パートや契約社員の正社員登用制度は導入したほうがよいのですか?

 大熊は服部印刷に向かう途中、先週出た最高裁判決により、今週から、同一労働同一賃金の対応が忙しくなるであろうと予測していた。


服部社長服部社長
 大熊さん、先週はメディア報道が賑やかでしたね。
大熊社労士
 同一労働同一賃金の最高裁判決の件ですね。1週間に5つの判例が言い渡されましたので、注目を浴びることは必然ですね。ちなみに、判決文は以下から確認できますので、よろしければご確認ください。
・大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件
https://roumu.com/archives/104723.html
・日本郵便事件
https://roumu.com/archives/104765.html
宮田部長
 新聞の見出しから、「非正規に賞与や退職金を払う必要はないよ、でも、手当はしっかりと払ってね」と読めたのですが、本当にパートさんに賞与とか払う必要はないのですか?
大熊社労士
 メディア報道はどうしても結論にスポットを当てるので、そのようにとらえる方も多いかと思うのですが、あくまでも裁判例であって、その結論だけを切り取ることは危険です。慎重にどのような経緯でその判断になったのか、中身を見ていく必要があります。
福島さん
 私がSNSで「正社員等への登用制度が重要になるよ」という発言を見たので、やっぱりそういうチャンスを与えることって重要なのかなと感じていました。
大熊社労士
 そうですね。判例の中身の細かな解説はしませんが、大阪医科薬科大学事件でも、メトロコマース事件でも、正社員への登用制度が設けられていて、確かに一つのポイントになったように感じています。
服部社長
 そういえば、当社にも正社員の登用制度のようなものがあった気がするなぁ。
福島さん
 はい。うちはパートさんが少ないので、そもそも対象者が少なく、また、応募者もいないので登用制度は形だけになっていますよね。
宮田部長宮田部長
 じゃ、その制度は廃止しちゃったほうがいいんじゃないですか、ねぇ、大熊先生!
大熊社労士
 確かに制度は形だけ作っても意味はないのですが、対象者がいなかったりするということですよね?であれば、今後、対象者が出てくる可能性もありますし、制度は残しておいたほうがよいです。何よりパートタイム・有期雇用労働法13条には、「通常の労働者への転換の推進」ということで、正社員へ転換するチャンスを整えることが会社に義務づけられています。
宮田部長
 へぇ。だから当社に正社員登用制度があるのですね。
大熊社労士大熊社労士
 はい、そうだと思いますよ。ただ、この「通常の労働者への転換の推進」としての選択肢は正社員登用制度の導入だけではありません。以下のいずれかの措置を講じることになっています。
 ①正社員を募集する場合、その募集内容を既に雇っているパート等に周知する
 ②正社員のポストを社内公募する場合、既に雇っているパート等にも応募する機会を与える
 ③パート等にが正社員へ転換するための試験制度を設ける
 ④その他正社員への転換を推進するための措置を講ずる
服部社長
 大熊さん、少し気になったこととして、「正社員にすること」は求められないのですか?
大熊社労士
 はい。現状では、通常の労働者への転換の推進することの義務付けに留まりますので、結果として誰も転換しなかったことが直ちに問題になるわけではありません。ただし、長期間に亘って転換する人が出てこないということは、本当に推進がされているのかという疑問が出てくるので、制度がきちんと運用されているのかを検証する必要があるのでしょうね。
宮田部長
 当社のパートさんは、扶養の範囲内で働きたいという人も多いですし、時間や働く日数について融通が利くようにしてほしいという要望も多いので、あまり問題にならないような感じがしますが、少し気にしておいた方がよさそうですね。
福島照美福島さん
 私も正社員の登用制度があるということを、積極的に伝えるようにしていきますね。
服部社長
 そうだね。パートさんの意見も聞きながら、意欲と能力のあるパートさんは正社員登用をしてさらに活躍してもらうようにしよう。
大熊社労士
 ぜひ、よろしくお願いします!
>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス おはようございます。大熊です。最高裁判決では、その結果の一部のみに注目が行きがちですが、事案の内容・経緯、そして最終的な判断等、全体を見る必要があります。ぜひ、以下のセミナー等で具体的な判例の内容と対応すべき点を確認してくださいね。

■11月11日ウェビナー・11月16日配信
倉重公太朗弁護士による
「【緊急開催】同一労働同一賃金に関する最高裁判決を受けた企業実務対応」
https://lcgjapan.com/seminar/kurashige20201111/
■11月25日(水)東京開催+12月2日(水)頃オンデマンド(録画)配信予定
棗一郎弁護士による
「労働契約法20条(均等均衡原則)にかかる最高裁5判決を受けて企業に求められる具体的対応」
https://lcgjapan.com/seminar/sr-natsume20201125/
■11月16日ウェビナー・12月1日ごろ配信
大津章敬による
「同一労働同一賃金の最新情報と来春に向けて求められる実務対策」
https://www.roumu.co.jp/seminar/detail/00269/


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2020年10月16日「同一労働同一賃金の最高裁判決(日本郵便3事件) 判決文が公開」
https://roumu.com/archives/104765.html
2020年10月13日「同一労働同一賃金の最高裁判決(大阪医科大学事件・メトロコマース事件) 判決文が公開」
https://roumu.com/archives/104723.html
参考リンク
厚生労働省「パートタイム労働法のあらまし」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061842.html
(宮武貴美)