熊社労士
 実際に計算しようとすると迷いますよね。まず、基本的な考え方は1か所のみで勤務している場合の平均賃金の算出方法と変わりありません。つまり、算定事由発生日から前3ヶ月間に支払われた賃金(賃金締切日がある場合は、直近の賃金締切日から前3ヶ月間)を基礎に算定することになります。賃金締切日は会社ごとによって異なる可能性が高いため、それぞれの賃金締切日で考えることがまずはポイントですね。
宮田部長
 なるほど。
大熊社労士
 これに加えて、退職後に給付をうけるときの考え方や、労災事故が発生していない会社を少し前に退職していた場合の考え方等、事例を考え始めるとかなり細かいものが出てきます。
福島照美福島さん
 かなり奥深そうですね。
大熊社労士
 おっしゃるとおりです。就業先が2か所以上ある場合には、かなり細かく見ていく必要がありそうです。
宮田部長
 そりゃたいへんだ。
大熊社労士
 そして、注意しなければならない点が、平均賃金の最低保障額です。月給者だと該当する例は多くはないのですが、時給や日給等、働いた時間数や日数に応じて賃金額が変わる場合、最低保障額も算出しますよね。
福島さん
 はい。3ヶ月間に支払われた賃金額の合計額を暦日数ではなく、出勤日数等の賃金が支払われる基となった日数で割って、0.6を掛けるというものですよね。
大熊社労士
 そうですね。それを暦日数で割ったものと比較し、高い方を平均賃金とするというものです。
福島さん
 確か、出勤日数等が少ないと原則の平均賃金の算出方法がすごく低額になってしまうから、それを回避するためのものでしたよね。
大熊社労士
 そうですね。例えば、週1日、時給1,200円で5時間働くとなると、1ヶ月4日~5日出勤で、24,000円~30,000円程度。これを暦日数の計算式で割ってしまうと、1日1,000円以下とかの平均賃金になっていまいますからね。
宮田部長
 なるほど、そうですね。
大熊社労士大熊社労士
 ただし、この副業者の労災保険の給付では、最低保障額を適用せずに合算し、各会社の平均賃金の最低保障額が合算後の額より高い場合は、給付基礎日額は各会社の平均賃金の最低保障額のうち最も高い額にすることになっています。
福島さん
 確かに各会社の最低保障額で計算すると高い額になる可能性もありますよね。
大熊社労士
 実際に、事案を抱えないとなかなか理解は難しいかもしれませんが、頭の片隅に置いておくとよさそうですね。
福島さん
 そうですね、ありがとうございます!

>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
 おはようございます。大熊です。副業者の労災事故発生時の対応について説明をしてきましたが、実際に該当する事案の時には、厚生労働省から公開されているパンフレットを確認して実務に当たるようにするとよいでしょう。
2020年8月27日「複数事業労働者への労災保険給付わかりやすい解説」
https://roumu.com/archives/104148.html


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参考リンク
厚生労働省「労働者災害補償保険法の改正について~複数の会社等で働かれている方への保険給付が変わります~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihukugyou.html
(宮武貴美)